02


ビーッビーッビーッ


これは…警報か?耳を塞ぎたくなるような音がした後、風景が変わり始める。
暗闇に覆われていた視界が、徐々に晴れていった。次に風景が歪み、遺跡だった周りが…最初の洞窟へと戻っていく。
そうか…羽根を取り出したから、本を守る仕掛けが解けたのね。


「小狼くん!!」

―――ハッ

「…サクラ姫!」


小狼くんの手に握られていた羽根は、姫さんの内(ナカ)へと戻っていった。
眠りに落ちた姫さんは、小狼くんの腕に抱きとめられる。

彼の瞳も…光を取り戻してる。いつもと変わらない、"小狼"くんだよね。


ビーッビーッビーッ


…警報が鳴り止まない。早く脱出しないと、面倒なことになりそうだ。


「小狼、手当てしなきゃ!緋月もっ」
「その前に早く次の世界へ移動を!」
「……」
「……」
「緋月ちゃん…?黒様…?」
「(時間が―――少なくなってきた)」
「図書館の人達が来る!早く!」
「うん!」


小狼くんの言葉にモコは羽根を広げ、いつものように魔法陣を出そうとするけれど…それは叶わなかった。
嫌な予感はしてたんだけど…まっさか、当たっちゃうとはねぇ。


「防除魔術、だね」
「うん。図書館から本を盗んで、逃げたり出来ないように」
「行くぞ。本を盗んだのはとっくにバレてる。白まんじゅうが移動出来る所まで逃げるしかねぇだろ」
「はい!」


眠っている姫さんを黒鋼くんが担ぎ上げ、言う。
だけど、そう簡単には逃がしてくれないよ。この覚えがあるオーラ……きっと、この道を戻った先には、アイツがいる。


「緋月、走れるか」
「トーゼン。見くびらないでよ」
「ふん、上等だ」


あの番犬に吹き飛ばされて、体は所々痛みを訴えてる。でも今はそんなことを言ってる場合じゃないから。だから、必死に足を動かした。

洞窟を抜けて、再び図書館へと戻って来た時。


「やっぱ待ってたかー。ぴゅー♪」


そう…僕達を待ち構えていたのは、もう1匹の図書館の番犬。図書館の番犬は、僕達を略奪者としてロックオンしてる。
グルルル…と低い唸り声をあげたと思えば、口から炎を吐き出した。
咄嗟に避けるけど、体中が痛んで、上手くいうことをきいてくれない。
でもこの炎に少しでも触れたら、一発であの世行き。ハッキリ言って…火傷じゃ済まないよねぇ。
これ以上、怪我を増やすのは嫌だし、死ぬのも勘弁だ。…此処では、だけど。


「小狼!緋月!」
「何とかだいじょーぶっ」
「おれも大丈夫だ!それより本が…!」


未だに吐き出されている炎は、本棚さえ焼き尽くしそうだった。
けれど、番犬の吐く炎は決して本を焼き尽くさない。それどころか、焦げてさえいないんだ。

本を守る為の番犬だから、攻撃魔術も本には効かないようにしてるってことか。そりゃそうだよね?本を守る為にいるのに、焼き尽くしちゃったら意味ないもの。
それを教えてあげれば、小狼くんはホッとした顔をして「良かった」と呟いた。
でも僕の脳裏に思い浮かぶのは、あの時の"小狼"くん。本を投げ捨てて、見向きもしなかった彼の姿。
黒鋼くんもその時のことを思い出しているのかな?眉間にシワが寄っている。

―――ゴォッ

番犬は攻撃の手を休める間もなく、次々と炎を吐き出してくる。
素手の僕達じゃ、反撃が出来ない。手が出せない現実。この状況を打破しようと、黒鋼くんがモコに向かって叫んだ。


「まんじゅう!刀出せるか?!」
「ダメ!出ないー!緋月は刀出せない?!」

―――スゥ…

「…っダメだ、出せない!」
「ぴゅー♪武器にも防除魔術有効かー」
「魔法はっ!使えねぇのか?!」
「護りの魔法は多分イケるけど、攻撃魔法は無理だよ!」
「ちぃ…っ!小僧!緋月!足!!」
「はい!」
「リョーカイ!」


僕と小狼くんが避難していたのは、番犬の片足が掛けられている本棚の上。一瞬でもこの体のバランスを崩すことが出来れば、この先へ行けるはずだから。
小狼くんと共に駆け出し、掛けられたままの足を渾身の力で蹴っ飛ばした。

すると案の定、バランスを崩した番犬は一瞬だけ攻撃の手を緩めた。
この好機を逃すわけにいかないね。黒鋼くんの声に促され、僕達はまた走り出す。


「緋月ちゃんっ掴まって!」
「ぅえ?!あ、はいっ」

―――パシッ

「オレじゃ不満だろうけど、少しだけ我慢して。…無事に脱出できるまで」


少しだけ遅れていた僕の手を、ファイくんが引っ張ってくれた。
一瞬だけ黒鋼くんがこっちを見た気がしたけれど、すぐにまた前を向いてしまって。…彼の眉間に、さっき以上の深いシワが刻まれていたような気がしたのは―――気のせいだよね?

