壊れた鎖


―――シュン

逃げるようにレコルト国から次元移動してきた僕達。何とか全員無事みたいだね。



「姫は…」
「寝ているだけだ」
「呼吸も心音も乱れてないし、怪我もしてないから大丈夫だよ」


黒鋼くんの言葉に続けて、そう言ってあげればホッとしたように笑った。
自分だってひどい怪我をしてるのに、やっぱり一番に姫さんの心配をするんだね。キミは。
どうか…どうか、そのまま心を失わないで。純粋に姫さんを想うその心を、悪用させないで。
キミに何かあったら、きっと姫さんは悲しむから。泣いて、しまうから。
僕はキミ達が泣いたり、悲しんでいる姿を見たくないんだよ?2人が、そう思ってくれているように。


「何とか逃げられたねー」
「でもファイ、魔法は使わないんじゃなかったの?」
「んー、一応今まで使ってた魔法とはちょっと違ったんだけどねぇ」
「音を、使った魔法…」
「うん。オレが習ったのとは別系統の魔法なんだけど」
「魔力は魔力だろ」
「かなぁ」


へにゃんといつもの笑みを浮かべるファイくん。
けど、そんな彼を黒鋼くんがじっと睨みつけるように見つめていた。
彼なりに何か思う所があったんだろう。どんなことを考えているのかはわからないし、聞こうとも思わない。
きっと聞いても教えてはくれないだろうしね。

それに―――あまり、近づかない方がいい。これ以上、キミへの気持ちを大きくしない為に。


「すみません。おれが図書館からの脱出方法を、もっと考えていれば…。そうすれば緋月さんにも怪我を負わせずに済んだのに」
「小狼くんは精一杯やったでしょー」
「うん。ちゃんと記憶の羽根も取って来たしね」


僕とファイくんがそう告げても、小狼くんの表情は晴れない。
恐らく、彼が彼でなくなった時のことを思い出しているんだろう。これは僕の推測だけど、豹変した時のことは…きっと覚えていないんだと思う。

番犬に吹き飛ばされて、一瞬だけ 心 を失って、防除魔法が解けて、姫さん達の傍に戻った時、小狼くんは 自分 を取り戻した。

一部分だけ、彼には記憶がない。だけど、あの番犬を倒したのは小狼くん自身。
ということは、彼の足には…何かを倒した時の感覚が残っているはず。


「…怪我、痛むのか?」
「え…」
「てめぇも、何か思いつめた顔してやがる」
「そんなこと、ないよ。怪我も大丈夫だから」


だから、お願い。
優しくなんて―――しないで。


「さてー、今度はどんなとこかなぁ」
「今の所、何の音も聞こえないね」


どこか隙間から漏れている光。その隙間からファイくんと共に、体を乗り出した。

瞳に映し出された光景は―――――倒れて瓦礫と成り果てた数多の建物と、見渡す限りの砂漠。

それ以外に何もない場所に、砂塵が舞っていた。



―――ドクン

―――ドクン

―――ドクン

―――ドクン

―――ドクン


―――ドクンッ





「―――――…!」


「…目覚めた……」


「目覚めたか。さあ、この一手はどちらにとって有利となるかな」



ついに…この時がやって来てしまったのね。
もう鎖は切れてしまった。あとはもう、"彼自身"に任せるしか出来ない。"貴方"が望んだ未来を、見るには。


「この目覚めが"彼ら"にとって、吉と出るか凶と出るか…」


それすらも貴方にとっては、遊戯(ゲーム)でしかないのでしょう?


「飛王、様―――――」
「緋月ちゃん?早く来ないと置いてかれちゃうよ?」
「あ…ごめんなさい、今行く!」
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