another Epilogue.


彼女と初めて会ったのは、僕が第一小隊を指揮するようになって程なくしてのことだった。新しい子が来る、と部下達から聞いたんですけど…申し訳ないんですけどね、その時は欠片も興味がなかったんですよ。
どんな子が来ようとも僕の仕事は変わりませんし、彼らにやってもらうことだって変わらない。正直な所、誰が来てもさして問題もなければ変化もない―――そんな冷めた気持ちで彼女を迎えたんです。

基本、天界軍に属しているのは男ばかり。まぁ、一応は力があった方がいいですし、こういう軍の仕事っていうのは昔から男の領域だ!って考えがありますよね。女は手を出すな、的な。別に僕はそんな考えを持ってはいないんですが、今まで女の軍人がいたと聞いたことはありませんでしたから、驚きはしましたよ。
それもよくよく話を聞いてみれば、金蝉童子の妹さんだって言うじゃないですか。何でそんな子が、って最初は思いましたし、よく軍隊に入れたなぁって半ば呆れ・半ば感心していたんですよね。

動けるのなら別に性別は問わない―――最初はそう、思っていたはずだったんですけどね。その考えに少しずつ変化が表れ始めたのはいつからだったんでしょう…今ではもう、記憶が曖昧だ。好きになった瞬間だって、きっかけだって曖昧すぎて思い出せない。
けれど、コロコロと表情が変わる様が、花が咲いたような笑顔が好きだなぁって思って、見ていて飽きないって思ったことはよく覚えています。

『天蓬と捲簾に会えたから、私の世界は広がったんだよ』

いつだったか、貴方はそう言って笑っていましたけど、どちらかと言えばそれは僕の方だ。紅英に出会って、捲簾が第一小隊の大将に就任して、…それで1人で突っ走る僕のことを諌めてくれたのが貴方達2人だったんです。いつ死んでもおかしくなかった僕のことを助けて、それで怒ってくれたのは―――貴方達だけでした。
そのことがあってから余計に僕の中で、紅英と捲簾の存在が大きくなったんだ。もちろん、第一小隊の皆の存在もね。





「こ、れが…走馬灯ってやつなんですかねぇ」


ゼイゼイと荒い呼吸を繰り返す。もう動くことも、刀を握ることも叶いそうにない。…でもこの階にいた追っ手は全て切り伏せられたはずだ、きっと大丈夫。
ああ、金蝉と悟空は無事にゲートまで辿り着けたんでしょうか?僕と捲簾は一緒に行くことができなかったけれど、それでもあの2人が下界に下りることができるのなら…この命など、惜しくも何ともない。
紅英も、捲簾も―――送り出す時、こんな気持ちだったんでしょうかね。

不意にあの時のことが脳裏に浮かぶ。乱暴に重なった紅英と僕の唇、ムードもへったっくれもない初めてのキスだったけれど、それでも彼女の想いだけは胸の奥まで刺さるように届いたんだ。
あんな、…あんな必死の告白をしてくるなんて本当にズルイ子ですよね。それでいて僕の返事を待とうとも、聞こうともしないんですから。言うだけ言って、キスまでしてきたのにそれで満足だ、とでも言うような笑顔を浮かべちゃうんですから。あの子は。

(僕だって、貴方に伝えたい言葉があったんですよ…?)

そのことに気がついていないはずがなかったんだ。だって明らかに遮るように、僕の身体を押したんだから。最期だとわかっていながら、聞こうともしなかった貴方は…本当にズルイ。


「す、きですよ、僕も貴方のことが…ゴホッ……心、から、愛していました…紅英」
『―――ごめんね、天蓬。ちゃんと聞いてあげられなくて』
「紅、…」
『返事も、小言も、今度はちゃんと聞くから。…待ってる、から』
『ああ、俺もいるからな?忘れんじゃねーぞ!―――な?天蓬』


紅英の声が聞こえた気がした。捲簾の笑顔が見えた気がした。


―――そして世界は、永遠に暗転する。
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