天下一拳闘会、そのいち。
とある町に辿り着いた。…のだけれど、何だか町全体が騒がしい感じがします。熱気に溢れているというか何というか…うん、ハッキリ言っちゃえば暑苦しいってやつなんですけれども。
一体、何なんだろう?と首を傾げながら周りを見ていると、一番前を歩いていた悟空が「あっ!」と声を上げました。何か美味しそうなものでも見つけたのでしょうか?足早に近寄ってみると、悟空が見つけたのは食べ物ではなく1枚のポスター。
「てんかいち……けんとうかい?」
「所謂、武道大会ですね」
「な〜〜んかどっかで聞いたよーなネーミングだな」
「悟浄くん、それを言ったらダメですよ」
気にしたら負けなのです。こういうのは。
「開催の日付、今日じゃねぇか」
「え?あ、本当だ…」
ああ、成程。これで町全体が暑苦しく感じた理由がわかりました、これが開催されるからなんですね。そこら中が飾りつけられてるし、慌ただしく準備している方々もたくさんいらっしゃいます。暑苦しくもあるけれど、活気があって賑やかなのも本当です。お祭りみたいなものでしょうから、もしかしたら会場付近には屋台が出ているかもしれませんね。暑苦しいのは勘弁だけど、お祭りの賑やかな雰囲気は大好きです!
それにしても、今日開催なのにまだ挑戦者を募集しているんですね。アナウンスを聞く限りだと、もうすぐ募集終了みたいですけど…彼らは興味なさそうかなぁ。八戒くんが面白がって申し込みます?と三蔵様に声を掛けていらっしゃいますけど、うん、やっぱりあの御方は一刀両断しています。悟空はちょっと乗り気、かな。悟浄くんも面倒なことはあまり好きな方ではないから、興味を持っていない様子。
まぁ、町主催の大会のようですし…挑戦者達もそこまで強くないって思っていらっしゃるのかも。というか、悟浄くんはハッキリそう口にしてますしね。
(普段から妖怪を相手にしてますしねぇ…その影響かな)
人間にも強い方はいらっしゃるのですが、そうそう出会えるものでもない。
うんうん、と勝手に納得していると、女性の黄色い声が聞こえた。うん?何で町中でキャーッて声が……振り向いた先には、それはもう目を瞠るほどの素晴らしい筋肉をお持ちの方々がうようよと。あ、案の定悟空が目を輝かせている。
「男はやっぱり筋肉よねぇ!」
「わかるわかる!!」
「ずいぶんとマニアックな嗜好の町ですねぇ」
八戒くんに同意です。他人の嗜好にあれこれ言う趣味はありませんが、…うん、確かにマニアック。私も好きか嫌いかで聞かれたら、多分嫌いではないと答えると思いますけど、あの女性達程の反応はしないと思います。
ああでも、ガトさんの鍛え抜かれた筋肉はすごかったなぁ…あの方の体は素晴らしかった。
「香鈴もさっきのような人達の方が好きですか?」
「…それ、君自身が聞いちゃうんです?八戒くん」
「いやぁ、だって気になるじゃないですか」
あはは、と笑ってはいるけれど、僅かに動揺―――というか、焦燥感を感じますね。全く、変な所気にしちゃうんですから。この方は。
「まぁ、全くないよりかはあった方がいいとは思いますけど…」
「けど?」
「私のタイプは目の前にいる翠の方なので、他人と比べるつもりはありませんよ」
「……それはちょっと、反則ですよ香鈴…!」
「こっちも十分恥ずかしい思いしてるので、おあいこってことにしてください」
やっぱりこういうことを言うのは慣れていない。言い終わった瞬間、というより、言っている最中から顔が熱くなっていたし、何よりも恥ずかしくて仕方なかったんですから。顔を逸らしてしまっているから、今八戒くんがどんな表情をしているのか見ることはできませんが、声のトーンから察するにきっと彼の顔も真っ赤になっていることでしょう。こんな状態を悟浄くん達に見られたくはありませんね…からかわれるに決まってる。
ふ、と息を吐いて気持ちを落ち着かせていると、辺りが一気にざわつき始めた。何事だ、とびっくりしていると、至る所からチャンピオンだ、という声が聞こえてくる。チャンピオンって、…もしかして、この武道大会の?へぇ、どんな人なんだろう。
ちょっとだけワクワクしながら視線を向けると、もう絶句する他ないだろ!ってくらいの御方がバニーガールの女性2人を連れて闊歩していました。
「………あれが、チャンピオンです?」
「何アレ。」
「愉快なオッサンですねぇ」
「え、愉快とかそんな次元ですか?」
小声にすることもなく、堂々とそんなことを話していたらチャンピオンの目がこっちを向きました。完全にロックオンされた気分です、そんなこたないと思いますけど。
私達の姿を捉えたチャンピオンは、フッと笑みを浮かべて色紙のようなものに何かをサラサラと書き始め、それをぶん投げてきました。そして見事に三蔵様の顔にダイレクトヒット。ついでに「そんな貧相な体格では、俺に憧れるのも無理はないか」と言われる始末。
いや、決して憧れの気持ちを抱いて見ていたわけではないのですが…!完っ全に勘違いされましたねぇ。アレ。
「だが、女のファンがまた増えるのは悪くない」
まだ立ち去っていなかったチャンピオンはそんなセリフを紡ぎ、投げキッスをして去っていかれました。え、今のってもしかしなくても私に向かってしてきました…?!
思わず、うっわぁという表情になったのは仕方がないと思うんです。周りの女性陣はキャーキャー言って騒いでますけど。…あれ、カッコいいんだ…そうなんだ…。
―――ジャキッ
「え?ジャキッ?」
「うわーっストップ、三蔵ストップ!!」
「お前も気功溜めんな八戒!気持ちはわかるけど!!」
「何で八戒くんまで臨戦態勢になってんですか!落ち着きなさい、2人共!!」
後ろを振り向いたら、般若と化した三蔵様と八戒くんが臨戦態勢でした。
マジでやめてください。
「……エントリーにはまだ間に合うな」
「ええ、十分間に合いますよ」
「三蔵様、八戒くん…まさかと思いますが―――参加なさるんですの?」
「当たり前だろ。あの筋肉に思い知らせてやろうじゃねぇか、天下は広いんだってことをな……!!」
三蔵様がやる気になった理由はわかるけど、何で八戒くんまでやる気になったのかがわからない。わからないけど、何だか面白いことになりそうな予感がするのでいいかなぁ。
(八戒、顔が怖い。香ちゃん泣くぞ?)
(だってあれ許せます?悟浄は許せるんですか?!)
(だぁから落ち着け!迫ってくんな!!)
(前よりは鋭くなりましたけど、無意識に惹きつけるんですよねぇ…あの子)
(ま、かーわいいからな?香ちゃん)
(あげませんよ?)
(盗らねぇよバカ)