01
side:大和
「え?トラブル?」
「そうなんです…なので、お迎えは私が代わりに」
「いや、それは全然構わないけど…大丈夫なの?ソウとタマと姐さん」
単純にメンバーと彼女が心配で、自然とその言葉が口をついて出た。特にソウと姐さんは背負い込みがちな所があるから、余計に。タマがうまーく気分転換させてやれてりゃいいんだけど…どうだろうな。
俺の言葉にマネージャーは、眉を下げて何とも言えない顔で笑った。ああ、これはちょーっと大変な感じか?一瞬ソウとタマが何かやらかしたのかと思ったけど、アイツらの今日のスケジュールを思い出して多分違うだろうなと思い直した。
今日のラストの仕事は確か、MEZZO"が主演の単発ドラマの撮影だったはずだ。出演者の中に、気難しいと有名な女優がいた気がする。恐らくはその人なんだろう、トラブルの要因は。あんまり悪くは言いたくないけどな。
「疲れた顔して帰ってくるんだろうな…アイツらも、あの子も」
「大和さん?ボーッとして、どうかされましたか?もしかして、具合が悪いとか…」
「いや、ちょっと考え事してただけ。なぁ、姐さんってそのまま直帰?」
「はい、何時に終わるか読めないのでさすがに…」
「じゃあマネージャーにお願いがあるんだけど」
明日はオフ。それに気がついた瞬間、俺はすぐさま行動に移していた。
あの後、俺はマネージャーにスーパーに寄ってもらってから寮に送ってもらった。もちろん、ひとつの許可をもらって。
何の許可かと言いますと、今日この後の時間から明日まで姐さんの家で過ごす許可です。別にさ、俺も姐さんももう成人してっから許可なんてもらわなくてもいいかもしれないんだけど…これでも特殊な職業に就いてる自覚はあるからさ?居場所は教えておくべきかなって。あと何となく、マネージャーには言っておいた方がいい気がしたってだけ。互いに大好きだから、あの双子。
寮に帰ってからは夕飯食って、風呂入って、ただ今キッチンを占領して料理中だったりする。興味津々に覗き込んできてるミツとナギ付きで。
「ヤマト、こんな時間から何故料理を作り始めたのです?」
「足りなかったってわけじゃないよな。この食材、自分で買ってきたやつだろ?」
「んー縁の分」
「…ああ、何かトラブってんだっけ」
ミツはどうやら知ってるらしいが、ナギは知らないらしく説明してもらってる。 キョトンとした表情がどんどん曇っていく様は、いまだに胸が痛くなるんだよなぁ。
それでも美形なことに変わりなくて、憎らしくもあるけど。何年経っても顔が良いんだよな…さすが王子って感じ?
「Oh…それでソウゴとタマキはまだ帰ってないのですね」
「そういうこと。まだ連絡ないし、下手すりゃ日付変わっちまうかもなぁ」
「3人とも、大丈夫なんでしょうか…」
「トラブっちまうのは仕方ないさ。どうしてもな」
人間が作ってるものは、どこかでぶつかることが多々ある。ぶつからないで作れりゃ一番幸せなのかもしれないが、そうもいかないのが人生なんだよな。
まぁ、作品のことを思ってぶつかるのはまだいいと思うんだけど…今回のトラブルは、多分そういうやつじゃねぇから心配になる。心配してもどうにもならないんだけどな。
でもさ、それでも何かしてあげたい気持ちもあって…それで思いついたのが、料理を作ることだった。ソウとタマの分はミツが作ってくれたのがあるから、俺からはデザートの差し入れだけ。これ以上あっても多いだろうし、何時に帰ってこれるかも不明だから。食べるのが明日の朝になってもいいようにな。
「前の大和さんだったら、思いついてもやらなそうだよな。こういうの」
「俺も思ったから言わないで」
「ヤマト、ずいぶんと素直になりました。良いことです!」
