深読みしちゃいますよ?


マネージャーと縁、それからリクが成人を迎えた。何か変わったのかと言われれば、多分何も変わっていないと思う。俺も成人する前は20歳が遥か遠くにいる大人に思えていたけれど、いざその歳を迎えてみると変化なんてない。ただ歳をとっただけだ。
ああでもひとつだけ、変わったことがあるか。縁が社長とマネージャーと暮らしていた実家を出て、一人暮らしを始めたこと。それを聞いたのは彼女の誕生日当日だった。お互いに時間が合ったからメシ食いに行って、その帰りに聞いたんだよな。家を出ようと思います、って。
特に何かあったわけではないけれど、成人したら独り立ちをしようとずっと考えてたんだと。もちろん、社長達には事前に相談・報告も済んでるってさ。まぁ、そりゃそうだよなぁ。さすがにもう家も決めてある、って聞いた時にはビックリしたけど。

「どう?一人暮らしは」
「家事は実家でもしてたので問題ないんですけど、自分以外に誰もいないっていうのは慣れないです」
「そのうち慣れるよ。淋しい時はマネージャー呼べば?」
「…大和くんは呼んだらダメです?」

彼女の発言に飲んでいたビールを吹き出しかけた。いや、ゴフッて噎せたけど。だってさ、普段はこんなこと言い出すような子じゃないんだよ?もうちっとクールっつーか…そりゃあ出会った時に比べれば、大分雰囲気も柔らかくなったし、よく笑ってくれるようにもなったけど。
とりあえず、2人きりになった時に急にデレ発言するのやめよっか。嬉しいけど、お兄さんの心臓がもちません。割かし真面目に。

「ジョーダンです」
「真顔で言うのやめて。…縁に言われたら本気にするだろ」
「本気にしてくれるんですか?」

逸らしていた視線を戻せば、頬杖をついて柔らかな笑みを浮かべている縁がいた。ああ、こういう風に笑ってくれるのも結構好きだな―――じゃなくて。え、本気にしていいの?冗談でなく?
思わずポカーンとしてしまった俺をよそに、縁はゴソゴソとカバンを漁り始めた。何か探してるみたいだけど、…急にどうしたんだ?その姿を見ているうちに思考回路は冷静を取り戻したので、縁の探し物が見つかるまで大人しくビールでも飲んでるかね。
ぐびり、と一口飲んで、焼き鳥に手を伸ばしかけた所で鍵が置かれた。俺の目の前に。…何だコレ。いや、何かは見りゃわかるけど。

「なに、これ」
「鍵です」
「いや、そりゃ見ればわかるけど…そうじゃなくてな?」
「私の、家の鍵です」

危うく、焼き鳥に殺されるかと思った。喉に詰まりかけた焼き鳥を慌ててビールで流し込み、ホッと息を吐く。当事者である縁は、そんな俺を見てビックリしてるけど原因は完全にお前さんだかんな?!それ以外に誰もいねぇかんな?!突然、爆弾を落とすクセをやめろマジで…!
ほんっと時々、この子の行動や言動には頭を抱えたくなる。嫌な気は全くしないし、嬉しいことに変わりはねぇんだけど心臓がもたないんだよ毎度毎度!!

「あのねぇ、縁さん…!」
「わ、私もガラじゃないなとか思ってますけど!!」
「いや、ガラじゃないとかそういう話でなくてな?!」

ああもういいや…説明した所で多分、直らないだろうし。だってこの子のあれそれはきっと、本人も気がついていないくらいの無意識だ。無意識で引き起こされている行動や言動を直せ、と言われても、それはもう無理な話だっていうのは嫌って程わかってるからな。
だから心臓には悪いけど、頭抱えたくなるけど、それでもめちゃくちゃ嬉しくて、直してほしくないって思う俺もいるんだ。何かこう、色んな想いがぐるぐるせめぎ合ってるっていうか…とりあえず、ニヤケないようにするのに必死です。うん。全てを誤魔化すようにテーブルの上に置かれたままの鍵に触れた。

「大和くん?」
「これ、…俺がもらっていいの?」
「はい」
「返せって言われても、返さねぇぞ」
「もちろんです」


うわぁ、言い切っちゃった。何か男前だなぁ、前から薄々感じてたけど。でもまぁ…縁の瞳には迷いの色はないし、発言を撤回する様子もない。この鍵は本当に頂いてもいいらしい。

「じゃあ有難くもらう」
「ええ、どうぞ」
「くれるってことはさ、…押しかけてもいいの?」
「そのつもりで、お渡ししてますよ」

ああもう、この子には敵わないなぁ。
自分の立場はわかってるつもりだし、メンバーにも事務所にも社長にもマネージャーにも―――そして縁にも迷惑をかけるつもりはない。だから、この鍵を使う頻度はそう多くないと思う。きっとそれは彼女だってわかってるはずだ。
それでも渡してくれたってことは、…もう少しだけ近づいても、許してくれるってことなんだろうか。踏み込んでもいいって、意思表示だって深読みしちゃうよ?

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