紅と翠の光


―――あの日、平和だった日常が突然崩れた。まるで、砂の城のようにボロボロとあっけなく崩れ去り、更には踏みにじられて。
一体、私達が何をしたというのだろう。ただ静かに暮らしていただけなのに、放っておいてほしかっただけなのに、ただ…生きていたかっただけなのに。


「関わりたくないのなら、そっとしておいて…!」


家の中に飛び散る赤を見た瞬間、私の中でプツン、と何かが弾けて消えた。目の前も真っ赤に染まり、気が付いた時には私は全身を真っ赤に染めて、周りには何かの残骸が散らばっていた。それが村の人達だったもの、とわかるまでそう時間はかからなかった。だって、グチュリ、と何かを喰らうような薄気味悪い音が響いていたから。

ぼんやりと音の根源を見上げてみれば、それは真っ黒な―――闇のような漆黒を纏った怪物。それは私の影からズルリと姿を現していた。

蜘蛛のような形をしたソレは、逃げ惑う彼らを決して逃がしはしない。血だらけの口から吐き出される糸で体を絡め取り、刀のような鋭い触手を深々と突き立てる。痛みと恐怖からなのか、至る所からたくさんの悲鳴が聞こえる。「魔の物に魅入られた悪魔」とか「死神」だとか、好き勝手言っている声も耳に届く。
…うるさい。この子はそっとしておけば無害なんだ、それなのにアンタ達が―――――…


「私達を、放っておかないからだ」


ブワリ、と何かが舞う。悲鳴と共に真っ黒な手が村人を捕らえた。ソレはそのまま村人を闇の中へと引きずり込んでいく。…二度と出てくることなどできない、深い深い闇の底へ。


「ぜんぶ、ぜーんぶ…喰らってしまえ」


残すはあと1人。アイツを喰らえば、私の復讐は終わりを迎える。何よりも大切だった、私の家族を奪った―――憎き敵。
口元からダラダラと血を流したまま、私のお腹に棲みついた魔の物はユラリと蠢いた。最後の食糧を喰らう為に、ユラリと、ふわりと。ソレは真っ直ぐに男の元へと伸びていった、はずだった。けれど、男の腹を貫くことも、頭を潰すこともできなかった触手は、鈍い音を立てて地面へと突き刺さる。そこはさっきまで男がいたはずの場所。でも今は何も、いない。
何処へ消えたのだろう、と視線を巡らした時だった。ブスリ、と何かが刺さる音がして、お腹が灼けるように熱くなった。視線をお腹へと向けてみれば、そこには私のお腹に刃を突き立てる男の姿があったんだ。最期の悪足掻き…ただでは、死なないとでも言いたいのだろうか。


「喰らってしまえ。」


それは合図。男の命が絶たれる瞬間でもあった。
喰われる瞬間を目にする前に私は、フラリとその場を後にする。私が歩いた後には、点々と赤い斑点が道を作っていた。
意識が途切れる直前に聞こえたのは、誰かの、声。
- 3 -
prevbacknext