明日を目指せ
全員ボロボロで、特に怪我のひどかった三蔵様にはお手製の痛み止めを飲んで頂いていたので、お酒はダメですって言って取り上げたのが昨日の夕飯時。
…なのに、何故かその後宴会チックになってしまいまして…八戒くんと悟浄くんだって決して軽い怪我ではないのに、気がついたらお酒を飲んでいて。ジョッキを取り上げたはずの三蔵様もいつの間にか飲んでるし、…あっという間にどんちゃん騒ぎ。
多分、一区切りついてホッとしたのもあったんでしょうねぇ…三蔵様も回収できましたし(お荷物扱いしているつもりはないけど)。
そんな状態で飲めば当然、お酒の廻りは早いわけです。身体は半端ない疲労を訴えてますしね。ある意味、病み上がりの集団なんですけどね?今の私達は。それでも止める気にならなかったのは、…皆さんが笑っていらっしゃったからだと思うんです。
「…でもやっぱり、加減はしろって思うんですけどね」
「うー…頭いてぇ」
「自業自得でしょ。はい、お水」
「香ちゃんつめてー…サンキュ」
まだお水用意しているだけいいと思いなさい。酔っ払いめ。
三蔵様・悟空・悟浄くんが酔いつぶれて自然とお開きになった昨日の宴会のせいで、部屋の中はひどい有様だ。いつもなら八戒くんと私で片づけてから寝るんだけど、私達も思っていたより酔っ払ってしまってそのまま寝ちゃったみたいなんですよね。悟浄くんと違って二日酔いにはなっていないし、スッキリ目覚めることができましたけど。
ああでも、まだ傷は痛むなぁ…気功で塞いでもらっているとはいえ、怪我がなかったことになっているわけではないので、ダメージは残ったままなんです。血が止まってるだけラッキー、という感じですかね。なので、あまり激しい運動をすると多分、開くと思うんです。うん。
それに塞いでもらった以外にも傷はありますし、もう全身痛いのでどこが痛いのかも正直、よくわかっていなかったりする。
「けど、思ったより皆さんの回復が早いですね」
「三蔵様はまだキツそうですが、悟空と悟浄くんは割と大丈夫そうに見えます」
「これでもまーだ全身いってぇけどな」
「昨日の今日ですから、完全回復とは言えませんって」
「とりあえず、買い出しは少しずつしていった方がいいかもしれませんね」
「ええ。香鈴、あとでピックアップするの手伝ってもらえますか?」
八戒くんの言葉にもちろんです、と答えてから、部屋の片づけに手を付け始めた。その後は血塗れになってしまった服の洗濯と、破れた箇所の補修をしたり、お茶を飲んでのんびりしたり…何か、旅をしているのを忘れそうになってしまうくらいゆったりと時間が流れていっているような気がします。
きっとこの状態を天から見ている菩薩様は―――というより、二郎神様は何をしているんだってげんなりしていそうですね。事は重大で緊急、あまり寄り道をしている時間はないって言われてしまいそうですが、…私は今まで無駄だった寄り道とか、時間とかないと思っているので。どれもこれも必要な時間だった、って思ってるんですよ。無駄なことなんて一つもなかった、って。
「香鈴、なにニヤけていやがる」
「…元気だなー、と思って」
「フン。ただうるせぇだけだろ」
「それがいいんですよ。…それが、私達ですもの」
三蔵様のコーヒーを淹れ直して、買い足さなければいけないものをチェックする作業に入った。…ら、思った以上に買うものが多くて八戒くんと苦笑い。
悟空の大怪我や、砂漠の集落での出来事や、あの男との戦いなどですっかり忘れていましたが…しばらく私達は三蔵様と別行動をしていて、一文無しもいいとこだったんでしたよね。先立つものがなければ買うこともできない、ということは、今の私達には旅を続けるのに必要な物資がほとんどないということになるんです。
うーわーぁ、これはまた…三仏神様がびっくりするくらいの金額を使うハメになりそうですよ?ここ最近はそこまで使っていなかったから、どうにかなるかもしれませんが。いつかまた会った時に「金遣いが荒い!!」とか怒られそうな気がしてなりません。
