見守っていてあげるから


楽と龍さんにはバレてしまってそのまま報告、としたものの、いまだに天くんには二階堂さんとおつき合いしていることを話せていない。
無理に話すことはしないでいいとは思っているものの、つき合い始めた頃に会った時に近々報告するって言っちゃったんだよね。彼が覚えているかはわからないし、期待しないで待ってるとも言っていた覚えはあるけれど。…でも、このまま言わないでいるのも何だか嫌だ。楽達には知られているから、尚更そう思うのかもしれない。
怒られるかもしれないけれど、連絡をしてみよう。うん。





「珍しいね、縁から連絡してくるなんて」
「そう?」
「あまりプライベートで連絡してこないタイプでしょう。特に同じ業界の人には」
「…否定は、しない」

連絡先を交換していても、基本的には連絡をしない。恋人である二階堂さんですら、こちらから連絡する時は仕事に関することだけ。プライベートな連絡は、いつだって二階堂さんからだ。
その事実にはずっと前から気がついていたけれど、何となく…改善できないでいるのです。そりゃあ天くんもビックリするわよね?そんな私から突然連絡が来たら。私が天くんの立場だったら、やっぱりビックリすると思う。天くんオススメだというケーキを口にしながら、内心頷いた。

「まぁ、ちょっと…話したいことがあって」
「それは前に言っていた、いずれ話す機会を設けるって言っていたこと?」
「覚えてたの…」
「記憶力はいい方だからね。それにあの時の君は、とてもいい顔で笑っていたから」

実は気になっていたんだ。ずっと。
天くんはそう言って、いたずらっぽい笑みを浮かべた。こんな風に笑う彼は少し珍しいかもしれない。それに覚えているとも思ってなかった。決して天くんの記憶力が悪いと思っているわけではなくて、きっと興味なんてないだろうと思い込んでいたから。
だからもう、あの時の会話なんて綺麗さっぱり忘れているものだと…でもどうやら違ったみたい。紅茶を一口飲んで、改めて天くんと向き直った。

「あの、ね…3ヶ月くらい前からかな。おつき合いしている人が、いるの」
「―――そう。あの頃、いい笑顔で笑っていたのはそういうことだったんだ」
「うん。でもあの時はまだ、言える時期じゃなくて」

社長であるお父さんにも、紡くんや万理さん、それからアイドリッシュセブンの皆さんにも話していない時期だったから、その前に話すわけにもいかなくて。
今思えば、二階堂さんのお名前を明かさなければ良かっただけなんだけど…でも天くんのことだから、伏せていたとしてもいずれ知られていたかもしれないけどね。

「相手は、二階堂大和なんだろう?」
「んぐっ…!」

思わぬ指摘に、そして詰められた距離に驚きすぎて紅茶が変な所に入ってしまった。ゲホゴホと噎せながらも、何で相手がバレたのか頭の中はフル回転している状態。確かにTRIGGERと仕事が一緒になることは何度もあったけれど、でも仕事とプライベートはきっちり分けているつもりだからバレるような軽率な行動はしていない―――はずだ。二階堂さんも私も。あの人だってプロ意識は強かったはずだから。
そもそも二階堂さんのマネージャーとして付き添うことは、そう多くない。それもTRIGGERがいる現場に。天くんは何で相手が二階堂さんだと、当たりをつけることができたのだろう。いくら何でも不思議すぎる。

「天くんのその推理力は何なの…」
「ふふ、さあ?」
「楽達に聞いたりした?もしかして」
「まさか。楽も龍も、口は堅い方だよ。こういうことに関しては尚更ね」

ですよね。さすがにそれはないと思ってはいたけど、何となく確認したくなるじゃない。

「安心して、君達のプロ意識が足りないとかそういうことではないから」
「あ、そう…」
「何となく、縁が惹かれるとしたら彼だろうって思っただけだよ」

君達は、どこか似ているように感じていたから。
柔らかい笑みを浮かべた天くんに、どういうことなんだとは…聞くことができなかった。それはきっと、私自身も心のどこかで同じように思ったことがあったからなんだろう。それを改めて、第三者に指摘されてしまうと気恥ずかしいけれど。
何となく二の句が紡げなくなってしまい、それを隠すようにまたカップに口をつけた。そんな私を見て天くんは更に笑みを深め、私だけに聞こえる大きさの声で「おめでとう」と言ってくれたのです。

「君と二階堂大和のことだ。何も考えずにいるってことはないでしょう?」
「それが天くんが思っていることと同じとは、限らないけれど」
「ボクが思っていることと同じである必要なんて、カケラもないよ。君達がしっかりわかっているなら、それでいい」
「…うん」
「縁の友人として、アイドルでも何でもない『ボク』から言わせてもらえば―――笑っていて、縁」

ポカンと口を開けてしまった。だって、そんな言葉をかけられるとは思っていなかったから。仕事中であればきっと怒られてしまうようなマヌケ顔を晒しているのだけれど、今はそうでないからか私のマヌケ顔を正面から見てしまった天くんはクスクスと楽し気に笑っていて。
ああ、やっぱり笑った顔も綺麗だなぁなんて全く見当違いの感想を抱いていた。

「ビックリした…そんなこと言われるなんて思っていなかったから」
「前にも言ったでしょう?笑顔を曇らせないで、って。君には笑顔が似合うんだ」
「面と向かって言われると、照れるのだけれど…」
「でも本心だ。ボクは嘘は言わないよ」

ええ、それはわかっていますけれども。
別に嘘を言っているとか、そんなことを疑っているわけではないんだけど…改めて言われてしまったから、どうこの気持ちを飲み込んだらいいのかわからなくて戸惑っているだけなんだと思う。

「何かあったら連絡して。話くらい、聞いてあげられると思うから」
「ありがとう、心強い」
「それじゃ、ボクは行くよ。またね」
「うん、今日はありがとう」

ひらり、と片手を振って、天くんはカフェを出ていった。夕方から新曲のダンスレッスンだと言っていたのに、その前に時間を作ってくれるとは…彼は大丈夫、と言ってくれたけれど、やっぱり申し訳ない気持ちが込み上げてくる。
でもその反面、話せて良かったと思っている自分がいるのも確かだ。改めてお礼のメッセージを送っておかなければいけませんね。

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