これで許して、なんてつもりはないけれど
―――デートしよう。
そう誘ったのは俺の方。久しぶりにオフが重なって、至急覚えなきゃいけない台本もないからってあの子に誘いをかけた。断られるかな、と思っていたけれど、案外すんなりと了承してくれてホッとしたのは記憶に新しい。そして嬉しそうに口元を綻ばせていたのも。
side:大和
それなのに、俺は何で街中をダッシュで駆け抜けているんですかね?!正解はただひとつ、なかなか寝付けずに盛大に寝坊しちまったからです!!理由がとんでもねぇわ、俺!
縁に遅れる旨の連絡はしたし、寝坊はしたもののデートだし服はきっちり選んできた。朝食は抜いてきたけど、それはもう自業自得なので仕方がない。昼メシまでの我慢だから、そう大変なことでもないからな。
ああもう、何も久しぶりのデートでやらかさなくったっていいだろうに…!しかもなかなか寝付けなくてって、遠足前の子どもかっつーの。本当ならとっくに待ち合わせ場所にいるはずだったのに。そんなことを思ってももう後の祭りなので、必死に縁の元へと急ぐ。
元々の待ち合わせ場所は駅前だったけれど、どれくらい遅れるかすぐには予想できなかったからどこか店に入ってて、とラビチャを送っておいた。近くまで来た所で乱れた呼吸を整えながら、縁からきたラビチャを開く。確かカフェで待ってます、ってURLと一緒にメッセージがきていたはずだよな。ええっと、…ああ、駅からすぐの所だ。ってことはこっちだな。
(…あ、いた)
窓際のカウンターに座り、スマホを見ている縁を発見。
気がつくかな、と思ったけど、さすがにそう上手くはいかないか。中に入って声をかけよう。
「―――縁」
「あ、おはようございます。大和くん」
「ん、おはよ。遅れてごめん…!」
「大丈夫。最近、仕事が詰まってて疲れてたんですよ」
いや、あの、うん…確かに仕事は詰まってたけど…寝坊の理由はそれじゃないんだ多分。ただ言葉にするのはやっぱり恥ずかしくて、悪いと思いつつも苦笑を浮かべて誤魔化してしまった。ほんっとごめん、縁。
遅れたのは10分程ではあるが、罪悪感がすごい。なのに待たされていたはずの縁はにこにこ笑って、気にしてなさそうに見えるから…困るんだ。俺も大分甘やかす方だと思うけど、縁もなかなかなんだよな。
「少し休憩します?飲み物買ってきますよ」
「頼むからあんまり優しくしないで…お兄さん、更に罪悪感募る……」
「何ですかそれ」
私が優しくしたいんですよ、とクスクス楽しそうに笑うから、此処が外だということも忘れて抱きしめそうになる。ああもう、罪悪感はまだ消えないけど可愛いなこの子は!
