ビタースイート
僕と姫さんは今、とんでもなくでっかい家の前でぽかーんとマヌケ面を晒しています。
「確かに大きいお家だとは聞いてたけど…」
「ここまでだとはねぇ…さっすが社長さんだなぁ、知世ちゃん」
そう。今日、僕達は知世ちゃんに誘われて彼女の家へとやって来たのだ。何でも『女子会』というものを体験してみたいので、是非!とキラキラした目で言われちゃって。何かあの子にお願いされると断り辛いんだよね、姫さんからのお願い事もそうだけど。多分、可愛い女の子に弱いんだろうな、僕は。
…ま、それはさておき…インターホンは何処ぞ。このままじゃ来訪をお知らせすることもできませんよ〜、と。
門の前でキョロキョロインターホンを探していたら、勝手に開きました。何がって?…門がだよ!ギギギ、って勝手に開いたもんだから2人で思いっきりビックリしちゃったよ。こういうものなのかな?ピッフル国の家って。
「サクラちゃん、緋月ちゃん!いらっしゃいまし」
「あ、知世ちゃん!お招きありがとう」
「いいえ、私が2人とお話したくてお呼びしたんですわ。ささ、中へどうぞ?」
「お邪魔しまーす」
案内された先は、豪邸ってこういうのを言うんだろうな〜という内装でした。すっごい豪華で、すっごい綺麗!そしてやっぱり想像通り広い…!思わずキョロキョロしちゃうくらいです。色んな国を巡ってきたけど、ここまで大きな家は初めて見るかも。
「そうだ。これお土産!ファイくんと姫さんとお菓子作ったの」
「まぁ、ありがとうございます!あとで食べましょうね」
通されたのは知世ちゃんの私室らしいのだけれど、…ここもまた広いなぁ。そして女の子らしくてとても可愛いお部屋です。広さだけでいったら豪華なホテルだよね、本当に。どうぞ、と促されるままにソファに腰を下ろしたけれど、でも視線は部屋の中をキョロキョロと彷徨わせたまま。
不躾だなぁ、と思うんだけど、なんていうか…他人の家とか部屋ってなかなか入る機会がないから、気になっちゃうのかも。こういうのも好奇心の一種だったりするのかね。
…あ、おっきな本棚だ。たくさんの本がしまわれているけれど、知世ちゃんも読書が好きなのかな?服を作るのが好きだ、とは聞いていたけれど。
「緋月ちゃん?何か気になるものでもありました?」
「えっ?あ、ごめんね、勝手にキョロキョロと…」
「ふふっ構いませんわ。何かお気に召したものでも?」
「ん。本がたくさんあるなぁ、って」
「そういえば緋月ちゃんも本を読むの好きだよね」
姫さんの問いかけにコクリ、と頷きを返すものの、視線は本棚から外れることはなく。それに気がついた知世ちゃんがクスクスと笑いながら、気になったものがあったら手に取って大丈夫ですよ、と言ってくれました。
来て早々に何をしているんだろう、と内心呆れつつも、むくむくと育った好奇心は萎えることをしない。お言葉に甘えて本棚に歩み寄って、どんな本があるのかじーっと物色。…物色って言うと、何か語弊があるけど間違ってはいないわよね?多分。
2人の話し声をBGMに気になった本を手に取り、その場でそっと表紙を捲る。タイトルから察するに恋愛小説、かな…ちょっと気になるけど、読み始めたらきっと2人のことそっちのけで読み耽ってしまいそうな気もするので戻しておこう。そうしよう。
元あった場所に戻してから、私もソファへと戻った。本棚に気を取られている間に紅茶とお菓子が運ばれてきていたらしく、部屋の中には紅茶のいい香りが漂ってる。
「おかえり、緋月ちゃん」
「あはは…ごめんね?来て早々、本棚に興味持って…」
「いいんですの。緋月ちゃんの楽しそうなお顔が拝見できましたし」
