いつもの僕ら
ファイくんに告白というものをされて、どれくらいの時間が経っただろう。最初は気まずい(と言っても、僕だけだと思うけど)状態が続いてて上手く笑えなかったりもしたけど、「笑って」と言われてしまったら…そうする他ないと思うんです。
でも当人であるファイくんは告白したらスッキリしてしまったらしく、笑っちゃうほどにいつも通り僕に接してくれている。それを見たら、いつも通りでもいいのかなーって思っちゃって…気が付いたら何だかんだで元鞘に落ち着いてたんだよね、これが。
本当にもう、あのシリアスな雰囲気はどこにいったんだ。
「でもまぁ、これが僕達なんだろうねー」
「?なに1人でブツブツ言ってやがる」
「んーん、何でもないよー」
隣に座った黒鋼くんに寄りかかって読書再開。重いとか邪魔だとか言われるけど、そう言いつつもどかそうとはしないんだもん。やっぱり優しいよねぇ、この人。見た目はこんなんなのに。
お気に入りの紅茶を淹れて、作り置きしておいたクッキーを置いて、更に新しく買った本と大好きな人の温もり。これだけのものが揃っているなんて、幸せ以外の何物でもないよね。自然とにやけてしまうくらいには幸せだな、と感じてるわけですよ。隣にいる彼は知りませんけど。
僕はこういうちょっとしたことで嬉しくなったり、幸せになっちゃう安上がりな人間なのです。
ちなみに。ファイくんとシャオとモコは買い物に行ってて、僕達はお留守番なの。たまには2人でのんびりしたら?っていうファイくんの気遣いみたい。嬉しいような、くすぐったいような…変な感じ。
本当は外に行っても良かったんだけど、ちょっとね…こういう、好きな人と部屋でのんびり過ごすことに憧れてたからいいかなー、って。もちろんデートだってたくさんしたいけどね。
あー、でもこんな風に黒鋼くんと2人でのんびりするのって初めてかも。2人きりっていうのが、そもそも少ないし。
ペラリ、と紙を捲る音だけが響く部屋。お互いに何も言葉を発しないけれど、この沈黙も嫌だと感じることはなくて。むしろ、心地良いくらい。静かなのが好きってわけではないと思うんだけど、黒鋼くんと一緒ならこんな風に静かな時間を過ごすのも悪くないなぁって。ただ背中に温もりを感じて、好きなことをして、時々言葉を交わして、…ああやっぱり幸せ。
大分前に淹れた紅茶はすっかり温くなってしまっているけれど、まぁいいか。飲めないわけじゃないし。
冷えた紅茶を口にしながら続きを読んでいると、さっきから彼が微動だにしないことに気が付いた。マガニャンを熟読していたはずなんだけど、思えばページを捲る音もしないような気がする。
「…あらま、」
そっと視線を向けてみれば、あらびっくり。人前で寝ることのない黒鋼くんが、ぐっすりと眠り込んでるんだもん。目を閉じてるだけかな、と頬に触れてみるけど、一切起きる気配がない。…ということは、この人、本気で眠ってやがる…!うわーうわー、すっごい珍しい!写真撮りたいくらいに珍しい!!
あ、でも写真なんか撮ったら怒られて破られちゃいそうだなぁ。1枚くらい好きな人の写真って持っておきたいものなんだけど、…それを言ったらいつも傍にいんだろとか何とか、めっちゃカッコ良いこと言われて悶え死ぬだけだと思うんだ。恥ずかしげもなく僕が欲しい言葉をぽんぽんと言ってくれちゃうんだから、この人は本当すごい。
とまぁ、それは置いておいて。こんな間近で黒鋼くんの寝顔見られるなんて貴重だぁ…付き合ってるとはいえ、一緒に寝ることなんてないし。告白される前に2回くらい一緒に寝たことはあるけど、あれは僕が無理矢理にーって感じだったしなぁ。
ふふ、寝てる時も眉間にシワ寄せちゃって…こういう時くらい気を抜いてればいいのに。そういえば、いつだってこの人は周りに気を回していた気がする。それを他人に悟られないようにしていたけど、目を光らせて、神経を尖らせて、誰かに危険が及ばないように。そんな所も好きだな、とは思うけど。
「僕と2人きりの時くらい、…もう少し気を許してくれたら嬉しいんだけどなぁ」
膝にのせていた本と彼が読んでいたマガニャンをテーブルの上に置くと、少しだけ身じろいだ気配。起きたかな、と思ったんだけど、すぐにまた気持ちよさそうな寝息が響き渡る。その事実に少しだけホッとする。だって、せっかく熟睡しているのに起こしちゃったら可哀相じゃない?彼の性格上、夜も何かあったらすぐに臨戦態勢に入れるように神経を尖らせているんだろうから。今ぐらい、…ゆっくり休ませてあげたいの。
額にキスを1つ。音にはせずおやすみと告げて、僕もそっと目を閉じる。傍らに大切なキミの気配と温かさを感じて眠ることが出来るなんて、あの頃の僕じゃきっと想像もできなかっただろうね。
この温もりも、幸せも、居場所も、…彼自身も、大切に大切にしていきたいなぁ。
「もっとたくさんの時間、一緒に過ごしていこうね…」
(ただいまー、って…あれ?2人とも寝てるー?)
(本当だ。こんなに無防備に寝ているなんて、珍しいな)
(黒鋼も緋月も気持ちよさそうに寝てるのー!)
(起こすのも可哀相だし、ご飯が出来たら起こしてあげよっかぁ)
(ああ、それがいいかもしれない)