似ている人
―――プロロロロ…
紗羅ノ国を出た後、僕達はピッフル国という国に降り立ったの。平和な雰囲気の漂う国で、機会に囲まれている所…って感じかなぁ?
今乗っている車っていうものとか、空を飛んでる飛行機っていうものとか…珍しいものばかり。
桜都国で車と似たようなものを見た記憶はあるけど、ちょっと形状が違うような気もする。…でもぽかぽかして、何だか良い所だなって思うよ。
修羅ノ国と夜魔ノ国は、本当に大変な国だったから。目立った争いごとがないだけ、ものすっごーく幸せ!
「んー!風が気持ち良いねー」
「本当。暖かいし」
「あと足りないのはどのパーツだっけ?」
「えっとね、飛翔パーツの……あ、此処ですね」
――キキッ
「この国のお店はわかりやすいですね」
「まぁな」
「だねぇ。迷子になる心配もなさそうだ」
「すみません。えっと、飛翔パーツのBNQ3が欲しいんです」
「はーい、BNQ3ね」
今来ているのは、パーツを売っているお店。
実は今、僕達はあるレースに出る為に『ドラゴンフライ』っていうマシンを作ってるんだ。
その名も『ドラゴンフライレース』!この国じゃ有名なレースらしいんだけど…今回の優勝商品が、何と姫さんの羽根だったの。
それがわかったら出場しないわけにいかないでしょう?
他の人の手に渡ったら、とんでもないことになってしまうもの。何が何でも勝って、姫さんの羽根を取り戻さなくちゃ。
「お金、ありがとうございます」
「あぁ?」
「うん?」
「緋月ちゃんと黒鋼さんとファイさんが、夜魔ノ国で貰った報奨金がこの国の貨幣に換金出来たから、こうやって買い物出来るんですもの」
「はい、カード」
「「ありがとうございます」」
「!!!」
「BNQ3を買ったってことは、『ドラゴンフライレース』に出るんですか?」
「らしいな」
「貴方達も?!」
「はい」
「出ますよー!」
「あのレースは危ないですよ!」
「…どういうことですか?」
詳しく話を聞いてみれば、『ドラゴンフライ』っていうのはハイブリッドで、電気も使ってるけど、殆どは風力で動いてるんだって。
だから操作は簡単なんだけど、天候によっては墜落することもあるみたい。カスタム次第ではとんでもない性能になったりするんだってさ。
そして今回の優勝商品。羽根のせいで荒っぽいことになりそうだーって、ニュースになってるらしい。
この国の人達は、羽根のことを充電電池って呼んでる。何でもあれがあればマシンは半永久的に動かせるし、この町全部の電力はまかなえるって…噂。
そりゃあ、すごい力を持った姫さんの羽根だもんねぇ。
「やっぱり危ないです!!」
―――グイッ
「行くぞ」
「わ!急に手を引っ張らないでよ…姫さーん!行くよー」
「あ、はい!…心配して下さってありがとうございます」
何だかちょっと不機嫌の黒鋼くんに引っ張られて、車まで戻って来た僕。
すぐ姫さんも戻ってきて、出発の準備はOK!…と思ったら、黒鋼くんが珍しく姫さんに声をかけてた。滅多に話しかけてないから、少し新鮮かも。
問いの内容は、本当にレースに参加するのか否か。
もちろん、姫さんの答えはイエスしかないんだけど…きっと店員さんが危ないと言っていたから、彼女のことを心配してるのかも。
そんな素振りは全く見せないけどねー。
「……言い出したら聞かねぇのはどこの姫も一緒なのか」
「!(知世姫の、こと?)」
「え?」
―――ギュンッ
―――プロロロロ…
「きゃ!」
「ぅわ?!…黒鋼くん、急発進はやめようよー!姫さん怪我してない?」
「うん、大丈夫。緋月ちゃんは?」
「僕も全然大丈夫だよ」
そう言ったのも束の間、今度は急ブレーキ。
でも黒鋼くんが悪いっていうか…突然、車が飛び出してきたみたい。どうやら急いでいたみたいだけど。
乗っていたのは黒のスーツに身を包んだ女性と、可愛らしい女の子。
ストレートの黒髪に、綺麗で大きな瞳。着ている服も可愛くて、どう見てもお嬢様って感じの子。
「知世姫?!」
「……え?」
一言そう言って、車から飛び降りていった黒鋼くん。彼女に近づこうとしたけど、たくさんの女性に阻まれてしまった。…素人では、ない感じがするけど。
正直、今僕はそんなことに構ってる余裕がないんだよね。
黒鋼くんが紡いだ『知世姫』という名前。
大切な主君だと、護ると決めた人だと聞いたけれど…やっぱり気になって仕方ない。
「…緋月ちゃん?眉間(ココ)、きゅーってなってる。何か嫌なことあった?」
「あ……何でもない、大丈夫だよ」
「本当に?何か隠したりしてない?」