「うーん…これ、何往復もしないと買い切れませんよ?八戒くん」
「ですねぇ。……仕方ない、3人の不良園児にも手伝ってもらいましょうか」
え、悟浄くんと悟空はともかくとしても、三蔵様が行きますかね?素直に。なんて私の心配は大ハズレ、どういう風に頼んだかは知りませんけど、幾分かげっそりした三蔵様が大人しく私達の後ろを歩いています。…うん、これは聞かない方が身の為のような気がするからそっとしておこう。
でも全員で買い出しって、なかなかに珍しい光景です。大抵、八戒くんと私の2人か、もしくは悟浄くんと悟空を引っ張り出して4人というのがセオリーで、三蔵様はいっつもお留守番。町に着いてすぐに買い出しに行く時以外は、ほとんど別行動ですからね。私達。
「何で俺まで買い出しにつき合うハメになるんだ…」
「たまにはいいじゃありませんか。外の空気を吸うことも大事ですよ?三蔵」
「人を引き籠りみたいに言うな」
「普段、引き籠りみたいになってんだろーが」
「うるせぇぞ、クソ河童」
「…何で口を開くと喧嘩しかしないんですか、君達は」
「あっ香鈴、アレ食いたい!」
「はいはい、買い食いは買い出しが終わったらつき合ってあげるから我慢して」
悟空の頭をぽん、と撫でれば、満面の笑みを浮かべてわかった!と元気なお返事。うーん、悟空は素直でいいなぁ…三蔵様もこのくらい素直でいてくれると―――…いや、それはちょっと嫌だな。素直な性格の三蔵様とか想像できない。
―――スパンッ
「いった?!急に何ですか、三蔵様!!」
「ロクでもねぇこと考えてただろ」
「………ソンナコトアリマセンヨ」
「香ちゃん、お前、嘘つくの下手すぎ」
「いつもはもっとそつなくかわしてんのになー」
「あはは。ギャップが激しいですよね、香鈴は」
もう…少しずつ回復しているらしく、ハリセンの強さも上がっている気がします。てっぺん痛いですもん。
「つーかよ八戒。あとどんだけ買うんだよ」
「えっと、もうある程度は買い終わったので…ああ、あとは三蔵と悟浄の煙草だけですね」
すでに私達は大量の紙袋を抱えていて、これ以上は持てない!という所まできていました。特に力のある悟空と悟浄くんにはたくさん持って頂いてますので、文句を言われてしまうのも当然のことなのです。
でも気がつけばほとんどを買い終えていたらしく、残すは煙草だけ。それを聞いて悟浄くんはようやくホッとした表情を浮かべていました。あとは煙草だけなら、一旦、荷物を置きに宿に戻ってもいいかもしれませんね…それから煙草を買いに行って、小腹も空きましたから何かおやつになるものを買って―――宿でお茶にするとしましょうか。
私がそう提案すれば、あらびっくり。全員に賛同して頂きました。だけど、悟空が宿でお茶をするんじゃなくて屋台を回って買い食いしたい!と言い出しちゃいましたけどね。あ、そっか。さっき買い出しが終わったらつき合ってあげる、って言ったんだっけ。
「どうせだったら5人で行こうぜ!」
「バカ猿。てめぇだけで行ってこい」
「―――いいじゃないですか。行きましょうよ、皆さんで」
「…ま、香ちゃんの頼みだったら仕方ねーな」
「こんなにのんびりできることも早々ないですしね」
三蔵様の意見は総じて却下、って感じのようです。そうと決まれば早く荷物を置きに行こう、と走り出す悟空に私達は苦笑したり、呆れの溜息を吐いたり。
…いつも通りの光景が、こんなにも愛しい。愛しくて、大切で、大好きで、…自然と笑顔になれる場所は、この方達の傍だけだ。
「明日からまた―――元気に、笑っていきましょうね」
くるり、と振り返って笑えば、太陽に照らされた皆さんが笑ってくれたような、気がした。
「紅英様、―――ようやく、ようやくです…やっと貴方を見つけました」
500年の時を越えてようやく、貴方のお傍に行くことができる。
ようやく―――貴方を解放することができるのです。もう少しだけお待ちください。
「そして貴方を、我が手に」
ひとりの男が、ニヤリと口角を上げて笑った。