ふるりと頭を振って、浅ましい考えを吹き飛ばす。今はそんなことを考えている場合じゃない。考えてはダメ。
そんな資格は―――僕にはないのだから。


『「記憶の本」略奪者、逃走中。逃走中』
『捕獲しろ!外へ出すな』


―――バッ

出口を目指して、また走り出した時。背後に何かの気配を感じた…魔力と人の気配。
視線だけを後ろに向けてみれば、羽根の生えた機械に乗った人達が追いかけてきていた。
…手に持っている杖のようなものは、電気を帯びているように見える。
きっと、僕達を捕獲する為の魔術。


「っ避けて!!!」

―――ガカッ

「何だ?!」
「電気みたいな、ビームみたいなもの!当たったらマズイと思うよっ」


数メートル先に光が見えてきた。
ようやく辿り着いた、図書館の入り口。


「外っ!!!」


図書館から脱出できたと思っていたのに、階段を降りることは叶わなかった。
此処に着いた時と全く違う風景になっていて、僕達は思わず足を止めた。

階段の先が全て、海のように変化していたんだ。
いや、海だったら良かったかもしれない。飛び込むことが出来るから。最悪、泳いで逃げることも出来る。
だけど、これは海じゃない。むしろ、水でもない。


「飛び込むぞ」
「「ダメだよ」」

ファイくんがかぶっていた帽子を、ふわりと投げ込んだ。
水に浮かぶと思われていたのに、それは跡形もなく姿を消した。…これも防除魔術の一種。知らずに飛び込んでしまったら、命を落とすでしょうね。

この図書館の守衛機能は、本当にすごいものらしい。あらゆる手段を使って、大切な本を守ってる。
そして―――それを盗み出そうとする輩は、決して許しはしないんだ。
だけど…此処で捕まるわけにはいかないよね。全員。どうにかして逃げなきゃいけないけど、その手段が見つからない。
外へ出れば、と思っていたけれど…この状態じゃまだ、移動魔法に防除魔術が働いている状態でしょうね。
今いる空間を切り離すとかしない以上は…魔法陣が出せない。


「きゃー!」
「っ!(図書館の番犬…!)」


前からは番犬が、後ろからは図書館の人達が狙ってる…!
このままじゃ―――全員、助からない。


―――ゴァッ!!!

「モード、護り!"ウインディア"!!!」


一陣の風が吹き、僕達を包み込む。何とか炎が直撃するのは避けられたけど…長くは持たない。
一時的なモノで、ガードするもんではないからね。本当に一時しのぎでしかない。
さあ…次はどうしたらいい?!


―――ピシ…ッ

「ッ……!!!」
「緋月!腕が…っ」
「あっは……もう限界がきてるみたい。さっすがは図書館の番犬だ」


ピシピシと亀裂が入り、僕の腕を少しずつ裂いていく。ああ、マズイな…このままじゃ本当にお陀仏だよ。
腕を裂く痛みと、炎の熱さに耐えることがしんどくなってきた時…綺麗な、澄んだ音が聞こえた。

ピー
ピュー

口笛の、音…?
それはファイくんの唇から紡がれていた音。今まで決して鳴らなかった、音だ。それが今、綺麗な音を奏でて。
ふわりと、優しく柔らかい魔法が…僕達を包んだ。
炎も、魔術師達の攻撃も寄せ付けない、彼の守りの魔術なんだろう。肩で息をしていると、ポンッと温かい何かが触れた。


「ごめんね、辛い思いをさせちゃって」
「え…?」
「モコナ、次元移動を」
「でも魔法陣が」
「だいじょーぶ…この中でなら、出せるよ」

―――フワ
―――パァアアァ

「出たよ、魔法陣!」


モコの口に吸い込まれる瞬間に見たのは、諦めたような表情で俯くファイくんと 驚いたように目を見開いた、黒鋼くんと小狼くんの姿だった。
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