優しい君が愛しくて


「わっかんねェ……なぁ、もう帰ろーぜーいだっ!?」
「お前の為にやってんだから!ってかまだ半分も終わってないからなっ!?」

教科書でおれの頭を軽くはたき、呆れた顔で怒る優也。
そんな優也に軽く謝り、先程から睨めっこ状態のプリントに再度目を向ける。まさか数学の小テストで赤点を取った奴には追加課題が出されるなんて思っても無かった事で、放課後急いで優也に泣きつきながら頼んだのが1時間前だった。
……けど、難しい数式を目にすると頭が拒否反応を起こすのはもう生まれつきで、相変わらず課題のプリントと睨めっこをしても分からないのは変わりがない。

「くっそー……小テストで赤点とる奴がこんなプリント解ける訳ねェだろー…」
「だから俺に頼ったんだろ?…ほら、教えてやるから。次はどこが分からないんだよ」
「全部」
「……エース、おっまえなぁ…」

はぁ〜、と長い溜息を吐きながら項垂れている優也に、おれはその場に似合わず思わず笑ってしまった。笑ってる場合か、と優也は怒るが笑っちまうのも仕方がねェ。

だって、おれはこいつがどれだけ優しいかを嫌という程知っている。
溜息を吐きながらも絶対に最後までお前がおれを見捨てない事を。それが約1時間教えて貰って先程やっと一門解き終わるぐらいのバカなおれでも。どんなに呆れてもため息を吐いても怒っても、お前は絶対におれを置いて帰ったりはしない。もちろん、俺が軽い気持ちで“絶対”と言う言葉を使ってる訳じゃねェ。“絶対”と言う言葉を使ってでも言い切れる程に、優也は優しいヤツなんだ。
そしてその優しさを幾度となく与えられてしまったから、ついおれもお前に甘えちまう。甘えて甘えて甘えて、いつか優也に嫌わてしまうんじゃねェかと怖くなる日もあるが、それでも優也がおれに優しくしてくれる度に嬉しくって堪らなくなるのは毎度のことだった。
これは、一種のタチの悪りィ毒だと分かっている。ハマれば底なんて到底見えねェ底無し沼だっつーことも。けれども既に毒されてしまえば、沼にハマってしまえばそんなのどうだって良くなっちまった。むしろ優也が一度でもおれを見捨ててくれれば、この恋も諦めがつくかもしれねェと有り得ない事をひっそりと思う。

「ああ、もう……こうなったら絶対に今日中に全部終わらすからな!?終わるまで帰れないと思えよ!」

そうおれに叫んだ優也に、おれの笑みが益々深くなったのは仕方がねェことだと思う。

…ほら、おれの言った通りだろ?

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