天下一拳闘会、そのに。


無事にエントリーを済ませた八戒くん達と一緒に、盛り上がっている会場へと足を踏み入れた。
うっわぁ…!町の盛り上がり具合から観客は多いんだろうな、と予想していましたけど、本当にすっごい数!これは予想以上ですね。まぁ、この方達は緊張なんてしないでしょうけれど。どれだけギャラリーが多くても、マイペースに勝ち進んでいく気がしています。

(4人が残ったら面白いだろうなぁ…)

それぞれの実力は、それはもう痛い程に知っています。だからこそ、ちょっとした興味本位が見えてくるんですよねぇ…あの4人の中で一番強いのって誰なんだろう。
まだ始まる前ですし、1人も欠けずに彼らが勝ち進んでいくとは限らない。他の出場者の方々の実力がどんなものか、この時点では全くわかっていませんもの。筋肉がすごい方が多数いらっしゃる…というか、八戒くん達以外は皆さんムキムキだったのでそれなりに力はありそうな気がしてますが。
でもほら、力と戦う能力とかって別次元の問題じゃないですか。多分、戦い慣れているのは4人の方だと思うんですよねぇ。はてさて、一体どんな結果になるんでしょう。


「あ、悟空の対戦相手って例の愉快なオッサンじゃないですか」
「お前までそう呼んじゃうのかよ、香ちゃん…」
「何気に気に入ってます?その呼び方」
「じわじわとキてます」


そして大会が開幕したのですが、…したはずなのですが、辺りはしーんと静まり返っている。ようやく我に返ったであろう司会者が発した言葉で、観客達の熱気が戻ってきました。

そう、何と悟空はあの愉快なオッサン―――もとい、昨年のチャンピオンをぶっ倒してしまったのです。

だから皆さん、虚をつかれたかのように静かになってしまったのでしょう。私達からすれば当然の結果、なんだけれど。だって悟空だもん、いくら相手が昨年のチャンピオンでも負けるわけないよ。


「チッつまらん」
「あんな弱ぇなら一回戦で俺が当たりたかったぜ」
「ビックリするほどあっけなかったですね。…ボコボコにするつもりだったのに」
「八戒、発言が不穏」
「でも予想通り過ぎてつまんないですよー…私も参加すれば良かったな」


買ってきたコーヒーを飲みながらぼやけば、両側から「それはやめろ。」と真剣な顔で止められました。何でだ。


「どーすんだ?倒しちゃったけど」
「もう用はねぇだろ」
「えー?棄権しちゃうんですか?」
「…何でてめぇががっかりしてるんだよ、香鈴」
「ふふっだって皆さんが戦ってる姿って、カッコイイんですもの。普段は見ている余裕なんてないから、こういう時くらい見ていたいです」
「………てめぇは本当に…」


三蔵様が頭抱えて黙り込んじゃった。え?私、そんなに変なこと言いました?悟浄くんもそっぽ向いちゃったし、悟空は笑ってるけどちょっと顔赤いし、八戒くんですら手で顔を覆ってしまっている。
何故、皆さんがそんな反応を返してきたのかわからなくて首を傾げるばかりです。本音を言っただけですのに…。


「ええっと、…香鈴の一言が一番の続行理由になりそうですけど、優勝すれば300万と豪華賞品らしいですよ」
「あー…やっと熱引いた。俺らの中で誰か一人でも残りゃいいんだしよ、もらっておいても損はなくね?」
「そーだなっ誰かが勝てば山分けだもんな!!」
「……なら、さっさと済ませるぞ」


というわけで、優勝目指して続行です。
どの方達も優勝候補らしいんですけど、正直、彼らの敵ではないみたい。実戦主義である方達には敵わないってことかなぁ…毎日が戦場ですもん。ただのケンカとはワケが違う。バッタバッタと倒していく4人の姿を見て、自然と口元が緩んでしまいますね。ほぼ1発KOなので試合時間は短いですけど、それでも鮮やかですし、やっぱりカッコイイです!
はー…町の女性の方々は「筋肉がなくちゃ」って口を揃えて言っていらっしゃいましたけど、あそこまで筋肉がなくともカッコイイ方はここにいらっしゃいますし、頼りがいだってあるんですよー。
ふふん、と自慢したい気分になっているけれど、時折聞こえる司会者の声に眉間にシワが寄ってしまう。だって事あるごとに彼らのことを貧相だって言うんですもん。そりゃあ許せないでしょう?
確かに4人は他の出場者の方みたいに筋肉はありませんよ?でもだからといって、弱いということではないんです。強さと筋肉は必ずしもイコールにはならない、ということ。


