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歌舞伎町で唯一存在する万事屋なんて胡散臭い商売の、これまた胡散臭い社長である坂田銀時は、なんだかんだと市民の義務を果たしたり果たさなかったりしながら、のらりくらりと浮き草のように生きてきた。
好きなタイプは尻軽女、アナウンサーだと結野アナ。仕事の無い日はパチンコ打って、収入が入れば風俗へ行き、飲みに行き、余りをパチンコですってくる。ダメな大人の典型的な見本と言ってもいいだろう。
そんな風に二十余年を生きてきた彼が最近おかしいのだと、神妙な面持ちで語るのは万事屋の従業員である志村新八であった。
弟の作った夕飯に舌鼓を打ちながら、姉のお妙はまあ!と少し大きな声を上げた。

「おかしいって言うと、どんな風に? もし度が過ぎるんなら、いくらでもやっちゃうわよ私」
「いや、やっちゃわなくて大丈夫ですよ。おかしいっていうか、変なんですよね」
「変?」
「なんか常にソワソワしてるっていうか、あんなに出不精だったのに昼間から用事もないくせに外に出たがるし、後占いを前よりも気にするようになったっていうか」
「あら、それは確かに変ね」
「なんなんでしょう一体、気持ち悪いったら無い」

弟の職場の愚痴を聞いて、お妙は思わず笑みがこぼれてしまった。銀時のことを知っているから尚更である。まだ若いとはいえ、キャバクラで働き、男の馬鹿な考えに付け入ることに関しては右に出るものがいないとされているお妙にとって、答えをだすことは余りにも容易かった。

「それはね、新ちゃん。銀さんはきっと、誰か好きな人でも出来たのよ」
「え………… 好きな人っていうと、あの、好きな人ですか?」
「そう。男がソワソワする時なんて、どうせやらしいことを考えてる時だけなんだから、そうに違いないわ」

サラリと酷いことを言ってのけた後、「銀さんも案外乙女なのね」とおかしそうに付け足した。
それを唖然としつつ聞いていた新八は、まさに青天の霹靂というか、目から鱗というか、とにかく考えもしていなかったことだったので、本当にショックを受けていた。

「ま、まさか、よりによって銀さんが、ありえませんよ」
「あら、そうかしら?」

口ではそう言いながらも、確かに言われてみれば思い当たることがたくさんあった。
最近、外に出る前には決まって長々と鏡の前を占領し、紅一点である神楽に「今日の俺何点?」と尋ねて、辛口チェックと言う名の暴言を吐かれている。
それから、一緒に外を歩いている時も、常にキョロキョロと辺りを見回していて、誰か探してるんですか?と尋ねても曖昧に、そして不自然に誤魔化すだけだ。
話しかけても上の空だし、今まで散々しょうもないなんて馬鹿にしてた恋愛ドラマを食い入るように見始めたし、こーいーしちゃったんだたぶんーと鼻歌で歌い出す始末だ。
間違いない、
これは確実に銀さん、恋しちゃってる。

「となると、問題は相手よね。新ちゃん、心当たり無い?」
「…………実はいるんですよ、一人だけ」
「ほんとに? 誰なの一体!」
「新八君!俺も気になる!誰なの一体?!」

結局、どさくさに紛れて夕飯に乱入してきた真選組の局長を徹底的に駆除しはじめたお妙によって話はそこで中断された。
自分の部屋にこっそりと戻ってから、改めて色々と思い返してみたのだが、仮定が確信に変わるだけだった。兎にも角にも、明日確認してみようと決心してから、新八は床に就いたのであった。



「え、何でバレてんの」
「バレバレですよ」
「顔に書いてあるネ」

出勤するや否や、冴えない眼鏡である新八に「銀さんって恋してますよね?」と半ば断定系で聞かれてしまった銀時は、持っていたリモコンをぼとりと落とした。
それからぎこちなく周りを見回して、新八と神楽の「やっぱり」と言いたげな目を確認してから、小さい声でそう言った。
最近ハマっている朝ドラを見て感動の涙を浮かべていた銀時が、一気に現実に引き戻された瞬間だった。

「あれ、神楽ちゃんも気付いてたんだ」
「当たり前アル。女子の勘、舐めんなヨ」
「意味わかんねーこと言ってんなよお前ら。恋? ンな青臭ェもん、実家に置いてきたっての!」
「いやさっき、何でバレてんのって言ってましたよね」
「銀ちゃんそれリモコン逆アル。いくら押してもヘソのチャンネルは変わらないネ」