「本を読んでる時の緋月ちゃんって、本当に楽しそうに嬉しそうに読むよね。小狼くんと一緒!」
「え、小狼くんもそうなの?」
「うん。本が大好きみたいだから」
小狼くんのことを話す時の姫さんは、とっても可愛らしくて、優しい表情をするんです。少しだけ頬を赤らめて。恋する乙女って感じだなぁっていつだって、そう思ってた。そんな彼女を見ているとこう、胸の奥が温かくなってほわんって和むんだよねぇ。
「サクラちゃんは小狼くんのことをお話する時、とても優しいお顔をなさるんですね」
「えっ?!」
「あ、真っ赤になった。かーわいいなぁ、姫さんってば!」
「もっもう、緋月ちゃん!」
ふふっ本当に可愛い。…この子みたいに素直だったら…僕も何か変わっていたりするのかなぁ?って思うこともあるけど、でもきっと何も変わらなかったんだろうな。だって僕はあの方のもので、それ以上でもそれ以下でもない―――本来であれば、恋なんてしちゃいけないことなんだから。
(それでも好きな気持ちは消えなかったんだけどねぇ…)
紅茶を飲みながらぼんやりと、楽しそうに話している姫さんと知世ちゃんを眺めていたら、2人の顔が同時にこっちを向いた。急だったもんだから紅茶を吹き出しそうになったけど、何とか寸での所で飲み込むことに成功しました。ああ、ビックリした…!
「私、緋月ちゃんのお話も聞きたいですわ!」
「僕の話って…面白い話なんてないんだけどなぁ」
「面白いお話ではなく、サクラちゃんのように好きな殿方はいらっしゃらないのかお聞きしたいのです」
「ぶっ!!」
「わっ緋月ちゃん、大丈夫?!」
さっきは堪えたけど、今度はダメでした。思いっきり吹き出しました。ごめんなさい、知世ちゃん…でも元はと言えば、キミの発言が原因なんだけどね!!
「ゲホッ…す、好きな人……?!」
「はい。緋月ちゃんもお年頃ですもの、いらっしゃるのではないかと思ったんですけど…違いました?」
「ええっと、……い、ないわけではない、けど、」
「まぁ!どんな方かお聞きしてもよろしいですか?」
「ぅえ?!だ、大丈夫だけど、ちょっと待って……!」
カラッカラになってしまった喉を潤す為に、紅茶を一口。
こういう話って今までしてきたことがなかったから、どうしたらいいのかがサッパリです!ファイくんと姫さんにはバレてしまったけど、自分から彼のことを話すのってしたことない…何でかわかんないけど、すっごいドキドキしてきましたよ?!
「…無愛想なんだけど、でも優しい一面もあって…すごく、周りを見ている人かなぁ」
「告白はしませんの?」
「しっしないよそんなの!!言っても、無駄だってわかってるし…大切な人もいるみたい、だから」
「んー…でも、言ってみなくちゃ緋月ちゃんの気持ちは伝わらないんじゃないかなぁ?」
「そうですわ。言葉にして初めてわかることだって、世の中にはたくさんありますもの」
2人の言っていることはよくわかるんだけど、…それでも僕はこの気持ちを彼に伝えることはしないと思う。最期の時までずっと、胸に秘めていく覚悟をとっくに決めているから。
お土産に持ってきたお菓子を口に放り込んで、2人には言えないことを考える。これを口にしてしまったらきっと、優しい彼女達はそんなことないよ、と首を振るだろう。でも、その優しさは胸が痛くなるから…だから黙っておくの。
「このお菓子、とても美味しいですわ」
「ファイくんの料理の腕、抜群だもんなー」
「本当。何でも美味しく作ってくれるよね、ファイさんって」
恋のお話はこれにて終了。
その後は他愛のない話で盛り上がり、内心ホッとしていたのは―――僕だけの秘密だ。