悩殺笑顔ってこんな感じ?


週明け。完成させたレポートをさっさと提出してしまおう、と大学で印刷しようと思っていたのだけれど…いつもいれているはずの筆箱の中に愛用のUSBは入っていなかった。
…あれ?昨日は一切出した記憶はない、だって勉強しなかったし、他のレポートをやっていたわけでもない。ということは、恐らく家にはないってことよね?えええ?カバンの中に落ちてるのかなぁ…そう思って教科書やルーズリーフを引っ張り出してみるけど、見当たらない。
う、…嘘でしょ?!あれだけ頑張って完成させたレポートがパーになるってこと?!また最初から書き上げろって…?そんなん無理だよー!だって期限は明後日、どう頑張って徹夜した所で終わるわけがないもん!
あの講義の単位は諦めろって言ってるのかしら…ふざけんなよ、こんちくしょう。


「え?USB失くしたのか?!」
「多分ー…土曜まではあったはずなのに、筆箱ん中に入ってないのー!」
「土曜は使ったんだろ?なら家にあんじゃねーの?」
「それはない。だって私、土曜は図書館から帰ってきてパソコン開いてないも…ん……」
「梨花?」
「あーーーーっ!!!」
「うわっ何だよ急に?!」


思い出した、思い出したよ悟空!興奮気味に友達である悟空の名を呼べば、若干引き気味になりながら良かったなーって言ってくれた。うん、本当に良かったよ!!これで単位は大丈夫なはずだ…!
今日の講義はもう終わったし急いで帰って図書館に行ってみよう!落とし物として届いてる可能性はあるもんね。これでなかったらもうどうしようもないけど、聞いてみなくちゃわかんないもん。

急いで帰る用意をして、まだ講義が残ってるという悟空にバイバイしてから私は電車に飛び乗ったのであります。最寄りの駅に着くまでそわそわして仕方ないんだけど、私が焦った所で電車が急いでくれるわけでもないのよね…でもやっぱり落ち着かない。
そんな状態だった私は、最寄りの駅を降りて図書館まで猛ダッシュ。


「あのっ…!」
「はい?……あ、」
「え?」
「ああ、すみません。貴方が来るのを待っていたんですよ」


ふんわり笑ってそんな言葉を言われたら固まりますよ、司書さん…!そんな私を余所に司書さんはちょっと待っていてくださいね、と奥に引っ込んでしまった。あ、予想だにしない一言を言われちゃったから聞くの忘れちゃった…USBの落し物がなかったかどうか聞きに来たのに何してんだろ。
でもまぁ、待っててくださいって言っていたからすぐに戻ってくるんだろうし、その時に聞けばいいだけの話だよね。だけどあの人、一体何しに行ったんだろう?私が来るのを待っていた、って言ってたけど…そもそも会話をしたことがあるのはほんの数回だ。
それも「これお願いします」とか「2週間の貸出です、どうぞ」とかそんな感じのものばっかりだし…正直、顔を覚えられるようなことは何一つしてないんだよね。…私は覚えちゃったけど。

ぼんやりと待っていたら、奥に引っ込んでしまっていた司書さんが戻ってきた。はい、と差し出されたのは見覚えがありすぎるUSBメモリー。


「これ、貴方のですよね?」
「そっそうです!でもどうして…」
「土曜日にパソコン室を使っていたでしょう?最後に出て行かれたのが貴方だったので、もしかしてと思ったんです」
「あ、そういえば…あの時に声をかけてくれたのって、」
「ええ、僕です。良かった、お返しできて」


慌てて来られたってことは大切なものなんでしょう?
カウンターの定位置に腰を下ろしながらそう問いかけてくる司書さんに、私は頷きを返した。よく、あれだけの短時間のことで私の顔を覚えていたなぁ…普通だったらただの忘れ物、で片づけられちゃうことだと思うんだけど。
でも―――そのおかげで私はこうしてUSBを見つけることができたんだし、司書さんの記憶力に感謝しないとだよね!


「すみません、助かりました…これ失くしちゃうと頑張ったレポートがおじゃんになっちゃう所だったので」
「あはは、それは大変だ。学生さんですか?」
「はい。今年の4月に大学生になりました」
「ではようやく大学生活に慣れてきた頃ですね」


今は7月。初めてのレポートに苦戦することが多いが、でも確かに司書さんの言う通りようやく慣れ始めた頃だったりする。講義も面白いって思えるようになってきたしね。
そうですね、と相槌を返すと、レポートやテスト頑張ってくださいねと笑顔付きで頂いちゃいました。

―――とくん、

…あれ?今のは一体、何だろ…何ていうかこう、司書さんの笑顔を見た瞬間に胸が高鳴ったといいますか。今のが俗に言うトキメキとやらなのでしょうか。今まで恋なんてものには無縁の生活をしてきた私にとって、さっきのはよくわからないんだ。よく友達はドキドキしてヤバイとか、ときめいたーとか叫んでるけど。
よくわからない胸の高鳴りに内心首を傾げながら、そういえば返さなくちゃいけない本があったことを思い出した。USBを筆箱の中にしまってから借りていた本を司書さんに返却し、私は図書館を後にした。


「―――やっぱりあの人、…笑顔が素敵な人だなぁ」


さっきの笑顔を思い出して、人目を気にすることもなく私は破顔したのでありました。
- 2 -
prevbacknext