見えない貴方の背を追いかける
えー…結論から言いますと、海賊の心臓を100個集め終わりました。何とか、無事に。…無事にって言っていいのかよくわからないけど。
予想よりはずっと早く集め終わったものの、次はこれを海軍本部へ送り届けなければいけないんですよねー。え、海軍本部まで行くの?これを持って?……大丈夫なのかな、それ。まぁ、それを指摘した所でんじゃどーすんだ?って話にしかならんので、黙るけれども。
でも正直な話、突然海軍本部に海賊がやってきたら大混乱のち大騒ぎのち大乱闘って感じになると思うのよ。こっちも血の気多い自覚はあるけど、海軍だって血の気が多い奴だってごまんといるから。そもそも海賊を目の敵にし、捕まえてやる!って奴の集まりなんだからさ?海賊が現れりゃ、そりゃあ大人しく「何の用だ?」とは聞いてくれないと思うんですよねー。先に得物向けられたら、こっちだって応戦するよ。死にたくないし、捕まりたくもないもの。
「海軍本部に赴きやしねェよ」
「え?そなの?」
「確かにおれが直接行くのが手っ取り早い方法ではあるがな…どう転んでも面倒事になる未来しか見えねェだろ」
「……まぁ、そうだろうね。私でもそのくらい想像つくし」
では、あの心臓はどうするのだろう。今更、七武海に入るのはやめたって言うような人ではないし…能力で運ぶとか?いやいやいや…さすがにそれは無理だわ。海軍本部までどれくらい離れてるかわからないし、キャプテンの能力はそこまで万能でもチートでも―――あるにはあるけど!
でもあのサークルをそこまで広げるには、多大なる体力が持ってかれるだろうし、そんなバカなことはしないだろう。海軍本部を視界に捉えられる範囲まで行けば、それも可能だろうけれど。ということは、普通に送るのかな?お届け物でーすって。
「てか、さっきからキャプテンは何を書いてるの?」
「―――海兵に宛てた手紙といった所か」
「ああ、心臓と一緒に送るのか」
「アレだけ送った所で何のことだかわからねぇからな」
そりゃそうだ。突然、心臓100個(それもまだ動いてる)だけが届いたら阿鼻叫喚の大混乱だ。いや、要求が書かれた手紙が入っていたとしても阿鼻叫喚の大混乱は変わらないと思うけど。スプラッタだよね、開けてみたら心臓が出てきましたーなんて。トラウマになるわ、そんなもん。
海兵に同情する気なんて更々ないけれど、さすがにちょっと哀れだなぁとは思う。コレを受け取り、開ける羽目になる人を。ほんの少しだけ、ウチのキャプテンがごめんなさいって気持ちにはなるよね。うん。
「船長ー、梱包済みましたよ。もう釘で止めちまっていいっすか?」
「これを入れて封をしとけ」
「アイアーイ。封をしたら送っちまっていいんですよね」
「ああ、構わねぇ」
ひょっこり顔を出したバンちゃんは、キャプテンから手紙を受け取りリョーカイっす、と返事をしながら姿を消した。恐らく、向かった先は甲板だろう。バンちゃんとペンくんとシャッちゃんで、心臓の梱包をするって朝言っていたから。その周りには暇を持て余したクルーが興味本位で覗き込んでたり、手伝ったりしているんだろう。
わーわー騒ぎながら作業する皆を想像し、自然と口元が緩んだ。思わずふふっと声を出してしまい、広げたペンやら紙やらを片づけていたキャプテンが、眉間にシワを寄せこちらを見上げる。あ、しまった…この距離じゃ聞こえるに決まってるよね。反射的に口元を手で隠したけれど、それは今更ってやつだ。何の意味も、効力ももたない。
「なんだ、急に笑い出して」
「んん、甲板で騒ぎながら作業してるんだろーなって思ったら、つい」
「ああ…確かに、騒がしいだろうな」
キャプテンも容易に想像できたのだろう。眉間に寄ったシワは綺麗になくなり、頬杖をついて穏やかな笑みを浮かべた。頻度は低いけれど、今みたいな穏やかな笑みを浮かべることはある。それは決まってクルーのことを思っている時だ、と私は勝手に推測しているんだけれど。
見慣れない表情ではないはずなのに、どうして―――こんなに胸が締め付けられるの?苦しいの?…どうしてこんなに、悲しいの。
まるで、キャプテンが何処か遠くへ行ってしまうかのような…そんな予感が、胸の内で渦巻いている。いなくなってほしくなくて、私達を置いていってほしくなくて、発作的にキャプテンの腕に抱きついた。
「…今度はなんだ」
「何でもない。何でもないけど……っ」
言葉に、詰まる。どう説明すれば伝わるだろう、わかってもらえるだろう?私のこの漠然とした不安を。言葉にしたいのに、伝えたいのに、…この人を繋ぎ止めておきたいのに、何も言葉が出てこない。その代わりにとでもいうように溢れそうになる涙。グッと唇を噛み、それを隠すようにまた抱きつく力を強めた。
ただぎゅーっとしがみつき、何も言葉を発しようとしない私をキャプテンは決して無理に離そうとはしなくて。内心、邪魔だなぁとか思ってるかもしれないけれど…それでも私の好きなようにさせてくれるこの人は、どこまでも優しい。
「キャプテン、」
「…ああ、此処にいる」
「何処にも、行かないで。置いていかないで」
キャプテンは何も返してくれなかった。それが全ての答えのような、そんな気がしたんだ。
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