破壊を求める少女
願いを叶えてもらえるのは、ありがたい。
『いつまで阪神共和国にいるんだ?』
『もう次の世界…いえ、国に行かなければならないんです』
うん。ものすごぉーく!ありがたいと思ってます。
『バトルだけじゃなく、あちこち案内してやったりしたかったんだけどな』
『また、この国に来たら会いに来ます。必ず』
だけど…だけどね?この飛ばし方はないんじゃない?って思うわけです。侑子さん。
―――ガバァッ
どすーーーーんっ
「侑子からー」
「はぁ?!」
「いっ…たたた…!」
「え?女の子ー?」
「えっと…大丈夫ですか?」
侑子さんの所にいた、黒いまん丸の生き物に飲み込まれて(?)よくわからない世界へと飛ばされた僕。
顔を上げてみれば、何やら人に囲まれておりました。…おや?もしかしなくても、僕って不審者かしら?
どうしていいのかわからず、とりあえずへにゃりと笑ってみる。
『どうやら無事に着いたようね、彼女は』
「侑子!」
「無事にって…どういうことですか?」
『詳しい説明の前に、貴方から対価をもらっておかないとね』
「そうですね…何を差し上げれば?」
『そのブレスレットと首飾りを。…モコナに渡して頂戴な』
「もこな…?」
「このふわふわちっこい子のことだよー」
「モコナのお口にいれてー」
赤い石と蝶のモチーフがついたブレスレットと、首飾り。僕が僕である証だった。大切な人にもらったから。
…だけど、まだこのピアスがあるから大丈夫。
まだ―――大丈夫だよね?これを対価に願いを叶える旅が始まるんだから。
最後にギュッと握り締めて、ふわふわちっこい子…モコナの口に放り込んだ。と、同時に。侑子さんの手に僕のブレスレットと首飾りが握られている。
…どう繋がってるんだろ、こっちと向こうは。
『確かに頂いたわ。…そういうわけで、この子も旅に加わることになったからよろしく!』
「いや、どういうわけだよ?!」
『…貴方は貴方の思うように進みなさい。自分の気持ちに素直に、ね』
「努力はしてみますよ。…出来る限りの」
『じゃあ、仲良くやりなさいな』
えー…というわけで。突然、彼らの旅に加わることになった僕なのですが。今は彼らが身を寄せている下宿先とやらにお邪魔しております。
自己紹介とか、色々説明とか…とりあえず話をする為に移動したってことだね。あそこ街のど真ん中だったみたいだし。
「それじゃ、じっこしょーかーい♪モコナはモコナ=モドキ!」
「オレはファイ・D・フローライトだよ。長いからファイって呼んでねー」
「小狼です。よろしくお願いします」
「んで、眠そうにしてる子がサクラちゃん。そこの黒いのが黒りんだよー」
「 黒 鋼 だっ!」
「僕は緋月」
「緋月ちゃんね。よろしくー」
へにゃんと笑う金髪碧眼のファイという男性。
意志の強そうな綺麗な琥珀の瞳をした、小狼という男の子。
薄いピンク色の髪の、ほんわかとした雰囲気を持つサクラという女の子。
赤い瞳が印象的で、眉間にしわを寄せた怖い感じの黒鋼という男性。
そして…侑子さんの所にもいた、モコナと呼ばれる不思議な生き物。可愛いけど。
何だか…すごく個性的な人達の集まりだなぁ。退屈はしなくて済みそうだけどー…僕にはそんなこと関係ないか。
ただ色んな世界を渡る為に、同行するだけ。あとは適当に笑っていれば何も言われないはずだ。
そんなの序の口だから、問題なんて―――ないに等しい。
「緋月、さん…?」
「あぁ、好きなように呼んでいいよー。敬語もいらないし、僕もそうするからさ」
「じゃあ…緋月ちゃん…」
瞳は眠そうにとろんとしているけど、少しだけ…柔らかい笑みを浮かべた。この子の笑顔、可愛いな。
何て言うのか…ほわんとする。…暖かい、っていうんだろうね、きっと。
だけど…僕には必要のないモノだ。
「それで、僕はこの旅に同行してもいいのかな?…ダメと言われても、行く場所がないのが現状だけど」
「オレは全然ー。問題ないんじゃない?」
