きっかけは
大学生になってから、近所の図書館に行くことが増えた。もちろん大学にだって図書館はあるんだけど、お休みの時にまで1時間もかけて行きたくはない。そりゃ専門書の種類は豊富だし、それだけじゃなくて小説のジャンルも幅広いし、品揃えはいいと思ってる。…けど、いかんせん遠いんだよね…受けるって決めたのは他ならぬ私なんですけど。
まぁ、そんな理由で講義がない時に本が読みたくなると近所の図書館へ行くようになったんだ。図書館だから静かだし、レポートの提出期限が近い時も此処のパソコンルームでやることが増えたかなぁ…家にもパソコンはあるんだけど、ほら自分の部屋だと誘惑が多いじゃない?切羽詰ってる時に限って、その誘惑に簡単に負けちゃうからさ。そういう時にこの図書館のパソコンルームは最適ってわけ。
なので今日も提出期限間近のレポートを仕上げる為に、定位置のパソコンルームへお邪魔中。
「(―――あ…今日もいる、あの司書さん)」
よく通うようになってから気がついたのは、毎週土曜にはいつも同じ司書さんがカウンターに座っていること。眼鏡をかけて、綺麗な黒髪に優しそうな笑顔―――そして、ホッとする声。
本の貸出と返却の時にしか言葉は交わさないんだけど、物腰の柔らかい話し方とか接し方に好意を抱いていた。好意って言っても恋愛感情とかではなく、ええっと…そう、好印象って言えばいいのかな?そういう意味での好意、ね。
それを友達に話すと十中八九「それは恋だよ!」って言われるんだけどさ、あれ何でなの?皆だっているでしょーよ、今の人感じいいなーって思うこと。それと同じだ、って何度も言っているのにまーったく聞く耳持たずなんだよなぁ。
ほんと当人を差し置いて盛り上がるのやめてもらえないかな。…とは言うものの、私達の年代じゃあ盛り上がるのも当然なのかもね。だってお年頃だもん、花の大学生ってやつ?
さーて、いい加減レポートに取り掛からなくちゃ!この講義、レポート提出しないと単位くれないって専らの噂だからなぁ。
「んー……!」
これで完成!とエンターキーを押して大きく伸びをしていると、辺りにはもう誰もいないことに気がついた。あれ?レポートやり始めた時はたくさん人がいたはずだったのに…いつの間にか私だけになっちゃってたんだな。
とりあえず完成したレポートを保存して、パソコンはシャットダウンしなくちゃ。それからテーブルの上に広げていた資料や教科書、ノートを片づけるのに悪戦苦闘しているとパソコン室のドアから誰かが顔を覗かせた。
「まだ残ってる方がいらっしゃったんですね…もう閉館時間ですよ?」
「え?…あっもう19時?!すっすみません!もう帰る準備できたので…!!」
そうだ、今日は土曜日だから平日より閉館するのが早いんだ!時計なんて一切見ていなかったから気がつかなかったよ〜!
慌ててカバンを引っ掴んで、ドアを開けて待っていてくれた司書さんにペコリ、とお辞儀をして私は図書館を飛び出した。
パソコンの傍に大切なUSBを忘れていたことにも、気がつかないで。
「これ―――さっきの女の子の、ですよね?」
そしてそのUSBをあの好印象を抱いている司書さんが保管してくれているなんて、私は夢にも思っていなかったんです。