祈ることしか、
グランドラインの天候の移り変わりは、想像以上にひどかったしすごかった。さっきまで雲ひとつない晴天だったと思いきや、真っ黒な雲があっという間に空を覆い尽くしてスコールになったり。穏やかだった海に突然、大渦が現れたり、はたまた大時化になったり…目が回る程に忙しい。まだ天候だけならいいんだ、全員でそっちに集中できるから。最悪、海の中に潜っちまえばいいんだからな。こういう時、潜水艦っつーのは便利だと思う。いや、マジで。
しかし、天候の悪さと他船との戦闘が一気にやってきた時は―――それはもう、余計に大変なことになる。船の操縦に戦闘、それから大時化だっつーのに外で動き回る船長を追いかける役目もあるんだよな。ウチ。大時化の時は外に出ないでくれって何度も頼んでいるんだが、船長が出ないでどうするって言われちゃってな…今ではもうクルー全員が諦めていて、その代わり必ず誰かが傍にいることの許可をもらった。
そして今に至るんだが…その役目は、大体おれにくる。リズも立候補してるんだが、アイツじゃ力やら何やらが足りねぇ。いや、力は足りてる…身長だ、足りてねぇのは。
side:ペンギン
今日も今日とて奇襲を受けて応戦中なんだが、その最中にスコールと大時化にも襲われていたりする。船はすげぇ揺れるし、すげぇ勢いで降ってるスコールで視界は最悪だし、その中でもひっじょーに楽しそうに動き回っている船長を追いかけるのも一苦労だし…唯一救いなのは、奇襲を仕掛けてきた海賊団がものすっげぇ弱かったことだ。
船長があっちの船に乗り込んだから追いかけてきたけど、あっという間に終わっちまったんだよな。船長が強すぎるのか、それともあっちが弱すぎるのか最初はわからなかったが、あの敵船の船長の狼狽えっぷりを思い出してみると、あいつらが弱かった、ってことになるよな。うん。もちろん戦利品も有難く根こそぎ頂いて、船長の能力でポーラータング号へと戻ってきた。
甲板にいるのはびしょ濡れになっているハートのクルーのみ。敵船の奴らは1人も残っちゃいない。こっちも早々に片付いたらしいな。それを確認した船長が「ずらかるぞ!」と声を上げた。響き渡った船長命令に、クルーは武器片手に艦内へと消えていく。ひとまず潜水して、安定したらびしょ濡れの奴らを風呂に突っ込むか。滴り落ちる雫を拭っている船長の背を押し、艦内へ戻ろうとした時だった。船が大きく揺れ、ものすごい高さの波しぶきが上がる。まずい…!
怒られるのを覚悟してキャプテンに覆い被さった、海に嫌われているこの人が海水をこれ以上かぶらなくていいように。波に攫われてしまわぬように。他の奴らは大丈夫か?大半のクルーは中へ入ったはずだが、まだシャチとリズがいたような―――
「リズ!!」
グッとおれを押しのけ、キャプテンがアイツの名前を呼ぶ。
ハッと顔を上げた時にはもう遅い、彼女の小さな体は波に攫われて消えてしまった。シャチが手を伸ばしたけれど、掠ることもなくすり抜けて。おれはただその光景を、見ていることしかできなかった。
「ッ船長!とりあえず中に入ってください!」
「…離せペンギン」
「離せません!海に嫌われているアンタが追いかけてもどうにもならねぇし、この荒れようじゃ泳げたとしても無謀すぎる!!」
助けに行きたい気持ちはわかる。それこそ痛い程に。この人がどれだけリズを気に入っているか、可愛がっているか十分に知っているから。でもさすがに海へ飛び込もうとする船長を、見送るなんてことできるはずがないだろう!そんなことをしてみろ、おれは一生…自分を許すことなんてできねぇし、死にたくなる。この人を失うわけにはいかないんだ。
スコールに打たれたまま、じっと荒れている海を眺めていた船長は踵を返し、艦内へと消えていく。慌ててシャチと共にその背中を追えば、船長室ではなく操舵室へ向かっていることに気がついた。…成程、そういうことか。
「あ、船長。潜水で…ってびしょ濡れじゃないっすか!」
「いい、構うな。リズが海に落ちた、潜水して探知を開始しろ」
「えっ?!わ、わかりました!!」
とは言ったものの…対象が船でもない以上、アクティブソナーもパッシブソナーも意味を成さない。何年もこの潜水艦に乗っているんだ、船長を始めクルー全員がそんなことは理解している。
それでも、…それでも万が一、拾うことができるかもしれない。探知できるかもしれない。見つけることができるかもしれない。そんな希望が浮かんでは消えていく。諦められないんだ、リズは死んでいないってことを。必ず、見つけてやるって…きっと操舵室にいた全員が、思っている。
「リズ…」
食い入るようにレーダーを見つめている船長の口から零れ落ちた、アイツの名前。それを聞いていたのはきっと、傍にいたおれだけだ。
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