「……黒鋼くんが言った、名前」
「知世姫って言ってたよね?似てる人が、いたのかな。黒鋼さんのいた国に」
「彼が仕えるお城のお姫様なんだって。…大切な人…みたい」
彼を好きだと気がついてから、そのお姫様のことが気になるの。
顔も知らないし、どんな人なのかもわからない。知っているのは名前だけ。…だけど、黒鋼くんの大切な人だから。
だからなのかな?さっきからずーっともやもやしてるんだよね。
「気にしたって…どうにもならないのにね」
「緋月ちゃん、黒鋼さんのことが大好きなんだね」
「っ!!!!えと、それは、あの…っ」
「(にこにこにこ)」
姫さんの、純粋な笑顔を向けられたら…嘘なんてつけない。だから、素直に頷いた。…恥ずかしいけど。
そしたら彼女の笑顔が、更に花が開いたようになって。何だか…胸が温かくなった。
―――たったったったったった
―――きゅっ
「見つけましたわ!!」
「え?」
「ふえ?」
「ヒロインは貴方達ですわv」
「「え?!」」
にこにこ笑顔はとっても可愛いけれど、言ってる意味がよくわからないんですけど…ヒロインって何のですか?!!
可愛い女の子は詳しい説明はせずに、まだにこにこと僕と姫さんの手を握ってます。
あー…でもこの子の雰囲気も姫さんみたいにほんわかしてるなぁ。一緒にいると自然と笑顔になっちゃう感じ?
変だよね?さっきまでもやもやイライラしてたっていうのにさ。
「えーと…とりあえず詳しい話が聞きたいので、僕達の家に…来ます?急いでいなければ」
「まあ!いいんですの?」
「はい」
道端で長話するのも危険だし、その方が手っ取り早いもの。
家で待ってる小狼くんとファイくんとモコのことも気になるし、パーツも早く持って帰りたいから。
買い物に出てから大分時間が経ってるし、心配かけちゃまずいもんね。
そうと決まれば!ということで、車に乗り込んで家へ向けてしゅっぱーつ。
「(そういえば、ファイくん。小狼くんとちゃんと話出来たかなぁ…)」
紗羅ノ国で未来が変わったことを知った時、小狼くんの様子が少しおかしかった。
何かを気にしているような…何かを憂いてるかのような、そんな感じで。
ファイくんもそんな彼の様子に気付いてるみたいだったから、買い物に出る前にさり気なく話してみてって言っておいたんだよね。
確かに紗羅ノ国の未来は変わった。良い方向に。
きっとそのきっかけは、僕達が「過去」の修羅ノ国に行ったからだろう。…けど、時間の流れに干渉してしまったのも事実。
紗羅ノ国の未来は、僕達が最初に目にしていたもの。恐らく、決まっていた未来だ。
それを僕らは変えてしまったんだよね。
小狼くんはそのことを気にしてるんだと思う。…そんなこと、許されるのかどうか。許されるか、許されないかと言われたら…多分、許されないことなんだよね。
でもね、それは僕達が考えても今はどうしようもないこと。
頑張れば出来ることならやってみるのも手だけど、歴史を帰る規模だと手に負えないもん。
出来ないことは出来ない!…ちゃんと認めるのも大事だから。
僕達が今、考えなきゃいけないことはレースに勝つことだもんねー。
「(ファイくんも同じようなこと、小狼くんに言ってるのかな?)」
いつもへにゃんと笑ってる彼だけど、この中で一番生きてるし、きっと一番経験が豊富。
それに物腰も柔らかいから、僕が話すよりファイくんから話してもらった方がわかりやすいと思うんだよねぇ。確実に。
「たっだいまー!」
「えっ?!!いっぱい?!」
あー…やっぱり、この数は驚くか。まぁ、至極当然の反応だわね。
僕達が突然、たくさんの客人を連れて来てしまったので、ファイくんと小狼くんとモコと飲み物の用意をしに来ました。普段は使わないけど、こういう時に役立つからね…有り余るくらいにグラスがあって助かった。
…さて、何にしようかなぁ?暑いから冷たい飲み物がいいだろうけど…。
あれだけの人数がいると、飲み物を考えるのも一苦労だ。
「煮出した紅茶を氷で冷やした、アイスティーにしよっかぁ。人数もいることだし」
「アイスティーか…うん、いいかも」
「どのくらい用意すればいいんでしょう?」
「んー…とりあえずいっぱい?」
「いっぱーい!モコナもお手伝いするのー!」
「じゃあ、あそこの棚から紅茶の茶葉を持ってきてもらえるかな」
「はーい!」
まずは紅茶を淹れないとね。お湯を沸かして、紅茶の茶葉を用意して…どのくらい淹れれば足りるんだろう。
…っていうか、あの女性達。何者なのかなぁ?彼女を守ってるって印象を受けたけど。もしかしてお偉いさんなのかな?
