取り戻した笑顔
僕は、一度死んだ。…いや、死んだとは少し違うか、壊れたっていう方が正しいかも。
だけど、僕が此処にいることを望んでくれる人達が呼び戻してくれて、もう一度、生を受けることが出来たんだ。
今度こそ、何も取りこぼしたくない。失いたくない。離れ、たくない。
全てを守る、なんて綺麗事かもしれないし、無理難題だってわかってる。何も失わずに生きていくなんてこと、きっと出来やしないから。それでも、一番大切な人達だけは…何としてでも守り抜きたい。
最後まで名前を知らぬままだった国を出て、僕達は新しい国へと降り立った。そこは平和で、綺麗な花がたっくさん咲いてる所。どうやら花が有名な国らしく、近隣諸国に輸出してるくらいなんだってさ。そりゃあ、国自体も緑豊かで色とりどりにもなるよねー。今の時期なら桜の花が綺麗だよ、と花売りのおじさんが教えてくれました。
桜かぁ…桜都国で初めて見て、その後に日本国でも満開の綺麗な桜を見た。でもそれっきり見てないし、諸々落ち着いたらちょっとだけ見に行ってみようかな!綺麗な時期なら、尚更見ておかなくちゃ損だもんね。出来れば―――黒鋼くんと、一緒に見に行きたいけど…嫌がったりしないだろうか?
チラリ、と隣に立つ黒鋼くんの顔を盗み見る。初めて会った頃よりずっとずっと優しくなった、僕の想い人。今となっては片思いでなく両思い、…つまりは恋人となったわけです。まだ信じられないくらいなんだけどね、この事実。だけど、夢でも妄想でもない。確かに僕達はあの日、想いを通じ合わせたんだ。
その時のことを思い出すだけで、顔から火が出そうになるくらいに恥ずかしいんだけど…でも、やっぱり嬉しい気持ちの方が大きいかも。大好きな人と想いが通じ合うって、こんなにも嬉しくて幸せなことだったんだね。黒鋼くんを好きになってから、たくさんの初めてを経験した気がする。
「…さっきからなに人の顔じろじろ見てんだ」
「いや、あの、その…ですね、」
「緋月ちゃーん、黒様ー!置いてっちゃうよー?」
「あっはーい!…ね、黒鋼くん。あとで一緒に出掛けよ」
「ああ」
色よい返事に約束だからね!と念を押してから、少し先に行ってしまったシャオとファイくんの背中を追いかけた。
「それで?何処に行きてぇんだよ」
しばらくお世話になる家を見つけて、必要なものをある程度買い出しして、ついでにこの国の服に着替えて。それら全てを終えたのはお昼を大分過ぎた頃でした。さすがに食材の買い出しはしてなかったから皆で外食して、僕と黒鋼くんは少しだけ寄り道中です!
「さっき花売りのおじさんが今の時期なら桜が綺麗だよ、って言っての覚えてる?」
「ああ…そういや、そんなこと言ってたような気がするな。見に行きてぇのか」
「うん!満開だって話だし、早く見に行かないと散っちゃうもん」
大好きな花を見るなら、大好きな人に隣にいてもらいたい。桜はキミが初めてくれた約束の花だから。だからね、どうしてもキミと見に行きたかったんだ。そりゃもちろん、皆と一緒でも良かったんだけど…少しだけ、恋人らしいことしてみたかったので。
2人で出かけたことがないわけではないけど、でもそれは想いを通じ合わせるずっと前のこと。僕はその時、もう彼に淡い恋心を抱いていたけど黒鋼くんはどう だったか知らない。そういうこと話してないし、多分、聞いても答えてくれない気がする。恥ずかしがりやさんだからねー。…こう言ったら怒るから絶対に言わないけど。
手持ち無沙汰な右手でそっと黒鋼くんの左手に触れれば、大きくて温かな手がきゅっと包み込んでくれる。その温かさは自然と笑みが零れてしまうくらいに、とっても幸せで。こう、…胸の奥がぎゅーってするの。だけど、それは痛いとかじゃなくて…えっと、愛しい?って言えばいいのかな、そんな気持ちがぶわーって全身を巡っていくんだ。
好きだ、って気持ちが、色んな所から溢れ出てくる気がする。たくさんのこの想いをキミに伝えたいけど、きっと言葉にしてみたら安っぽく聞こえてしまうんだろうなぁ。だから、だからね?僕、決めたんだ。言葉に出来ない分、伝えられない分、行動で示そうって。手を繋いだ先から、抱きしめた腕から、僕の気持ちが伝わりますよう。それでも抱えきれない分は、
「ねぇ、黒鋼くん。僕ね、キミのことが大好きだよ!」
安っぽくても、安易でも、言葉にしてキミに届けるよ。
恥ずかしがっても、無愛想な態度をとっても全然いい。構わない。…でも、そっと掬い上げてね?