「香ちゃーん、顔ニヤケてんぞ?」
「だぁって皆さんカッコイイんですもん!」
「そりゃドーモ。でも一番カッコイイのは、アイツだろ?」


悟浄くんの一言にへにゃ、と笑みを浮かべれば、仕方ねぇなぁって顔をしながらも笑って、私の頭をぐしゃぐしゃとかき混ぜた。


「ちょっと悟浄、香鈴の髪がボサボサになってるじゃないですか」
「この子があんまりにも可愛いこと言い続けるからよ」
「だからってここまでぐちゃぐちゃになるまで撫でなくても…あ、そういえば次の対戦相手決まりましたよ」
「えっだれだれ?!……って、え?」
「まぁ、ここまで全員勝ち進んできたことを考えれば、当然の結果ですよね」
「…誰か一人残りゃあいいんだな?」


とっても不敵な笑みを浮かべていらっしゃいますねぇ。純粋に楽しみだって顔をしているのは、悟空だけ。それにしても、4人が残ったら面白いなぁと思ってはいたけれど…

『孫悟空 VS 玄奘』
『猪八戒 VS 沙悟浄』

本当にこんな準決勝になるとは思いもしませんでした。いや、途中からこれはひょっとしてひょっとするかもとは思っていましたけれども!まさか現実になっちゃうとは…他の方々達が弱すぎちゃいましたね。言っちゃ悪いですけど。
だけど、やっぱり楽しみだなぁ。だって三蔵様と悟空、そして八戒くんと悟浄くんが対決する姿なんて絶対に見れないですもん!今日限り、ってやつですよね。


「香鈴、香鈴っ!悟浄と八戒の対決が先だって!いっちゃん前で見ようぜ!」
「うん。ほら、三蔵様も」
「おいこら、引っ張るな…っ!」


一番いい場所を陣取り、準決勝が始まるのを待つ。ソワソワしていると、隣に座った三蔵様に落ち着け、と叩かれちゃいましたけど。ハリセンとか銃じゃなかっただけマシかな、と思ってしまう辺り、毒されてるなぁと苦笑が漏れてしまいますね。慣れって怖い。いいんだけど、別に。


『さて、Aブロックの最終決戦は…リーチの長さと場慣れしたケンカスタイル!誰が呼んだか『赤すぎる流星』沙〜〜〜悟浄ォ!!』

「…そんなの誰も呼んでないよね?」
「あはははっおっもしれぇな、アイツ!」

『対するは、破壊力抜群の気功術に爽やかスマイル!『闘う眼鏡っ子』猪八〜〜〜っ戒!!』

「めっ…眼鏡っ子……!」
「……この司会者、なんとかなんねぇのか」
「うおお、なんかキンチョーするー!!!」


ちょ、ちょっと可愛いかも。眼鏡っ子って。でも笑っていられたのはそこまで、試合が始まってしまえば次々に息を飲む展開が襲ってきて、今日一番のワクワクかもしれない…!手に汗握る、とはよく言うけれど、今正にそんな状況だな、とどこか冷静な頭で考える。
こうなったら面白いと思っていた反面、知り合い同士―――特に親友と呼べる間柄である八戒くんと悟浄くんは、まともに戦えるのだろうかとちょっと心配でもあったんです。ほら、憎まれ口を叩くけれど手は出せないかもしれないでしょう?だけど、この状況を見ると…それは私の杞憂だったんだな、と思えます。
というかきっと、この4人にはそんな心配は無用なんでしょう。知り合い、友人、仲間…そんな間柄でも勝負事なら容赦しない、それが彼らの『スタイル』なのだと実感しました。…でも笑顔で悟浄くんの顔面に、肘を喰らわせた八戒くんとだけは戦いたくないと心底思う。


「―――もらったァあ!!」
「あ、入った…!」
「うわ、案外モロじゃね?!」


これは悟浄くんの勝ちか、と会場全体が思った瞬間。ピクリとも動かなかった八戒くんの足が悟浄くんの首に巻き付き、そのまま思いっきり投げ飛ばしたんです。うわ、これは予想できなかった…!そして悟浄くん、何もこんな時までお人好しな部分を垣間見せなくてもいいのに。彼の長所だとは思うけれど、こういう時は不利ね。完璧に。
投げ飛ばされた悟浄くんは足が場外に出てしまったので、負け決定。決勝に進むのは八戒くんに決まりました。さて、次は三蔵様と悟空の対決ですね。こっちも見物だなぁ。


「いってらっしゃい、三蔵様。悟空」
「おうっいってくんなー香鈴!」
「…行ってくる」


2人と交代するように観客席へと戻ってきた、八戒くんと悟浄くん。2人共、汗だくですねぇ。
持っていたタオルと買ってきたドリンクを渡せば、2人の表情が少し綻んだ。


「ありがと、香ちゃん」
「すみません、ありがとうございます」
「いいえ。…ね、三蔵様と悟空、どっちが勝つと思います?」


まともにやれば下剋上モノですし、多分悟空の本気の一撃を食らったら三蔵様なんてひとたまりもないと思うんですけど…だけど、そう簡単に三蔵様がやられるとも思えないしなぁ。
うーん、と考え込みながら八戒くんと悟浄くんに問いかけてみたけれど、2人も私と同じ意見みたい。つまり、予想をつけづらいということでしょうか。


