天然男に恋をする


「っ、優也くん、好きです…!あの、良ければ付き合って下さいっ…!!」
「えっ、あー……その、ごめん。君の気持ちには応えられない」

日当たりの良い屋上の隅で昼寝をしていれば、耳に入ってきたのは申し訳なさげに見たこともねえ女子の告白を断る聞き慣れたあいつの声。
ああ、またあいつ告られてんのか。そんなことを考えながらおれはあくびを1つする。あいつが告白を断った、その事実さえ分かればもうその後の会話なんか興味なんかなく、雲ひとつねェ空をぼーっと見つめる。まあ、あいつが断るなんて分かりきった事実だが。

「今は恋愛とかあんまり興味なくて」

いつだったか忘れたが、苦笑いを浮かべながらそう言っていたあいつの姿を思い返す。告った女も可哀想だな、と1ミリも実際思っていない事を心の中で唱える。
無駄に世話焼きで、当然の様に無償の優しさを振り撒く優也は正直あり得ねェ程にモテる。それは色恋沙汰の情報にあまり詳しくもねェおれですら引く程に。女どもが良く言っている“イケメン”の基準は全くと言って良い程分からないが、男のおれでも悔しながらに優也の顔は綺麗だとは思う。そしてあの性格。……もしかしたら、おれが知っている範囲内だけでもほんのひと握りなのかもしれねェ。その事実だけでおれの頬は少しだけ引き攣った。

そんな考えている間にも啜り泣く女の泣き声が耳に入る。この光景も別に珍しい事でもなく、今まで振り続けていれば告白されただけ泣かした人間が増えるのもおかしい事ではない。だが、問題はここからだ。

「……ごめんね。でも、こんな俺を好きになってくれてありがとう。君の気持ちに応える事は出来ないけど、君が俺を好きになってくれて凄く嬉しかった。本当にありがとう」

お決まりになっている、優也のこの言葉。
それもあいつは何度言ったか分からないこのセリフを毎度の様に本心から吐く。台本を読む様に薄っぺらい笑顔を張り付けて言うそこら辺の隠れクズとは違う、申し訳なさそうにそして心底幸せそうにお礼を述べる正真正銘タチの悪いタイプだった。いっその事こいつがクズだったら、もっと悲しむ人間が減ったのかもしれねェ。……が、そんな事を思ったとしてもあいつの性格の良さは変わらねェ訳で、おれは自分が振られた訳ではないのにも関わらず思わず心の中でため息を吐いた。

そうして少し時間が過ぎれば、誰かが屋上の扉を開けて走り去っていく音が聞こえた。という事は、きっともうあいつに告った相手はこの場にはいない。おれは頃合いを見て重い身体を持ち上げた。

「おい、優也」
「っ!?えっ、わっ、ゾロ!?……あ、もしかして今の、」
「また相変わらずふってたな。今年に入ってから何度目だ?」

揶揄う様に薄く笑いながらそう言えば、優也はジト目で「…俺は別に、好きでふってる訳じゃない」と呟く。確かに、この優男が好きで振っていたらおかしな話だ。
そんな優也に慰めの意味も込めて、少し雑に頭を撫でてやれば最初は驚いたもののなんやかんやでおれの手を受け入れこいつは俺の顔を見てヘラリと笑う。

「…何で、俺なんかを好きになってくれるんだろうな」
「……それを俺に聞くか?」
「ははっ、確かにゾロじゃ分かんないか」

おかしそうに笑いながらそう言う優也に、おれは心の中で思わず呆れる。
……相変わらずの鈍感が。分かんねーんだったらてめェみてーな厄介モン、好き好んでおれが惚れる訳ねェだろーが。

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