悪いことだとはさすがに思ってないけど、改めて言われるとめちゃくちゃ恥ずかしいな。これ。
何してんだ俺、って気分になってくる。
「ミツ、ナギ、これ味見して」
「YES!味見大歓迎です!」
「ん、うま。もう火ィ止めていいぞ」
「リョーカイ。…うん、こんなもんか」
一応、保存できる料理を選んで作ったけど…ちょーっと張り切りすぎたか?品数も量も多い気がする。やっべ。
「大和さん、これさすがに一人暮らしの女の子の家に持っていく量じゃないよ」
「だよな。こっちにも置いておくか」
「やった!常備菜があると、結構便利なんだよな〜」
寮の食生活を支えてくれてんのは、ミツだからなぁ。ソウや俺も作るけど、基本はコイツが主体で動いてる。少しでもその助けになるんなら、結構嬉しいもんだ。
粗熱を取ってからタッパーに詰めていくと、ものすごい量になった。いや、ここまで多いと作った本人ですら引くわ…どれだけ分量ミスってんだよ俺。さすがに笑えてくるわ。
「ヤマト、今日はあちらに泊まりですか?」
「一応、そのつもり。何時に帰ってくるかもわかんねぇしな」
「壮五達から連絡ないし…まだかかりそうだな」
「ま、気長に待つさ。明日はオフだしな」
「気をつけて行ってきてくださいね」
「あっ明日、夕飯こっちで食べるならちゃんと連絡しろよ!じゃないと準備できねぇから」
「わかってるよ。じゃ、いってきまーす」
「ええ、いってらっしゃい」
「いってらっしゃーい大和さん!」
ミツとナギに送り出され、俺は寮を後にした。作った料理は全部持った、スマホと財布もあるし…もらった合鍵もちゃんと持ってきた。よし、忘れ物はないな。
…そういや、この合鍵使うの初めてだな。もらったものの使う機会なんてなかったし。そもそも姐さん家に行くのも、引越しの手伝いした時以来だしな。
有難いことに仕事をたくさん頂けてるから、あまり姐さんと過ごす時間が取れていない。とはいえ、家に遊びに行く時間が取れてないだけで、メシくらいはちょこちょこ行けてるんだけども。
「今回みたいにオフ前日に行けりゃいいんだけど…縁が嫌がるからなぁ」
嬉しいですけど休んでくださいとか、メンバーと話す時間を作ってあげてくださいとか…いつもそう言われてしまう。そうこうしているうちに気がつけば、合鍵をもらってから半年が過ぎていた。
押しかけていいって言ってたくせに、いまだ実現はされていない。気遣ってくれるのは嬉しいんだけどな、うん。俺からしてみれば、家族と離れてひとりで暮らしているあの子の方が心配なわけで。
俺はいまだ寮で暮らしているから、食事作るのも、洗濯するのも、掃除するのも当番制だ。だからそこまで負担があるわけでもない。でもひとりで暮らしている姐さんは違うだろ?余計に無理してないか、ちゃんと食事してるか気になって仕方がないんだ。真正面から聞いたってはぐらかされるだけだし。
だったら突撃してしまおうと、そう思ったのは迎えに来てくれたマネージャーからトラブってると聞いた時だ。そして今に至る。
終バスに乗り込んで、揺られること20分弱。何とか縁の家に着いたものの…まだ帰ってきてる感じではないな。少しだけ帰ってこられていたらいい、と願ったけれど、それは儚くも砕け散ったらしい。仕方ないけど。
鍵を開けてそっと入り込めば、予想通り中は真っ暗だった。まぁ、そうだよな。とりあえず、作ってきた料理を冷蔵庫に突っ込んでおくか。米も炊いておいてやりたいけど、食うかどうかもわからないからなー…今回はやめておくか。
次の機会には先に行くことを連絡しよう。そうすりゃ帰ってきたらすぐ食えるように準備もできんだろ。
「さてさて…あの子は何時に帰ってきますかね」