意気地なしヒーロー。
騎馬戦と言葉の暴力
結果だけを言えば、私と響香ちゃんは無事次の種目に通過することができた。というかA組は皆通過出来たようだ。トップ3がA組の緑谷轟爆豪だったようなのでちょっと吃驚した。いや、実況爆豪と轟くんがトップ争いしてたのは知ってたけどまさか緑谷がその二人の上にいるなんて。対人屋内戦闘訓練とかUSJのときとかも思ったけどなんか緑谷って普通っぽいけど普通じゃないよな……ほんと凄い。
……うん。凄いよ? 凄いとは思うんだけどさあ…
「お願い、石動さん! 同じチームになってください!」
これは無理!!
障害物競争の順位が発表されたあと、ミッドナイト先生から次の種目についての発表があった。次の種目は騎馬戦で、それぞれ順位に応じて点を貰い、自由に2〜4人組の騎馬を作り、点取り合戦を行うというものだった。順位に応じて点を貰う……まあ、それはいいのだが。緑谷は一位で、普通にそれに応じた点が貰えているというだけなら、私もこんなに渋ったりしない。一位の緑谷が貰えた点はなんと1000万点。滅茶苦茶狙われまくるだろうし、正直私には荷が重過ぎる。
「お願い、飯田くんに断られちゃって、機動力に関しては絶対必要不可欠だから石動さんの協力が必要なんだよ!」
「いやいやいやいや、無理無理無理無理……バスでの話聞いてたよね? 前よりマシになったけどまだそこまで覚悟出来てるわけじゃないっていうかちょっと1000万点は荷が重過ぎるというか」
「そこをなんとか…!」
「無理だってば!!」
一緒にいたはずの響香ちゃんには逃げられて、私は緑谷に圧されるまま困り果てていた。いや、緑谷も必死なのは分かるんだけどちょっとほんと私にはキツイかな……今一番欲しいのは逃げ切るための機動力なんだろうが、無理なもんは無理だ。何がなんでも勝ち上がりたいわけじゃないし、緑谷ほどのポイントはいらない。
困り果てていれば、グイッと腕が引かれた。
「悪いけどこっちが先約だから」
「うお、…え、物間?」
私を引っ張ったのは物間で、約束した覚えのないことを言って私を緑谷から引き離した。えっ、と呆けて物間が誰だかも分かっていないだろう緑谷に最後にごめんと謝って、物間に引っ張られるままに引き摺られていった。引っ張られながら、「約束なんて覚えがないんですけど」と零すと、「個性便利だからぼっちの石動を使ってやるよ」と言われ、安定すぎる物間に絶句した。このやろう。今誘われてるの見たろうがぼっちじゃねえよ!!
「あれ、物間A組のやつ連れてきたの?」
物間と騎馬を組むらしい子が首を傾げて私達を見た。物間は「テレポートの個性だから。便利だろ」としれっと返していたがその便利って言うのやめてくんないかなあほんと…!
「物間ってA組のやつ皆嫌ってんのかと思ってた」
「っ、馬鹿やめ、」
「えっ、物間ってA組嫌いなの?」
「いや石動はす…んン゛ッ。別に嫌いじゃないけど?」
「…ふーん」
「やめろニヤニヤするな!!」
ベシ!と勢い良く頭を叩かれたのでとりあえず黙る。でもニヤニヤ笑うのはやめてやんない。だって好きって言いかけたもんね。そうか物間私の事好きなのかーそうかー。
ニヤニヤした私を真っ赤な顔で睨んだ物間は、ごほんと咳払いをして、話を続けた。
「だってUSJでの事件があったからってA組だけこんなに期待されてるなんておかしいじゃないか。僕らB組は完全に引き立て役だよ」
「……そんなこと」
「ないって言える? 現にこの体育祭で注目されてるのはA組だよ」
「………」
まあ、確かにそうだ。多分私だったらなんとも思わないけど、同じヒーローを志して入学した仲間のはずなのに、こうして偶然とはいえ差をつけられては、そりゃあ面白くない。
だから物間は、対A組の作戦を練ってきたのだとか。自慢気に語る物間がウザくてちょこっとしか聞いていないが、まあ確かに理にかなってはいると思う。
「で、狙うは爆豪勝己だ」
「私パス」
「ダメに決まってるだろ」
「いやいやいやいや! 馬鹿なの!? 爆豪だよ!? あと私爆豪になんか嫌われてるから近付きたくない!!」
必死に首を横に振ってみせたが、物間にスルーされて結局聞き入れてはもらえなかった。畜生……このやろう……いやほんと爆豪怖いし嫌なんだけど………落ち込んでいたら同じ騎馬の…円場くん?がポンと肩を叩いて慰めてくれた。優しい。
そうして始まった騎馬戦。物間が騎手をやるらしい。女の子に普通男を担がせるかね……そして本当に爆豪を狙っていたので勘弁してくれと思った。得意の嫌味で爆豪を挑発している物間に叫びたくなる。やめて!! ほんと爆豪怖いから!! 物間と爆豪は絶対相性悪いと思ってたよ!!
