交わる幸せ
―――カラン…ッ
月の城の、欠片…確かに此処に存在していたという、証。
でももう、それは跡形もなく砕け散った。…2人の王と共に。
「(今度こそ…本物の夜叉王と会えているかしら?そちらの世界で)」
欠片を拾い上げ、貴方達を思う。
過ごした時間は長くはないけれど、それでも素敵な人達だと感じることが出来たから。
だから、此処で願うよ。夜叉王と阿修羅王の幸せを。安らかな眠りを。
「やっぱまだまだだ。鍛錬のやり直しだな」
「え?!」
「黒ぽっぽきびしー」
「クスッ本当にね」
「黒鋼さん!!?ファイさん?!」
「はーい♪」
「あははっびっくりしてるねぇ、小狼くん」
「え?!え?!でも目!」
驚いた顔で僕達の目を見つめたけど…色が確認できたら、また驚いた表情になりました。くるくる表情が変わって面白いなぁ。
そう。僕達も驚いたんだけど、目の色が元に戻ったの。
黒鋼くんは赤。
ファイくんは蒼。
そして、僕は紫。
「どうやら夜叉族の国にいると、自然に黒くなっちゃうみたいよ?」
「小狼くんもあっちに落ちたら黒い目だったんだよー」
「……?!」
「ごめんねぇ。でもオレ達、先に落ちちゃって」
「そうそう!半年近くも早く、この次元に着いちゃったんだよね」
「そんなにズレて?!」
「モコナもいないから、オレと黒るんと緋月ちゃんも言葉が通じないしぃ。でも2人は何とか会話出来てたみたいで、夜叉族の言葉もわかったから、喋るのは2人に任せてオレは口が利けないってことにしてたんだよー」
その方が色々と都合が良かったしね、正直。
「だったら、あの月の城で会った時に教えてもらえれば…!!」
「あー、あれは黒ぷいがー」
「僕達だってわかってると、小狼くんが本気出さないからって。キミの先生だからねぇ」
「そ…そうだったんですか。ありがとうございます」
理由がわかって、お礼を言いながらペコリと頭を下げた小狼くん。 自分の剣技の上達を考えてくれたことだから、って。
ふふっ本当に良い子だよねぇ?小狼くんってば。
いくら黒鋼くんが殺す気がなかったとはいえ、容赦なく攻撃してたっていうのに…素直にお礼が言えるなんて。
そんな彼に黒鋼くんも面食らったみたいね?びっくりした顔、してるもの。
「わーい!黒様、照れてるー」
「誰が照れてる!!」
「あははっ2人のそういうのも、何だか久しぶりだ」
「小狼くん!!」
大きなお城がある方角から、姫さんがモコを抱えて走ってきた。…かなり息を切らして。
きっと心配で、居ても立ってもいられなかったのね。
月の城が―――崩れたから。
だから、此処まで走ってきたんだろうから。可愛いなぁ、姫さんは。
「緋月ちゃん!!ファイさん!!黒鋼さん!!」
「やほー」
「サクラちゃん、久しぶりー」
姫さんが近づいてきて、小狼くんの懐に入っていた羽根が光を放ち、宙に浮かんだ。
そのまま羽根は彼女の体に吸い込まれ…眠りにつく。
悲しい結果の元に手に入れることが出来た羽根。
…だけど、また1つ。取り戻すことが出来たんだね。犠牲は、大きかったけれど。
―――フワ
「…モコ?」
姫さんの手から離れたモコはファイくんの手の上にいたんだけど、急に空に浮かび上がって。
その下には侑子さんの魔法陣。モコの背中には移動する時に生える、大きな羽。
記憶の羽根を手に入れたから、さっさと移動するってことなのかな?それは別にいいんだけど…いやに急だよね?慌ただしい感じ。
ゆっくりしている暇がないのは、わかってるんだけどさ。
…それでも―――2人の王の弔いを、してあげたかったな…なんて。
―――ポンッ
「…大丈夫か?」
「うん…平気。感傷的になってる暇は、ないもんね」
「……辛いなら、泣け。無理に笑うんじゃねぇよ」
グイッと抱き寄せられ、顔を隠された。
突然のことに頭が真っ白になるけど、その優しさが嬉しくて、温かくて、一筋の涙が頬を伝い落ちる。
それは誰にも見られることなく、地面に落ちていく。
―――グイッ
―――ふぎゅる
「っきゅ!」
「てめ!何しやがる!」
「また離れて落っこちないようにー」
黒鋼くんに抱き締められていた僕は、そのまま小狼くんと黒鋼くんの間に挟まれる形に。
えと、離れてしまわないようにっていう理由はよくわかる!理解も出来てるんだけど…さすがに苦しいって!
