07
今日は楽しかったけど、一体なんだったんだろう?
これが一日を通したなまえの感想だった。甘いものをたくさん食べて、いっぱい笑って、好きなキャラクターのぬいぐるみも貰えて、こんなに楽しい休日を過ごしたのは、久しぶりだったのは確かだ。
そもそも、真選組とも道場とも関係ない男の人と、二人きりで遊ぶのは初めてだった。それから、と、手のひらをまじまじと見る。男の人と手を繋ぐのも、同じく初めてだ。
でも、なんだか初めてな気がしなかった。
こう言ってしまうとアレだけれど、銀さんとは昔馴染みのように自然と話すことができる。あっけらかんとした性格に似合わず、なまえは意外と人見知りが激しい。
それなのに、どうしてだろう?
屯所に戻ってから縁側に座ってぷらぷらと足を垂らしながら、ぬいぐるみを抱き、考え事の続きをする。ちょっとだけ寒いけれど、その方が頭が冴えるような気がした。風呂から上がってすっかり乾ききった髪を、冷たい風が優しく撫でた。
「銀さんと話してると、不思議な感じがします」
今日、私が何気無く言ってしまったことだ。銀さんは、そりゃ俺は特別だからねとニヤリと笑って返したのだが、改めて、どうしてだろう。銀さんと話してると、とっても落ち着くような、気がする。
ぬいぐるみのてっぺんに顔を埋めて、うう〜んと唸っていると、不意に廊下がギシリと鳴った。反射的に顔を上げてしまい、少しだけ後悔する。
「…………あ」
「……お前、いい年してぬいぐるみだっこか」
「笑わないで下さいよ」
土方さんとまともに口をきいたのは、一週間ぶりだ。私の姿を見て吹き出した土方さんに、文句を垂れてみるが無視して、横に座られた。寒いだろうに、いつもと同じ薄い黒の着物を着ている。見ているだけで寒そうだ。
「それ、万事屋にか?」
「そーですけど?」
「へぇ、アイツもそんなことするんだな」
私の腕からひったくったぬいぐるみを引っ張ったり潰したりしながら、相変わらず笑っている。返してくださいよ!と奪い返して再びぎゅうと抱きしめると、少しだけ煙草の匂いがした。
「お前、万事屋とその、アレか」
「アレってなんですか、友達ですけど」
「その割りには悩んでますって顔してたけどな。俺はてっきり、告白でもされたのかと」
「んなわけないでしょ! いつ私がそんな顔したって言うんです」
「さっき、それに顔押し付ける前」
「み、見てたとか悪趣味……!!」
「その人形ほどじゃねぇだろ」
「輪をかけてひどい!」
こうやって話してると、あんなに険悪だったのが全部嘘みたいだ。さっき土方がやっていたように、ぬいぐるみの頬を思い切り引っ張ってみる。黒いプラスチックの目がきらりと光った。
ああ、わかった。唐突に答えが頭に浮かんで、思わずにやけてしまった。
わかってしまったのだ。銀さんが、どうしてあんなに身近に感じたのか。こんなの、はじめからわかってたはずなのに、なんでわからなかったんだろう。
「そんなにソイツが大事なら、俺の土産はいらねぇよな」
「え? 土産って、持ってるのですか?」
ん、と差し出されたオシャレな紙袋の中を覗き見て、みるみるうちに顔色が変わってしまった。
「これ……私が前から切望してた、期間限定の生チョコシリーズじゃないですか!!」
「まぁでも、お前にはそっちの方がいいんだろうからな。近藤さんにでもあげるか」
「な、ひ、ひどい! 土方さんの鬼!」
「欲しいか?」
なまえは、こくこくこくと首が取れそうなほど縦に振る。
「だったら言わなきゃなんねーことが、あるはずだ」
「うっ……」
「どうした、言えねぇのか?」
「…………めんなさい」
「あ? 聞こえねぇな」
「すみませんでした!!!」
言うやいなや、土方は面倒くさそうに紙袋をなまえに押しやった。それを嬉しそうに受け取って、「土方さん最高!素敵!大好き!」なんて手のひらを返したように言いまくるなまえを見ながら、確かにこれはタチが悪ィなと、ため息をついた。しかしこのため息は今までのものとは違い、安堵から吐き出されたものなのは間違いない。
「そういえばね、今日銀さんと遊んでて思ったんですけど〜」
「なんだその笑顔は……」
「土方さんと銀さんって、やっぱり似てますね!」
「それには全く同意できねぇな、嬉しくもねぇし」
「だから私、今日は土方さんとも遊べた気がして、二倍楽しかったんですよ」
「……そうかよ」
嬉しそうにそんなことを言ってくるなまえが、一瞬でも可愛いと思ってしまったことに舌打ちをしながら、土方は自分の部屋にもどった。それから、自分の手のひらをぼんやり眺めて、無意味に握ってみた。
明日から、またいつも通り騒がしくなるんだろうなと思いながら、くわえたばかりの煙草の灰を落として、少しだけ笑った。