弱った時によく効くクスリ
ふっと目が覚めた。部屋の中は真っ暗になっており、つけた記憶のない豆電球がついていた。
あれ…私、病院に行って…その後はご飯を食べてから薬を飲んでベッドに潜り込んだはず。それは確か、お昼を少し過ぎた頃だったはずなのだけれど。カーテンはしめていたものの、昼間なら電気をつけずとも問題はないからつけなかったのよね。眠るだけだから必要もなかったし。
そして今の今まで起きた記憶もない。ということは、誰かが来たということだ。…あ、そういえば紡くんが仕事を急いで終わらせて行くからね、ってラビチャがきていたような気がする。
「あ、縁ちゃん目が覚めた?」
起き上がってぼんやりと思い出していたら、部屋のドアがそーっと開き、紡くんがひょっこりと顔を出した。
「紡くん…」
「私が来た頃より赤みが引いたね、良かった」
「ああ、やっぱり豆電球つけてくれたの紡くんかぁ…」
「いらないお世話かなって思ったんだけど、目が覚めた時に真っ暗なのって結構怖いでしょ?」
電気つけるね、と律儀にも断りをいれてから、電気のスイッチを入れた双子の妹。それからにっこり笑って、ご飯できてるから持ってくると部屋を出ていった。紡くんのご飯を食べるの久しぶりかも…まぁきっとおじやだとは思うのだけれど。それでも嬉しいものは嬉しい。
少しずつぼんやりとしていた頭がクリアになっていくと同時に、ふるりと体が震えた。そうか、上半身を起こしているから冷えてきたんだ。さっきまで布団に潜りこんでたもんなぁ。布団の上に無造作に放り投げていたカーディガンを手繰り寄せ、それを羽織ればいくらかマシになった気がする。うん。
「縁ちゃん、ご飯持ってきたよ」
「ありがとう…スープ?」
「うん。おじやにしようかな、と思ったんだけど、子供の頃に風邪をひくとお父さんがよく作ってくれてたの思い出して」
「そういえば…鍋いっぱいに野菜スープ作ってくれてたね、お父さん」
「そうそう。それで懐かしくなって、作ってみたんだ」
ふわりと湯気と共に立ち昇るコンソメのいい香り。野菜はくたくたになるまで煮込まれていて、にんじんもとても柔らかくて食べやすかった。美味しい…懐かしい味だな。食べられないかも、と思っていたんだけれど、熱が下がり始めているからか食欲も戻ってきているみたい。少なめに盛られたスープをあっさり完食してしまった。
美味しかったしもう一杯食べようかとも思ったけど、用心してやめておこうと思う。うん。ごちそうさま、と口に出せば、紡くんはスプーンをくわえたまま嬉しそうに破顔した。可愛いなぁ。
「美味しかった」
「良かった。はい、薬も忘れないうちに」
「はーい」
「…あ、そうだ。皆さんからね、色々と預かってきたんだよ」
「皆さん?」
「うん、アイドリッシュセブンの皆さん。ラビチャするって言ってたけど」
さっきまで寝てたし、ラビチャはまだチェックしてなかったなぁ。ベッドのサイドボードに置きっぱなしにしていた携帯を見てみると、確かにラビチャが何件もきていた。紡くんの言う通り、アイドリッシュセブンの皆さんからのグループラビチャと大和くん個人から…それも数時間前に。
返信はいい、と書いてあるものの、さすがにお礼はしないとマズイのでは?あ、万理さんからもきてるし…!
「あ、お父さん…じゃない、社長からの伝言。明日もしっかり休むこと!社長命令です!だって」
「うう、やっぱり…」
「しっかり治してからじゃないと出勤させないに決まってるでしょ。疲労もあるんだろうし、休むのにいい機会だよ」
紡くんも、アイドリッシュセブンの皆さんも、万理さんも…優しすぎる言葉をかけてくれて、泣きそうになる。嬉しいことには変わりないのだけれど、それ以上に体調管理ができていない自分が情けなさすぎて悔しい。
膝を立ててそこに顔を埋めると、ぽふぽふと頭を優しく撫でられた。大丈夫だよ、と言われているようで、余計に涙腺が緩んでしまう。双子とはいえ、私の方がお姉ちゃんなのに。
「今日は泊まってくから安心してね」
「…うん」
「キッチンの片付けして、シャワー借りるね。はい、お布団入って」
「ふふ…紡くんの方がお姉ちゃんみたい」
「こういう時くらい頼ってくれなきゃ。…大丈夫だからね、縁ちゃん」
「ありがと、紡くん」
最後にもう一度、私の頭を撫でて彼女は部屋を出ていった。