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 自分の存在意義について考え出したのはいつからだったろうか。どうして生まれ、何になろうとしてるのか。何がしたいのか。
 流れる時に身を委ねつつも、時折そんな漠然とした思考に耽ってしまうのは、我ながら子供っぽくないと思う。

 六歳の時、親に連れられてアカデミーに入学した。その時点で既に、私の内にそんな漠然とした疑問があった事は覚えてる。
 自身を子供っぽくない、と思うのはそれだけじゃなく、同年代の子供たちのノリに、どうにも私はついていけなかった。
 父や母、優秀な忍等に憧れを抱き、それらを目標に目を希望に輝かせる子や、はたまた好きな子に好かれようとする子等、子供特有の高い声で、子供特有のテンションで、ワイワイキャッキャガヤガヤと流れるアカデミーでの時間が私には少し苦痛だったのだ。

 授業開始を教室で待つ間、おしゃべり等に興じて思い思いの過ごし方をする子達から外れるように、一番後ろの、一番端っこの席に座り、読書に没頭するふりをする私に、初めこそ話しかけてくる子がいたけど数日も経てばそんな子はいなくなり、その頃になれば教室内ではある程度の仲良しグループが出来上がっていたけど、もちろん私は何処にも属さなかった。
 仲良しで良いな、とは思いはすれど、そこに入っていきたいとは思わなかったし、寂しいとも思わない。
 楽しそうにする子供達の中に入っていくのではなく、私は見ているだけで良い。それがしっくりくるし、落ち着くのだ。
 そんな自分はやっぱり子供っぽくなくて、なんでだろう? って考え出せば、その思考は気づけば“自分の存在意義について”へと移行しているのだ。

 家に帰ればその思考はある程度の落ち着きを見せる。とはいえ、完全にストップするわけじゃなくて、出現する頻度が少し減るぐらいなのだが、それでもぐるぐると答えの見つからない疑問に、すり減っていくような精神力みたいなものを思えばありがたかったし、美味しい母の料理を囲んで父を含んだ三人で食べる食事の時間が唯一楽しいと思える一時だったし、互いに愛し合っている事がまる分かりな父と母のやりとりは微笑ましく、そんな二人から我が身へと向けられる愛情もまた心地よくて、家で過す時間が私にとって何よりも安らげるものだった。

 だけどそれは、私が八歳の時に崩壊した。厳密に言えば、壊滅した。
 その日私は、最近アカデミーで過す時間の殆どを例の思考する時間についやしていて、ろくに授業を聞いていなかったことから、一度家に帰宅して早めの夕食を食べた後、自主練をするから、と再び家を出た。教科書や忍具を持って向かったのは、森の中に隠れるようにしてあった洞窟だ。
 少し前にたまたま見つけたそこは、一見すると野生動物が作った巣穴程度の大きさだったそれに、何かいるかと覗き混んだら手元が滑ってズルリと落ちてしまった。横穴だ思ってたら縦穴でした、的な。そして落ちた先が何とも広い地下洞窟だったのだ。
 穴を見上げるとそこには随分と劣化したロープが途中から垂らされていたので、きっと昔誰かが作った秘密基地的な何かだったのだろう。
 何はともあれ、最近では訪れてる人は居ないようだったので、そこを私の秘密基地兼、修行場とする事にして、明かりを作り勉強をしつつ、暫く経ってから外に出た。空には月と星が輝いていた事から、結構な時間をついやしてしまったと、焦って家へと帰った私だったが、そこにはもう、私の知るいつもの家では無くなっていた。

 家、どころかその周囲、というよりも、苗字一族が集う敷地内が悲惨な光景に包まれていたのだ。いくつかの家屋は燃えて、人々は血を流し倒れている。人の声も、子供の泣き声すら聞こえない。みんなみんな死んでいた。
 同じ頃、うちは一族もまったく同様の事態になっていた事を、私は後から知った。

 朽ちていく一族の敷地内、我が家を守るようにして血を流し倒れている両親の前、一人でたたずんでいた私は、駆けつけた上忍達によって保護された。
 以降は里から補助される形で独り暮らしになる。

 そして――……

「おめでとう、合格だ! よくやったなナマエ! お前はいつも人から一歩も二歩も離れたところにいるから、これからはもう少し人に歩み寄ってみろ。それが教師として、お前に送る最後のアドバイスだ。さぁ、受け取れ」

「ありがとうございます。」 

 イルカ先生から受け取った、木ノ葉のマークがついた額当て。
 私は今日、アカデミーを卒業した。


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