「はい。構わないと思います」
「侑子が送った人だもん、大丈夫!」
「…逆に恐ェよ」
「よろしくね、緋月ちゃん」
どうやら問題ないみたい。これで路頭に迷うことはなくなった、ってとこかなぁ。一安心、一安心。
「あのね、あのね緋月っ!」
「ん?何さ、モコ」
「モコナ達、サクラの記憶の羽を探して旅をしてるの!」
「記憶の羽…あぁ、それで彼女の『生』のエネルギーの波動が不安定なんだね」
「緋月ちゃんも魔術師ー?」
「そんなちゃんとしたものじゃないですよ。ちょっとかじったことがある程度」
そのせいか、強い力とか、気配とか…そういうのが読み取れるようになったんだけどね。
でもまぁ、異世界を渡るならこの力も役に立つかもな。もしかしたら。
「んじゃま、僕も出来る限り協力はするよ」
「!あ…ありがとうございます」
「おい、女」
「む。何さ、黒いの」
「 黒 鋼 だ っ ! 」
「僕にも緋月って名前があるんですー!…で、なぁに?黒鋼くん」
「…お前、何が出来る」
「戦闘に関して、ってことでいいのかな?」
首を傾げて問い返せば、軽く頷いた黒い人…もとい、黒鋼くん。
この人、口数少ないなー…。
「人並みには戦えると思うよ。…迷惑をかけない程度には、強いつもりだけど?」
両腿につけたホルスターに収めている、二丁の拳銃にそっと触れる。これが僕の、唯一の武器。唯一の得意な武器。
魔法も少しは使えるし、体術も剣術も困らないように…死ぬことがないように習ってはいたけど。
だけど、この銃との付き合いは長いからねー使う頻度は高い。
でも―――――武器を使えば、自分の身を護ることは簡単だけど…死人も出る。
それを相手に向けるってことは、死んでも文句は言えない。使うからには相応の覚悟を持たないと、いつか命を奪われるのは自分自身だから。
「じゃあ、ますます問題ないよねー?黒様」
「…ふん」
「ごめんねぇ、黒りんは照れ屋さんだからー」
「あははー。気にしてないから大丈夫」
鋭かった瞳が、一瞬緩んだのがわかったから。
突然現れたような奴に警戒心を抱かない方が、きっと間違ってる。
元いた国で何をしてたのかなんてわからないけど、戦場に立ってたような人なんだろうねー。雰囲気から察するにそんな感じ。放たれてた殺気とか。
「自己紹介も終わったし、次の世界に行ってみよー!」
「この世界に姫さんの羽はないの?」
「1つ、取り戻せた後なんです。だから次の世界へ」
「…成程。納得したよ」
そうと決まれば!ってことで、皆は何やら着替え始めた。(姫さんも着替えるから、男性陣はもちろん別の部屋に)
僕はこのままでいいから、着替え終わった姫さんと外で待つことにしました。移動もするしね。
モコと姫さんと話をしていると、着替え終わった男性陣と2人の男女が出てきた。…知り合い、なのかな?
「いつの間にか1人増えとる!」
「初めましてー。すぐにお別れだけど」
…なんだけど。丁寧に自己紹介されてしまったり。
この人達は小狼くん達が寝泊りしていた下宿の管理人さんなんだってさ。名前は空汰さんと嵐さん。
2人共、とても優しそうな感じ。空汰さんは面白い部分もあるけど。
此処にいる間に仲良くなっていたみたいで、空汰さんなんか少し寂しそうな表情を浮かべてる。
言ってることは「まだまだわいとハニーの愛のコラボ料理を堪能させてへんのにー」だけど。
「大丈夫ー?」
「まだちょっと眠いだけだから」
「下を向くな。やらなきゃならねぇことがあるんなら、前だけ見てろ」
「……はい」
少しだけ、浮かない表情だった小狼くん。
けれど、すぐに真っ直ぐとした―――何にも揺るがない、そんな輝きを取り戻したように見える。
きっとこの子も、やると決めたことはやる子なんだろうね。…あの子と一緒で。
「そんなの、当たり前か。基は一緒なんだものね」
ぼそりと呟いた言葉は、僕達の姿と一緒にモコの口の中へと吸い込まれていった―――――。