そして案の定キレた爆豪の怒りの矛先は、何故か私に向いた。
「テメエ!! クソカワード!!」
「えっ、私!?」
カワード…Cowardか、と意味を思い出す。確か��意気地なし�≠ニか��臆病者�≠チて意味だったはずだ。的確すぎる呼び名に感心すると同時にちょっとショックを受ける。
「なんでテメエがそこにいんだよ!!」
「僕が誘ったに決まってるだろ」
「うっせえな!! テメエに聞いてねえんだよモノマネ野郎!!」
「おい爆豪落ち着けって! 何でそんなに石動にキレてんだよ!」
何故か私を睨みつけている爆豪は、ギリッと奥歯を噛み締めた。
「俺はッ!!」
「っ、」
「テメエが大ッッッ嫌いだ!!! クソカワード!!」
あまりにはっきりと言われたその言葉に、私は目を見開いて固まった。
嫌われているのは、最初から分かっていた。しかしこうして明確な言葉と敵意を向けられるのは初めてのことで、戸惑い、そして、少し――だが確かに、傷付いた。
「…おい、石動? おいってば!!」
「っ、え、あ、え?」
「テレポート!! とりあえず点はとったから、もう後は逃げ切るだけだ!!」
「え、あ、うん、わかった、」
少しの間、放心していたようだった。物間に言われた通り、少し離れたところにテレポートする。「…なに? 気にしてんの?」と物間に問われ、私は何も返せないまま俯いた。気には……している。確かに、傷付いたのだから。だけど、爆豪に好感を持っているわけでも、好かれたいわけでももちろんなかった。今、私は��嫌い�≠ニいう言葉に、傷付いたのだ。
「……誰だって��嫌い�≠チて言われるのは、キツイと思うんだけど」
そう呟いた私に、物間は何も言わずに静かに私を見ていた。
▽
その後、物間の言葉に挑発され奮起したらしい爆豪に全てのポイントを持って行かれ、私達は第二種目で敗退した。まあ私としてはこれ以上進む気もなかったのでいいのだが、爆豪にポイントを取られた際に物間が爆破を受けていたのでちょっと心配だった。
騎馬戦を終え、設けられた昼休み、私は物間と昼食を摂っていた。
「大丈夫? 物間」
「……べつに。このくらい」
「最後テレポート出来なくてごめん。なんか一キロ使い切ってたみたいで」
「いいってば」
爆豪にポイントを取られたのは、実は私のせいでもあった。どうやら最初の種目と騎馬戦の最中に使ったテレポートで合計一キロになっていたようで、十分のロスが発動してしまっていたのだ。テレポートできれば避けれていたものを、計算していなかったせいで負けてしまった。私はいいが、物間はこんなにしっかり作戦をたてていたのに、本当に申し訳ないことをしたと思う。こんなことなら障害物競争が終わった時点で一キロを使い切っておくんだった。そうすれば十分のロスなんて待っている間に過ぎただろうに。考えの甘さが悔やまれる。
「……う゛…っ、ほんと、ごめっ…」
「ッ!? は!? なんで泣くんだよ!!」
「だってっ……う゛……物間が……」
「ああもういいんだってば!! 結構すぐ泣くよな石動は!?」
ゴシゴシと乱暴に袖口で顔を拭かれて少し唸る。なんだよほんとに乱暴だなもっと優しくしてよ……と鼻を啜りながら呟く。「元気だな!」と頭を叩かれた。ほんと言うとそんなに元気じゃないけどな!!
「石動こそ……その、大丈夫なわけ?」
「…え? なにが?」
「〜〜っ、爆豪に! 嫌いって言われてただろ!」
「…ああ、あれか」
思い出して、少し俯く。
「まあ、うん。嫌いって言葉にダメージ受けただけで、べつに爆豪に好かれたいわけじゃないから」
「……ふーん」
ならいいけど、と物間は呟いて、ふいっと外方を向いた。どうやら心配してくれていたらしい。
「物間って素直じゃないよね」
「石動には言われたくない」
お互いに憎まれ口を叩いて、笑った。
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