桜への願い事


黒鋼くんを連れ立って出かけた先は、今が満開だと言われていた桜の木。確かに花屋のおじさんが言っていた通り、ピンク色の花がこれでもか!ってくらいに満開に咲き誇っていて。時折吹く風に舞う花弁がとても綺麗だった。



ヒラヒラ舞う花弁を一生懸命掴もうとするけれど、そう簡単にいくはずもないのです。でも掴めないのがすっごい悔しくて追い掛け回していたら、襟元をグイッと引っ張られた。お?と思って上を向けば、眉間にシワを寄せた黒鋼くんの顔が見えた。怒ってるっていうよりは、呆れてる感じかなぁ?


「なに阿呆なことしてやがんだ、お前は」
「えへ、花弁掴もうと奮闘してたー」
「んなの見てりゃわかる。俺が聞いてんのはその理由だ」


ああ、そういうことか。それならそうと早く言ってくれればいいのにー、ってへらりと笑みを浮かべて言えば、「へらいのの言い方を真似するのは止めろ」と苦い顔。
まぁ、それはさておき。僕が花弁を追い掛け回していた理由。それは、とてもくだらない理由なんだ。
内容は詳しく覚えてないんだけど、前に読んだ本の中にとあるおまじないの話が書いてあって。その中に『桜の花弁が地面に落ちる前に掴んで、それが3回成功すると恋の願いが叶う』ってやつがあったことを、今思い出したの。だからついやってみたくなっちゃったんだよねぇ。

…黒鋼くんと想いを通じ合わせることが出来て、これ以上の幸せはないと思ってる。不満なんて1つもない。だけど、やっぱり人間って欲張りなんだなぁ…それなのにもっと、って望んじゃうんだもの。
今この時が一番幸せなのに、もっと遥かな未来。それこそこの旅が終わりを迎えた後も、キミの傍にいられたらーなんて思っちゃってる。その願いを桜に託そうとしたんだ、これ以上のことをキミに願ったら罰が当たっちゃうもんね。


「きっとね、ヒラヒラ舞う花弁を3枚連続で取ることなんて無理だと思う。…だけど、本当にそれで願いが叶うなら、」

縋ってみたくなったんだ。

「…お前って、頭良いのか阿呆なのかよくわかんねぇな」
「また阿呆って言った?!」
「阿呆だろ。んなの桜に願うことでもねぇだろうが」


緋月の願いくらい、俺が叶えてやるよ。
ニヤリ、と不敵な笑みを浮かべたかと思えば、僕の頭をぐしゃぐしゃに撫で回す黒鋼くん。本当にもう、…どれだけ僕を喜ばせればキミは気が済むんだろうか。
ねぇ、気が付いてないでしょう?キミがどれだけ、僕の願いを叶えてきてくれてるか。その言葉達にどれだけ救われてきたか。僕の今の幸せは、全部ぜーんぶキミがくれたものなんだよ?黒鋼くん。それなのにまだ僕の願いを叶えようとしてくれてるなんて、本当に変わり者だね。


「キミはさ、願いとかないの?」
「あ?花に願うようなもんはねぇな」
「ははっ何て言うか、…うん、キミらしい答えだ」
「欲しいもんは自分で手に入れる。それだけのことだろ」
「自分で、かぁ…」


桜へ願おうとした淡い、淡い願い事。
それをキミに話したらいつか本当に、叶えてくれるのだろうか?


「あっケーキ屋さんだ!黒鋼くん、お土産にケーキ買っていこう!!」
「おい。さっきまでの雰囲気はどこに放り投げやがった、てめぇ」
「女の子というものはこういうものなのだよ!あ、さくらシフォンとか美味しそう…!」


いつか言葉にできたらいい。でも今はまだ、内緒にさせてね。
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