ティーンズ二人に追い詰められ、いい大人である銀時は悔しさと恥ずかしさでいっぱいになった。正直、穴が無くても何かしらに入りたいレベルである。

「でも、銀さんが恋なんて、熱でもあるんですか?」
「だからちげーって……」
「しかもよりによって、真選組なんて敵ばっかりじゃないですか」
「ま、待たんかい!!!」

銀時の大声に合わせて、定春がワン!と鳴いた。これは最早王手である。散々普段からバカにされたり、給料貰ってなかったりする2人はここぞとばかりに畳み掛けた。

「そうそう私見たヨ、この前なまえ、あのマヨラーと一緒に楽しそうに歩いてたネ。あれは絶対付き合ってるアル!」
「それ僕もしょっちゅう見るよ。ほぼ無職のちゃらんぽらんと真選組の副長とじゃ、銀さん可哀想だけど……」
「え? なにこれ? 打ち合わせしてたのお前ら。いたいけな銀さんのメンタルをボコボコにしに来たの? 心配しなくても、もうボコボコですけど? なにこれ、涙?」
「涙ですよ」
「銀ちゃん、泣いてる……かわいそうアル」

一応ノッてあげながらも明らかにドン引きしている二人の蔑んだ目に耐え切れず、銀時は行く宛もなく外に飛び出した。
同情のせいか、計画通りなのかは知らないが、追ってくる者は誰一人いない。
意気消沈しながら、午前中の公園のベンチに沈んだ銀時を待っていたかのように現れたのは、先程まで色んな意味で散々銀時を苦しめていたなまえと、その上司である沖田の二人だった。

「あっれ〜? 誰かと思えば旦那じゃねぇですかィ。何してるんです? こんなとこで」
「こんな時間に珍しいですね、まだ昼前なのに」
「いや、別に何してるってんじゃないんだけど、そのアレですよ、アレ」

昨日の今日ならぬ、さっきの今だったので、銀時はなまえの顔を全く直視できず、いつもの5倍ほどテンパっていた。そんな銀時を意に介せず、見回り中で暇な2人はグイグイ絡んでくる。銀時は、ちょっとした若者恐怖症に陥りそうになっていたが、想い人の手前気丈に振る舞った。

「アレって何です。テロですかィ?」
「隊長、とんでもないことサラッと言うのやめてください洒落になんないんで」
「大貧民は黙ってろ」
「うぐぐ……」
「なに、なまえちゃん、大富豪で負けでもしたのか?」

なまえのツンとしたキツめの顔が、一瞬、崩れかけた。そのギャップに思わず胸が高鳴ってしまったのを隠しながら、沖田に事情を聞く。因みにこの時点で沖田はすでに、楽しそうに微笑んでいた。

「いや、大したことじゃねぇんですけど、昨日土方さんに大富豪で勝負挑んで、コテンパンにされたことをまだ根に持ってるんでさァ」
「あ、そう、仲がいいんだね土方くんと」
「まったく、痴話喧嘩なら他所でやって欲しいんですけどねィ」

銀時の頭の中で先程の新八と神楽の言葉が徐々に膨らんでいく。なんなの、やっぱりそうなの? まだ俺チャレンジ前なんですけど? 取り敢えず、なけなしの金で今日は昼から飲むことがほぼ確定しかけていた瞬間、黙っていたなまえが割と大きな声を上げた。

「だからね隊長、何度も言ってますけど痴話喧嘩じゃないんで!! 銀さんも!!誰があんなクソ上司と仲が良いっていうんですか!! 流石に斬りますよ!!」
「え?でもなまえちゃんって土方くんと付き合っ」
「それ以上言うと、警官侮辱罪になりますよ? 後誰ですかそんな根も葉もない噂流してるの」
「え? なまえって土方さんと付き合ってるんじゃ無いんですかィ? 俺はてっきりすでにDまでいってるもんかと……」

余りにもわざとらしい沖田の棒読みも、感情がささくれだっている二人にとっては、火に油を注ぐだけだった。そして銀時にとっての決定打を、そうとは知らないなまえは冷たく言い放つ。

「付き合ってる訳ないでしょ? あんなイカサマ大富豪と」
「そーだったのか、いやー良かったですね、旦那」
「え? 良かったって何が?」
「さぁて、こんなとこでサボってるのバレたら何て言われるか知れねェ、今日のところは帰りますぜィ」
「では銀さん、二度とそんな寝ぼけたことを私に言わないでくださいね! じゃあまた!」

嵐のように散らかすだけ散らかして帰って行った2人の背中を見送りながら、尚も茫然とベンチにへたりこんでいた銀時だったが、喜びが徐々に沸いてきて叫び出しそうになるのを堪えながら、来た道を戻った。今なら全てを許せる気がするとまで思っていた銀時の脳内恋愛モードが復活したのはいうまでもない。




  
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