僕、彼の胸元に顔ひっつけてる状態だったんだから!
そして何より、恥ずかしいわーーーーーっ!!!(抱き締められてたくせに、何を今更)
心の中で色々と葛藤しているうちに、モコの口ががばぁっと開いて僕達の体が少しずつ消え始める。
小狼くんが阿修羅族の人と何かを話していたけど、聞き取れないうちにこの世界を後にした。
「2人の王はもういません。もし、2人の王の亡骸か形見の一部でも見つかったら、どうか離さず…一緒に葬ってさしあげて下さい」
もう二度と、離れぬことがないように。
モコの口に飲み込まれて、見えてきた風景は…たくさんの人と、見覚えのある建物。
―――ぼすっ
「ぷはっ!…お花…?」
「此処は…」
「紗羅ノ国ー?陣社だー」
「戻って来たの?」
そう、僕達が降り立ったのは紗羅ノ国。
半年ほど前まで、お世話になっていた国なんだけど…何だかあの時と雰囲気が違う。
…こんな温かい雰囲気を感じた記憶は、ないもの。確か…男性と女性は仲が悪かったはずなのに。
阿修羅像を持つ鈴蘭一座と、夜叉像を持つ陣社…対立、してたのよね?あの時は。
だけど、そんな感じは全然しない。むしろ仲良くなってる気がするのだけど。
「あたし達、すぐ近くの遊花区って所を根城に、あちこち興行して回ってるんだけどね」
「困ったことがあったら、いつも陣社の男衆に助けてもらってるの」
「おう!俺達で出来ることがあったら、いつでも呼びな!」
「いよ!色男!!」
「仲良し、だね…どういうこと?」
「此処は前にいた紗羅ノ国とは違うんでしょうか?」
「同じだけど、また別の次元ってことー?」
成程…それならあの時と全く違う雰囲気なのも頷けるかもしれない。
―――わぁっ
歓声…?そういえば、お祭りみたいに賑やかだし…人もたくさん集まってる。
陣社で何かやってる最中なのかなぁ?
「何だ?」
「旅の人達、運がいいわ!」
「今日は結婚式だからな!」
「え?結婚式?」
奥から出てきたのは…綺麗で華やかな衣装に身を包んだ、男女。
とても幸せそうに笑っている。
「鈴蘭さん!」
「神主じゃねぇかよ」
「本当だ…蒼石さん!」
2人の姿にうっとりと目を奪われていると、おめでたい日だから神様も御開帳だーって…その神様が祀られている場所を見せてくれた。
そこにあったのは二体の、神様。阿修羅王と夜叉王。
決して結ばれず、共にいることができなかった2人。でも今、神の像となり…並んでいる。
話を聞いてみると、出来た時から一緒で、離しちゃいけないと言われてるんだって。…良かった。
どんな風にこうなったのかはわからないけど、ようやく一緒にいられるんだ。
あの阿修羅王の願いは叶わなかったけど、でも…違う形で叶ったようなものだよね?
離れることはないんだもの。厄災を招く、だなんて言われることなく…この国の守り神として。
「ん?…ねぇねぇ、これ」
「なぁに?これ…髪飾り、かな」
「「あーーーーーー!!」」
「なっなに?!」
「こ、これ…」
「おれ達がつけてた…」
小狼くんと姫さんが驚いていた、髪飾りのような物。
昔からこの陣社に祀られている神器なんだって。謂れは…蒼石さんにしかわからないみたいだけど。
「これ、2人が着けてたのなの?」
「「(こくこくっ)」」
「紗羅ノ国で遊花区の人達に着けてもらって」
「修羅ノ国で着替えた時に外されてそのまま…」
「修羅ノ国に置いて来たと」
「「(こくこくっ)」」
…もしかして、あの国って―――――
「紗羅ノ国のずっと昔の姿…?」
「どういうことだ?」
「そうか…おれ達は紗羅ノ国に落ちてその後、紗羅ノ国の過去である修羅ノ国に行ったんじゃないでしょうか。そしてもう一度、紗羅ノ国に戻って来た」
「場所は同じで、現在から過去。過去からまた現在」
「時間だけ移動した、ってことだね」
「でもどうしてこんなに紗羅ノ国の様子が違うんでしょう」
あの時は男性と女性の仲は最悪だった。だけど、今はその逆。とても仲がいいみたいだし、女性も男性を頼りにしてるみたいだった。
此処が本当に、別次元の紗羅ノ国でないとするなら…考えられることはただ1つだけ。
「「未来が変わった、か」」
前の紗羅ノ国では、夜叉像は一人きり。遊花区にあった阿修羅像も、そうだったという。
移動するあの瞬間に、小狼くんが言った言葉を阿修羅族の人がちゃんと受け止めてくれて。そして2人の像を離すことなく、一緒に祀った。
共にある2つの像は怪異を起こすこともなく。…いがみ合っていた原因の怪異がなければ、陣社と遊花区がもめることもないよねぇ。
結果―――今のような状態になった、と。
「でも……」
「小狼くん?」
「いえ、何でも」
何か、考え込んでいた顔だったけれど…今は聞かない方がいいかな?