『舞のように流れる細い肢体と金の髪、『謎のセクシー僧侶』玄奘ぉおお〜〜〜!!』

「ぶっ!」
「はははははっ何だよセクシー僧侶って!ウケる!!」
「ふっ…わ、笑ったら悪いですよ、香鈴、悟浄」

『対するは、小さな身体に凝縮された無限のパワー!果汁100%『フレッシュ野生児』こと孫ん〜〜〜悟空!!』

「あ、フレッシュ野生児は的を得てますね」
「否定はしねぇけどよ…果汁100%って何だよ」
「八戒くんと悟浄くんの対決の時も思ってましたけど、この司会者さんって独特なセンスを持ってますよねぇ」


とりあえず、三蔵様の『セクシー僧侶』には大笑いです。これでしばらく笑えると思います。
…まぁ、それは置いておいて…試合、スタートのようですね。三蔵様と悟空のどちらが有利か、と言えば、何とも言えないんです。体力やスピード、それにパワーは圧倒的に悟空の方が上。だけど、悟空はそれ以前に三蔵様自身に弱い部分があるからなぁ…三蔵様もそれを理解していると思いますし。と言っても、無意識だと思いますけどね。

(長く一緒にいるから、悟空の攻撃パターンも見切っているはず…)

私の予想通り、三蔵様は繰り出される悟空の攻撃を次々と躱していらっしゃいます。最小限の動きではあるけれど、あれをずっと繰り返していたら直にあの御方はへばってしまうでしょう。体力、ないですからね。その辺りは悟空と真っ向勝負するだけ無駄というものだ。それを理解していない三蔵様じゃないでしょうし…さあ、どう動くのでしょう。


―――ドンッ

「……え?魔天経文?!」
「オイあれ武器に入んねぇの?!」
「まあ服の一部と言えなくもないでしょうが…」
「いやいやいや…どう考えてもナシでしょうこれ!」


リング上を覆い尽くすように広がった経文。観客席にいる私達はもちろん、リングにいる悟空だって前が見えない状況になっています。
それでも経文の隙間から人影を見つけたのでしょう、悟空が思いっきり蹴りを入れましたが―――それは何と、レフェリーさんの顔面でした。そして案の定、思いっきり吹っ飛びました。ええ、それはもう見事に場外まで。…大丈夫かな、死んでませんよね?


「経文をレフェリーの肩にかけてから発動させたのか…!」
「ずっけぇ!っつーかひでぇ!!」
「あはは…さすが三蔵様というか」


よく戦いながらこんな作戦思いついたなぁ、あの御方は。苦笑していると、別のレフェリーさんが何かカードのようなものを挙げている…何だろう、あれ?と首を傾げていると、司会者さんが悟空の失格を声高らかに宣言しました。
あ、レフェリーさんを直接攻撃しちゃったから反則なんだ。ということは、決勝戦って……八戒くんと三蔵様?うっわぁ、どんな戦いになるのか全く予想がつかないんですけど!


「……ん?」
「どーしたんだよ、香鈴」
「何か気なんのか?もう決勝始まんぞ」
「あ、うん…」


ふっと視線を移した先に見えた、とあるモノ。ひくり、と口元が歪むのがわかった。うん、これはー…棄権するんじゃないのかなぁ、2人もじっと見ていたし。
案の定、お腹が痛いだの持病の癪がだの理由をつけて、八戒くんと三蔵様は揃って棄権を申し出ました。悟浄くんと悟空は何で?って顔してますけど、優勝賞品見たらその理由もハッキリしますよ。賞金はともかく、あっちは絶対にいらないから。欲しくないから。
…とはいえ、優勝者がいないのはしまらないので…繰り上げ優勝として、悟浄くんがチャンピオンです。そして無理矢理服を脱がされ―――『天下一チャンピオンコスチューム』とやらを着せられました。栄誉ある、とか言ってますけど…とんでもなくダッサイですよねこれ。


「良かったな。」
「羨ましいなぁ。」
「ひーーーっひっひっひっひ!笑い死ぬ…!」
「ふ、…く、」
「てめェら、コレ知っててワザと降りたろ!つーか香ちゃんも三蔵も、肩震わせるくらいなら思いっきり笑いやがれ!いっそのこと!!」


え?笑っていいんですか?それじゃあ遠慮なく…


「ははっあはははははっ!も、もーダメお腹痛いー!何ですかそのダッサイの!!」
「…思いっきり笑われたら笑われたで、すっげー傷つく……」
「香鈴の笑いのツボは浅いですからね。それにこうなったらしばらくは笑ったまんまですよ」
「あー楽しかったっ」
「楽しかねぇよ!」
「来年もあるそうですよ?」
「…お前、俺達にアレ着せてぇだけだろ」


そしてまた、夕陽に向かって私達は走り出しました。



(ねぇねぇ、悟浄くん。あのコスチュームは着るんですか?)
(着ねぇよっ!)
(せっかくもらったのにもったいないですよ?悟浄)
(そーだ、そーだ!)
(是非とも着やがれ。指差して笑ってやる)
(てめェら……!)
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