物音で目覚めた午前0時。直前まで見ていた夢はあまり良いとはいえない内容で、途中で起きた事に喜ぶべきなのかと、寝起きの頭でぼーっと考える。
でもよりによって0時って。しかも確認したタイミングが悪かったのかなんなのか、丁度よく三つ並ぶ0を目にうつして、気分は一気に急降下。
「最悪……」
思わず呟いたのは、気を紛らわしたかったからだ。夜中の0時とか2時とか、4が並ぶ時間って、所謂ほら、あれじゃん? ね。
成人して数年、大人と言われる年齢になって、社会人になり独り暮しをしているとはいえ、私にはどうしたって怖いものがある。
それは虫と雷と、おばけに関するものだ。
最後のものに関してはもうほんと、我ながら情けないとは思うものの、未だに電気をつけっぱなしじゃないと一人では寝れない程にダメだった。
最寄り駅から車で30分、住宅地からはちょっと離れ、周りには林檎畑とアパートの裏側にある山。それとその頂上に、夜になれば七色のネオンで照らされるラブホテルくらいだった。
駅から進み、住宅地を越えて林檎畑を過ぎた先にあるのは一棟のアパートとラブホテル。
そんな立地条件の為か、築年数の割には駐車場代込みで月々2万5千円という、かなり魅力的な値段設定のこのアパートに惹かれて引っ越して来たのは半日前。
引っ越し作業に疲れて寝ていたというのに、自分以外に誰もいないはずの家から物音がするというのはいったいどういうことなのか。
仮に、他にもこのアパートに住人がいるのならば、他の部屋からの音ということも考えられるが、今のところこのアパートに住む住人は私だけ。
離れたところからガタッっと聞こえる物音。加えてスマホが表示する時刻。
だんだんと頭の中では、嫌な考えが浮上していった。
「まさか、」
教えられていなかっただけでこのアパートは曰く付きだったのだろうか――。
いくら立地条件が悪いとはいえ、内装も外観もほとんど新築と同じように綺麗で、設備も悪くないこのアパート。極めつけに言うならば、3LDKという独り暮らしには広々な贅沢な間取り。それらに対する破格の料金設定。
それでもなかなか借り手が見つからないのは、山の上にあるラブホテルが大きな原因だと不動産会社の人が言っていたけど、実際問題本当にそれだけなのだろうか。
実は別にも問題があって、だけどそれを公表してはあまりにも借り手が見つからないから、その事はひた隠しにでもされた、とか。
いや、それよりも――
今どうするよ。
――カタ、ン。ギ……、トン、
「……ッ」
ドクドクと鳴り出した心臓を押さえて、とにかく落ち着こうと努める。音はどこから聞こえるのかと、耳を澄ませて、新しくなった間取りを脳内に思い浮かべた。
きっと風呂場の方だ、と見当をつけるまでは、そう時間はかからなかったものの、物音はその間にしなくなっていた。
明日にすればいいやと録に片しもせずにいた荷物か何かが、たまたま崩れてしまった音だったのだろうか。
それならそれでいい。というより、そうならその方が良いし、そうであってほしい。
シン、と静まる空間。だからといって一度ざわついた心臓は、このまま二度寝出来るほどすぐには落ち着いてくれず。
スマホを片手に握りしめて、私はベッドからゆっくりと抜け出した。
風呂場は廊下を挟んだ斜め向こう。寝室から廊下へと続く扉の前まで、なるべく音を立てずに近づいて、まずは耳だけで探ってみるも、やはり何も聞こえやしなかった。
この場合、おばけと泥棒、どっちが良いのだろうか。なんて、そりゃあもちろん泥棒の方が良いに決まってる。私の場合。
ゆっくり、ゆっくりと、扉のノブに手をかけて、僅かな音さえも立てないようにと慎重に開く。
「……ッ!!」
扉を数センチ開ければ、その隙間から伺う間も無く、私の意思に反してグインッと力強く開いたそれ。
自分の方へと内開きに動いた扉によって、私は受け身も取れずに床へと尻餅をついてしまった。
「動くな」
低く、自分ではないものの声が耳に入り、同時にずっしりと重い緊張感が辺りを満たす。
私はといえば、聞こえた声に従うまでもなく、恐怖と驚きで動けずにいた。
――着物とか、これガチでやばいやつ!!
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