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真選組がかねてより捕縛していた、牢内の攘夷浪士一名が脱走。それを捕縛するため、浪士の向かった料亭に突入してみると、そこは攘夷浪士と幕府高官の密会現場だった。
その場にいた高官含め12名は攘夷運動に加担したことが明白なため、真選組によって一斉検挙。
花乃井の高官の汚職事件は、こうして幕を閉じた。



出口の無いトンネルを抜けたような突如の明るさに、目が眩んだ。派手に私の名前を呼びながら障子を蹴破った銀ちゃんを、おっさんの背中の向こう側に確認した瞬間、私の顔は安堵で崩れた。「御用改めである!!」あれは、原田さんの声だ。いつもは言う側だから気付かなかったけど、聞いてる側からしたら、こんなに怖いんだ。いつの間にか私に覆いかぶさっていたおっさんは何処かにいっていて、代わりに覗き込んでいたのは見たことない顔をした銀ちゃんだった。まるで、銀ちゃんがひどい目に遭わされた顔。畳を手の甲でそっと撫で、床に寝転んでいるのは私の方だと不必要な確認をした。

「……無事なのか」
「うん、なんとか、」
「なら良かった」

辺りの喧騒、怒号、剣と剣のぶつかる音が、私達だけ避けているような気がした。慣れないお酒がまだ脳みそを揺らしているせいか。よく分からない。横たわった私の少しはだけた袂を手早く直し、銀ちゃんは下手くそに笑った。
まるで浪人のような格好をした銀ちゃんに抱きかかえられ、私はなんだかとても安心してしまい、感謝も述べずに眠りに落ちた。



次々捕まった浪士や高官をパトカーに見送り、暴言を吐かれながら一服を決めていた土方の元へ現れたのは、エセ浪人と抱えられたエセ芸妓だった。土方は少しだけ目を見張り、それから何とも言えない顔で笑った。腕の中で、なまえはスヤスヤと眠っており、その顔を無言で眺めた後、彼女を抱えて現れた銀時に視線をうつした。

「……ご苦労だったな」
「報酬はたっぷり頼むぜ」
「心配しなくても留置所で飲み食いした分を差し引いてから、きっちり払ってやるよ」

いつもの憎まれ口も、なかなか弾まない。キレの悪い会話を断ち切るように、銀時は抱きかかえているなまえを土方に押し付けるように差し出した。慌てて受け取ろうと手を伸ばし、体重がずしりと両腕にかかった所で思わず、男の顔を伺い見てしまった。

「良いのかよ? ……その、お前、コイツのこと」
「俺の役目はここまでなんだろ。それと、あんまなまえちゃん怒ってやんなよ」
「……うるせぇな」

土方の腕の中で、相変わらず穏やかに眠っているなまえの顔を、じいっと眺めたかと思うと、銀時は何事も無かったかのように向きを変え、歌舞伎町へと通じる路地へと消えていった。その背中を呆然と見送る土方は、すぐ側に止めてあった護送用のパトカーにチラ、と目線を移し、そうかと思うと銀時とは反対側の曲がり角を目指して歩き始めた。
先程までのすったもんだとは程遠い夜の静けさの真ん中で、土方の歩調に合わせて脱げそうな下駄がぷらぷらと、白い足袋の先で踊っていた。



目が覚めてすぐに視界に飛び込んできたのは知らない天井で、思考が段々と形を持ち始めると共に、これはマズイことになったと頭から熱がサアッと引いた。これ以上の状況認識を拒むように、白々しい瞬きを3度した。それに応えたのは、想像とは全く違う声だった。

「ようやく気が付いたか」
「……副長? え、ここって、あれ?」
「ここは俺の部屋だ。お前の部屋にでも転がしとこうと思ったんだが、」
「へ、部屋!?見たんですか?」
「お前なぁ、部屋汚すのだって限度ってもんが」

思わずいつもの調子で話してしまったが、土方さんは突然押し黙った。その沈黙の意味を知っているから、余計にばつが悪い。思わず飛び起きてしまい、目線がかち合っているから尚更。

「土方さん、ごめんなさい……、その、デートの部屋を間違えちゃって、そしたらたまたま山崎の張ってた攘夷の」
「あくまで、今後のために一つ注意しておくが」
「……はい」
「お前が思っている以上に、女ってのは使い方によって金や刀より強い、武器になる。真選組でその武器を禁じていないのは、お前以外に使える奴がいないからだ。そして言うまでもないことだが、俺がお前を採用したのは女だからじゃねぇ。隊士としての実力を見込んでのものだ」
「……」
「にも関わらず、刀では無く女を武器とするような奴を、真選組隊士として認める訳にはいかねぇ。お前は大丈夫だと思うが、肝に銘じとけ」

土方さんの忠告の意味すら分からないほど馬鹿じゃない。いや、やっぱり私は馬鹿だ。皆を振り回して、迷惑かけて。なのに、どうして私を咎めないの? 土方さんの目を見れないまま、そっと布団の影に右手をを隠した。いっそ、私の判断が間違っていたと責めてくれたら。握った拳は、ぶるぶると震えている。

「ってのは、真選組副長としての忠告だ。二度目は無いことを忘れんじゃねえぞ」
「……はい」
「それとな………あー、なんつーか」
「なんですか?」
「無事なのか、その、色々」

珍しく歯切れの悪い言葉に、思わず顔を上げてしまう。土方さんはいつの間にかそっぽを向いていて、代わりに赤くなった耳がこちらを向いていた。

「ちょっと脱がされたぐらいなんで、全然大丈夫ですよ?」
「脱がされたァ?! それのどこが大丈夫なんだよ! お前はもうちょっと貞操観念ってもんをだな!」
「すすすみません……」
「まったく、男見る目無さすぎんだよお前は。これに懲りたら、たかだかメールや人形ごときで浮かれねえこったな」
「……浮かれてましたね、私」
「余所見なんかするからだ、バーカ」

言いながら、土方さんがわしわしと私の頭をかき混ぜた。手の隙間から見えた土方さんの顔が、鬼なんて呼ばれてるのが信じられなくなるくらい優しくて、自分はこの人を裏切ってしまったと泣きそうになった。

「もう今日はゆっくり休め、ただ明日からは覚悟しとけよ。稽古量10倍だ、10倍。あ、それと」
「な、なんですか?」
「お前、化粧してない方が可愛いな」

ぽかん、と口を開けた私を見ること無く、土方さんはさっさと部屋から出て行ってしまった。……今、何て言った? ゆっくりと土方さんの言葉を頭の中で反芻している内に、耐えられなくなり布団に顔を埋めてしまった。

少女漫画のようなキラキラした恋愛は、私には似合わない。そんなこと、はじめからわかってた。ううん、それだけじゃない。私が、誰を選べば幸せになれるのかも本当はずっとずっと前から知ってるの。目をそらしていただけで、答えは出ていた。
両方の目から、とうとう涙がこぼれ落ちた。
それでも私は、どうしたって土方さんだけは選べない。




   
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