ファイくんも気がついている感じだけど、何も聞かないようにしてるみたいだし。
「おい、白まんじゅう。最初から修羅ノ国に落ちりゃ良かったんじゃねぇかよ。じゃなけりゃ、夜叉族がいた夜魔ノ国でも…」
―――がばぁ
―――ゴオオォオ
「げっ!!」
「……は?」
おもむろにモコが口を大きく開け、2つの像が持っていた剣を吸い込んだ。そしてごっくんと飲み込みました。何の躊躇もなく、ね。
それ…守り神の中身のはずなんだけどなぁ。
「バレたら、お説教どころじゃないよねー」
「だろうねぇ」
キョロキョロと周りを見渡せば、生憎誰もこっちを見てた人はいないみたいで…ちょっとホッとした。
どうやら何か別のことに注目してるみたいね?皆、上を見ているみたいだけど…何があるんだろう。
ふわり、と。無数の温かい光が舞っていた。さっきまで舞っていた、花びらのようにひらひらと。
「綺麗…花びらが降ってるみたい」
「本当に」
―――フワ…
「これ、火の粉なんだ…」
「…熱くねぇんだな」
「うん、全然。触っても大丈夫なんだね…不思議だけど、とても綺麗だ」
手の平に落ちてきた火の粉は、雪のようにパッと消えてしまったけれど。
ずっと見ていたいくらいに、心を奪われる光景で。
僕はきっと、この光景を一生忘れないと思う。ずっと…覚えてる。
「祝い酒っつってたな」
「黒ろん、飲む気満々ー」
「僕もせっかくだし、もらってこよー!」
―――ばっ
「「「「「え?!」」」」」
―――がばぁっ
「もうかよ!一杯くらい飲ませろよ!」
「ふふっ残念だけど、諦めよっかぁ」
次の世界に移動するのなら、仕方ないよね。お酒は飲みたかったけどさ。
「…はい、緋月ちゃん。手」
「え?あ、うん」
「逆の手は黒るんとねー。ほら、小狼くんはサクラちゃんを。離れちゃわないように、ね」
「あの…黒鋼くん。手…」
「おう」
―――ギュッ
右手はファイくんの手を握って、左手は照れながらも黒鋼くんの手を握って。修羅ノ国を出る時のように、しっかりと繋いだ。
あの時のように、離れてしまうことがないように。
姫さん達を見れば…小狼くんが優しく、彼女の手を握っていた。
それは蒼石さん達の姿と同じで、自然と笑みが零れた。両方とも、とても幸せそうに笑っていたから。
「(お幸せに。…蒼石さん達も、夜叉王達も)」
「魔女め。次元だけでなく、時間まで移動させる力を持つとは。恐ろしい魔力を持つ女だ」
「やはり、あの魔女は気付いていますね。遺跡の力に」
「クロウ・リードと同じようにな。しかし、色々と邪魔はしてくれたがクロウ・リードは死んだ。我が計画を阻むのは、次元の魔女だけだ」
「…あの少女はいいのですか?心が芽生え、揺らぎ始めています」
「行かせてください。別の世界に行けば、同じ顔でも別の人間。奴らはそう思っているはず」
「まさか、以前会った者だとは気付かないか」
「そしてあの少女に思い知らせてやりましょう…その身体は誰のものなのか、を」
「そうだな、一度教え直さねばならん…では、次の一手はお前だ」