「あー…でもちょっとだけ休憩はしていい?」
「はい、もちろん」
「飲み物買ってくるわ。縁はおかわりする?遅れたお詫びに奢るし」
「いえいえ、大丈夫です。お気になさらず」
んー…あんまり無理強いは良くないか。昼メシの時にでも何かデザートをつけよう。もしくはまた休憩する時にでも。今買ってきてもいいけど、昼食べる前だからなぁ…縁は特別食が細いわけではないけど、変な時間に食べると腹が減らないとかあるしね。とりあえずコーヒーだけ買ってこよ。
手早くコーヒーを買って、縁の隣に腰を下ろす。すると、俺を見上げて嬉しそうに笑った。ねぇ、本当抱きしめそうになるからやめて。いや、やめなくていいんだけど…俺自身の問題だもんな。これは。
(それにしても…)
よく笑ってくれるようになったなぁ、と思う。もちろん、前から笑ってくれていたけど…何だろ。愛想笑いってわけじゃないけどこう…心から笑ってないというか何というか。まぁ、俺が言えたことじゃないんだけどな。
「縁、どこ行きたい?」
「え?大和くん、行きたい所あったんじゃないんですか?」
「んー…場所、考えてなかったんだよな」
オフがかぶるなら、ってほぼ勢いで誘ったようなものだから。此処に行きたいとか、あそこへ連れて行きたいとか、何も考えずに誘っちまった。ただひたすらに会いたくて、2人で出かけたくて。隠しても仕方がないから、素直にそう言葉にしたら縁は真っ赤になっちゃって。
ああ、こういう所も可愛いんだよなぁ。いつまで経ってもこんな風に初々しい反応を返してくれることがある。つき合いたての頃に比べれば少なくなったけど、素直に言葉にすると今日みたいに顔を真っ赤にするんだよな。仕事モードの縁もカッコ良くて好きだけど、オフになると途端に可愛さが増す。
「―――あ、」
「どうしました?」
「そういや、九条からオススメのカフェを教えてもらったなって思って」
「…また珍しい人から聞きましたね」
「この前、単発ドラマの顔合わせで会ってさ…ああ、これだ」
そうそう。ケーキが美味しいって評判で、そしてゆったりとして落ち着いた雰囲気の隠れ家みたいなカフェなんだと。何で俺に教えてくれんのかな、と思ったけど…多分、縁を連れて行ってやったら?ってことなんだろうな。この子、甘いもの好きだし。八乙女曰く、九条は九条なりに縁のことを大事に思ってくれているらしいので。
「わ、ケーキ美味しそう…!」
「美味しいって評判なんだって。行ってみる?」
「行きたいです!」
「ん。じゃあ昼メシ食って、少しブラついたら行ってみるか」
「はぁい」
温くなったコーヒーを飲み干して立ち上がる。一緒に縁のマグカップも回収して返却口へ。
外に出て手を差し出せば、一瞬だけ辺りを窺うように視線を彷徨わせてから、そっと指先を握ってきた。それもかわいいんだけど、俺としてはしっかり手を繋ぎたいんだよなぁ…でもまぁ、いいか。今はこれでも。
「昼メシのリクエストは?」
「リクエストですか?そうですねぇ…パスタかお米か……」
「パスタ好きだよね、お前さん」
「好きです。美味しいじゃないですか」
うん、まぁ美味いけど。パスタか米……この辺はあんまり来ないから、どんな店があるかわからないんだよな。あとで九条にオススメしてもらったカフェに行くなら、そっちで探してみるのもアリだろうか。大きいショッピングモールも近くにあるみたいだし。
道を検索してみると、歩いて行けそうな距離だった。それに美味しそうなイタリアンの店も見つけたし、ひとまず移動しましょうかね。
「大和くん?」
「散歩がてら行ってみようぜ、この店」
「イタリアンですか?」
「そう。ご所望のパスタですよ」
「嬉しいですけど、…大和くんは食べたいものないんですか?」
うん、今更それ聞くの?
「パスタ嫌いじゃないし、他にもメニューあるから大丈夫」
「……今度は大和くんの好きなもの、食べたいものを食べに行きましょうね」
「次の約束、してくれんの?」
「?当たり前じゃないですか。いつになるかはわかりませんけど…」
ははっそりゃそうだな。またしばらくはドラマの撮影とか、新曲のレッスンやレコーディング、歌番組の出演でスケジュールみっちりだからなぁ。
それでも、…縁が至極当たり前のように『次は』って言ってくれるのが嬉しくて仕方ない。それを嬉しいと思える俺も、少しは変わったってことなのかもな。
「んじゃ行きますかね。遅れちゃった分、とことん甘やかすから覚悟しておいてね?」
「不穏な言葉に聞こえるのは気のせいですか?!」
そんな風に言いながらも、「その笑顔はカッコいいですけども!」って褒めてくれるもんだから、思わず吹き出してしまったのは仕方ないと思う。