桜に秘めし、この想い
『待っていますから。
貴方が帰ってくる日まで、ずっと。』
『またね。』
この言葉達がどれだけ私を支えてくれたか。どれだけ私を奮い立たせてくれたか。
きっと君は知らないでしょう?でもいいの、知らなくていいの。これは私だけのお守りで、秘密だから。
「3ヶ月―――ま、予想よりは早かったな」
「死ぬ気でやってましたから。…これでようやく、」
―――君達の所へ、戻ることができる。
「ハハッうっれしそーな面してんなぁ、お前」
からかうような笑みを浮かべる菩薩様に向き直って、私も笑みを浮かべた。嬉しそうな面?当たり前じゃないですか、ようやく…戻ることができるんですもの。嬉しくないわけがないでしょう?それだけを楽しみに、やる気にして今の今まで修業に精を出してきたんですから。
いつの間にやら菩薩様が用意してくれていたらしい新しい服に袖を通し、天界に来てからは一切触れていなかった銃二丁をこれまた新しいホルスターにしまい、両太腿に取り付ける。久しぶりのこの感覚に自然と笑みが深くなるのを自覚して、今からこんなんじゃ4人に再会した瞬間―――私はどうなってしまうのだろうか、と苦笑する。
だって、…ねぇ?ただ愛銃を身に着けただけ、そして天界のものではない服を着ただけなのにコレですもん、あの4人に会ったら私、泣くんじゃありません?
「あー…涙腺緩みそう」
「くく、よく言うぜェ。二郎神や他の奴らが青褪めるほどのスパルタ修業を、1回も泣かずにやり遂げたクセして」
「それは先にご褒美が待っていたからですよ。もう止めるものは何もありませんから!」
そう。私は修業を終えるまで泣かない、と決めていたんです。弱音も吐かないし、くじけたりしないって決めて、この天界に来たんですから。
だけどそれも今日で終わり、もうすぐ大切な人達と再会することができるんです。だからもう、泣かない・弱音を吐かない・くじけないっていうアレは帳消し!ってわけなのだ。いや、この先もくじけたりしませんけど。
「さーて、香鈴。準備しろ、お前を―――アイツらの元へ送ってやる」
「はい」
「送ってやるっつっても、アイツらの元へすんなり行けると思ったら大間違いだぞ」
………はい?え、この唯我独尊の神様、今何と仰いました?
「だ、だっていつも私達の所へ真っ直ぐ降りて来ていたじゃないですか!!」
「そりゃあ俺は神様だからな、そんなことは朝飯前に決まってんだろ」
「話が噛み合わない!それだったら私のことも、彼らの元へすんなり送ってくれたっていいでしょう?!」
何も彼らのいない所へ送って頂く必要はないと思うんですよ。というか、必要性ゼロですよね?明らかにゼロですよね?!
しれっと口にした菩薩様にうがーっと突っかかっていると、菩薩様の口元がニヤリと歪んだのが目に入りました。そこで私、ようやく気がついた…
この御方は確実に私で遊んでいらっしゃると!
だって楽しそうに笑っていらっしゃいますし、この3ヶ月は私に付きっきりで修業してくれていましたから、そして合間に仕事をしていらっしゃったようですし…多分、面白いことがなくて暇だったんだと思います。
前からそうかもな、と思ってはいましたけど、毎日一緒にいて改めて感じました。この御方は暇が嫌いで、楽しいこと・面白いことが大好きなんだと。
何か、…色々と不安になってきましたよ。でも諦めも肝心か、と溜息をつくと、心の準備ができたら言えよーと言われたんですけど…心の準備って、なに。
「何だ、そのマヌケ面は」
「…イイエ、ナンデモアリマセン。」
「よし、それじゃあそろそろ送るぞ。―――死ぬなよ?」
「死にませんよ。何の為に此処に来たと思ってるんですか」
パチンッと何かを鳴らす音が耳に届き、私の身体が眩い光に包まれた。真っ白な光で何も見えなくなる、でもその前にずっと―――言えなかったことを、菩薩様に伝えなくちゃ。
「菩薩様っ!」
「ん?」
「ありがとうございました!…いってきます!」
一瞬、菩薩様が驚きで目を見開き、でもすぐに破顔した。嬉しそうに、楽しそうに笑う中、菩薩様が誰かの名前を呼んだような気がしたのだけれど、その名前は私の耳には届くことはなく。聞き返すこともできずに、そのまま天界を後にしたのです。
「―――よろしかったのですか、観世音菩薩」
「…何がだ、二郎神」
「あの御方をお傍に置いておかず、あ奴らの元へ返してしまって」
「最初からそういう約束だった。これも運命―――いや、必然かもしんねぇなぁ」
アイツはいつだって、あの男の傍にいたがった。今だって変わらない。生まれ変わろうと、何ひとつ覚えていなくとも、それでも…魂が求めてる。根本はアイツのままなんだ。
だから、…無意識に求めてるお前を俺には止めることが―――止める資格は、ないんだよ。
「今度は―――幸せになれよ、紅英」
その言葉と共に、桜の花弁がふわりと舞った。