side:八戒
その日は赤く、大きな月が出ていた。そんな日に悟浄が拾った怪我をした女性。町から家までの道に倒れていて、お腹を真っ赤に染めて…意識は辛うじてあったみたいですが、すぐに綺麗な黒曜石の瞳は隠れてしまいました。
お医者さんにはもう診てもらって、治療も施した。怪我はひどいけど、命に別条はないそうですからしっかり休めば、普通に動けるようになるそうで。僕は彼女の知り合いでも何でもないですけど、でもホッとしたんですよね。良かった、って。
…花喃とは全く似ていないのに、それでもやっぱり目の前で血を流すこの人を見て―――心臓が跳ねたのも、事実だった。
「(彼女の身に何が起きたかなんて、僕が知る術はないけれど…)」
でもどうしてだろう。彼女が纏う雰囲気というか、…匂いと言ってしまうと何か色々とアレのような気がしますけど、僕と似ているような気がしてしまって仕方ないんです。彼女が倒れていた場所と、怪我をしている場所が同じだったからでしょうか…?そんな理由で似ている、と思ってしまうのは、いまだ意識を取り戻さないこの人に失礼だとは思っているんですけどね。一度芽生えてしまった気持ちはなかなか消えてくれなかった。
…悟浄は、どうしてこの人を拾ったのでしょう。僕のこともそうだけど、拾ってしまったら色々と面倒なのは目に見えていたはずなんです。出会ってまだ数ヶ月ですけど、彼の人となりは何となく理解しているつもりですし、粋がっている割には他人を放っておくこともできない…言うなれば、器用貧乏な人だと思う。
だから、怪我をして倒れている僕や彼女を放っておくことができなかったんでしょうけど。それが理由、なのかな?僕達を拾った。理由なんて彼自身に聞かなければわからないけれど、でも今は…聞かなくてもいいかもしれませんね。
チラリ、と苦しそうに呼吸を繰り返しながら眠る彼女を瞳に映して、思う。この人は目を覚ました時、生きている自分をどう思うのだろう、と。僕は…これで良かったんだ、と思った反面、やっぱり地獄に堕ちることを望んでいた部分もあったから、だから―――この人が僕と同じように死ぬことを望んでいたとしたら、どう思うんだろうって、そう思ってしまった。そんなこと、赤の他人である僕が気にすることじゃあないことはわかってますけどね。
「貴方は、…その瞳に何を映すのでしょうね」
哀しみ?絶望?それとも―――希望?
もし、もし…目を覚ました彼女が死を望むのだとしたら、僕は…いえ、僕達はどうするんだろうか。死なせてあげるのが優しさ?でも、そうだとしたら、この人を拾った行為と明らかに矛盾する。
…そう、きっとこれは僕達のエゴなんだ。