それか財閥のお嬢様とか。…ただのお嬢様だったら、あそこまでボディーガードがついたりしないか。
ま、考えてもわからないし?あとで本人から説明もあることでしょう。
「これくらいでいいかな」
「じゃあ、持っていこうかー。緋月ちゃん、大丈夫?重くない?」
「これくらい平気だよー」
―――プシュ
「お待たせー」
「僕はあっちの人達に配るから、小狼くんはそっち側をお願いねー」
「はい、わかりました」
ふわー…でも改めて見てみると、すっごい人数だなぁ。やっぱり。
黒いスーツにサングラスだから威圧感バッチリだけど、女性だからかな?あんまり怖いって感じはしないや。アイスティーのお礼言われた時も、笑顔だったもんね。皆さん。
んと…周りにいる人達には、これで配り終わったかな?
渡し忘れてる人はいない、よね。…でも余っちゃったや…どうしよ。
「緋月ちゃーん、まだアイスティー余ってるー?」
「うん、1つだけなら」
「じゃあ、黒たんに渡してあげてー。オレが持ってた分も小狼くんが持ってた分も、なくなっちゃって」
「はいはーい。…どーぞ、黒鋼くん」
「…おう」
うーわー…いつも以上の眉間にシワ(苦笑)やっぱり気になるんだねぇ、知世姫に似ているらしい彼女のこと。
口数が少ないのはいつものことだけど、視線はずっと向けられてるしね。
…彼女に恨みもないし、非もないんだけどー…やっぱりヤだ。それより僕を見て、だなんて…何てバカなことを考えてるんだろ。
気持ちは伝えないって決めた。見返りもいらないと、自分で決めたんじゃないか。
黒鋼くんが誰を想っていても、ただ好きでい続けるのは自由だから…いつか終わりを迎えるその日まで、胸の奥に仕舞い込もうって決めた。
こんなにも早く揺らいじゃうなんてなぁ…弱いよ、僕。
「それにしてもこれ程、精巧なロボットが作れるなんて。あなた方の国は、とても科学水準が高いんですね」
「えへへー」
「うちの会社でも是非、作ってみたいですわ」
「会社?」
「改めてご挨拶を。わたくし、『ピッフル・プリンセス社』の社長、知世=ダイドウジと申します」
「社長さんだー。一番偉い人なんだー」
「ひょっとして『ピッフル・プリンセス社』って、あのレースの」
「そういえば、そんな名前だったかも」
「ええ、我が社が主催しています」
そっかぁ…会社の社長さんなら、これだけのボディガードを連れていても当然だよねぇ。
でもすごいなぁ。見た目は姫さんとあまり変わらないように見えるのに、社長さんだなんて。
アイスティーをズズーッと飲みながら、彼女のことを眺めていると何やら熱く語り始めました。
何だろ?何か始まるのかなぁ。キラキラしてて、すっごい輝いてるけど。目とか。
「せっかくの『ドラゴンフライ』のレース!そして豪華商品!!スタートから、最後にチェッカーフラッグが振られるその瞬間まで!その全てを記録に収めたい!その為には!!」
―――バッ
「?!!」
「レースに出場してくれるヒロインが必要なんですわーーーー!」
―――ぱちぱちぱちぱちぱち…
「…さっき言ってたのって、こういうこと?」
「こういうことです!あなた方の可愛さと綺麗さなら、とても良い画が撮れますわー!!!」
…何だか、大変な子に捕まっちゃった予感。