意気地なしヒーロー。

体育祭の開始


 物間のことでついスルーしていたけど、体育祭だ。雄英高校の体育祭といえば、かつて行われていたらしい��オリンピック�≠ノ変わる日本のビッグイベントの一つだ。沢山のプロヒーローたちがスカウト目的に観に来るため、雄英のイベントの中でも最も力を入れられているイベントだ。「うわあ、体育祭だあ…」と頭を抱える私に、響香ちゃんが隣で「今更?」と笑った。だって! 物間と喧嘩しててそれで頭いっぱいだったんだもん!!
 体育祭のリザルトによっては、普通科からヒーロー科への編入も検討されるらしく、その逆もまた然りらしい。つまり、それなりの結果を残さなければヒーロー科から除籍されてしまう可能性もあるわけだ。未だヒーローになりたい気持ちはさっぱり湧かないけれど、先日相澤先生にあんなことを言った手前こんなところで落ちてしまうのはなんだか格好が付かない。やる気はないし正直面倒だし辞めてしまいたい気持ちのほうが高いが、一応頑張ってはみようと思っている。

「は? 何それ舐めてんの?」
「ぐっ…!」

 物間の冷たい視線と言葉に、思わず目を逸らす。はい、ご尤もですね。でもほら、これでも頑張ろうと思ってるだけ前より成長してるんだよ。前だったら多分普通科への編入を検討されると聞いた時点でそれに喜んで食いついていただろう。だからほら、まだマシじゃないか。

「すごい殺意湧いてきた」
「物間が怖い」

 すっかりくん付けも取れて物間呼びになった私達は食堂で一緒にお昼を食べている。響香ちゃんたちの提案で一日交代で一緒にお昼を食べることになったためだ。私は別にずっと響香ちゃんたちと一緒でいいのだが。だってめっちゃ物間嫌味言ってくるし……割と傷付いたりするんだぞ私も。ちゃんと友達にはなったが物間に対する認識は変わっていないので、前と扱いは大して変わらない。

「だってまず物間たちとはスタート地点が違うんだもん」

 私の話を不機嫌そうに聞く物間に、私も不機嫌そうに言った。そもそも私は、ヒーローに憧れてはいないし、なりたいと思ったこともないのだ。皆とは違い、マイナスからのスタートで、つい最近ようやく0にちょっと近付いたかな、くらいなのだ。ヒーロー科に残りたいと思えた時点で凄い成長だ。自分で自分の首を絞めにいっている感が否めないが。

「物間は何か考えてんの? 体育祭」

 私だけが話すのもなんだかフェアではない気がして、私は物間に問うた。物間はキョトンとこちらを見て、そうして少し考えて、「内緒」と笑った。やっぱり顔だけはいいなと考えつつ、「ふーん」と相槌だけ返した。ら、なんか文句を言われた。なんで。

「もっと興味持てよ!」
「だって教える気ないんでしょ?」
「あるわけないじゃん」
「じゃあ聞くだけ無駄かなって」
「ドライかよ!!」

 バン!と机を叩いてそう叫ぶ物間に首を傾げる。いや、聞いて欲しいなら聞くけどさあ。いや、分かってるよ? 私に教えないまま優越感を味わいたいんだよね? うん、分かってるんだけどさ。正直そんな知りたいわけでもないし、というか物間に優位に立たれるのがなんか嫌だ。

「はあ……昨日は泣きながら縋りついてきて可愛げあったのに」
「忘れて」
「嫌に決まってるだろ」

 ここぞとばかりに弱点を突かれて、私は唸る。昨日は私もどうかしてた。なに泣いてんだ私は。こんなやつ喧嘩したまま放っておけばよかった。
 ………。

「………やっぱなしごめん…」
「は? 何言ってんの?」

 ムカつくし嫌味なやつだけど、別に嫌いなわけではないのだ。


 ▽


「………おおう…」

 私は絶句していた。体育祭に向け、二週間も切ってしまい、私はとりあえず皆に習って準備をしておこうと、個性の限界を調べてみた。すると今まで気付かなかった制限というか弱点が見つかって、私は絶句した。どうやら私は、合計一キロテレポートしてしまうとそこから十分間、個性が使えなくなってしまうようだ。しかも十分休んで更に一キロ分個性を使うと、今度は二十分、また休んで一キロ使うと三十分。今まで大して個性を使ってこなかったので、この弱点は気づかなかった。しかも割と体力を消費する。利点らしい利点といえば、物だけを飛ばすのに関しては制限が距離制限以外にないことだろうか。…なんだかなあ……やっぱり個性ってただただ便利なものじゃないんだと痛感した。
 毎年雄英の体育祭って何やってたっけ……多分他の学校の体育祭とは違うだろうし覚悟していかないとダメだろうな……はあ……憂鬱すぎる……

「瞬準備進んでる?」
「響香ちゃん。…うーん、新しく制限が見つかったから、とりあえず対策立ててるくらいかな」
「制限全部把握してなかったん?」
「うん……前も言ったけどあんまり個性使ってこなかったから、使い勝手がよく分かんないんだよね」
「ふーん……良い個性なのに勿体無い」

 本当、便利な個性だと思うし、皆よりも制限というか弱点も少ない方なのかもしれない。だけどやっぱり戦闘向けではないし、ヒーローよりもレスキュー向けの個性だと思う。敵と戦うなんてこの個性でどうすればいいんだろう。


 そんな不安の中、二週間はあっという間に過ぎていった。

「う………吐きそう……」

 体育祭当日、A組用の控え室で、私は口を抑えて丸くなっていた。緊張のしすぎで気持ち悪い。真っ青な顔でうずくまっていると、飯田が近付いてきた。

「石動くん! 大丈夫か!?」
「………」
「石動くん!? 聞こえているか!?」
「うぐ……飯田くん大丈夫なんでちょっと静かにしてくれませんか…」
「む、それはすまない!」

 分かってないだろ絶対。大きな声で返事をした飯田を若干恨めし気に見上げて、溜息を吐き出した。はあ……普通の体育祭も苦手だったのに、こんなテレビ放送までされる体育祭なんてもっと嫌すぎる……ああ帰りたい……

「大丈夫? 瞬」
「ダイジョウブ…」
「カタコトなんだけど。ほんとに大丈夫なの?」
「うん……多分始まれば吹っ切れるから……いつも大体そうだし」
「ふーん、なんか便利な体質だね」

 青い顔のまま響香ちゃんと話していれば、時間になった。その間、轟くんが緑谷に対して宣戦布告するなんてこともあったがまあ私にはあまり関係のないことなのでスルーしよう。先日の事件のことでかなり注目されている私達A組が入場すると、かなりでかい歓声が響きわたった。それに少しビビって縮こまりながら歩いていると何故か爆豪に睨まれた。なんで! 嫌いなら嫌いでこっち見なきゃいいのに!!
 それから他の組も入場して、ヒーロー科入試一位通過の爆豪が選手宣誓を行った。やはりというか、皆を挑発して周りから叩かれまくっていたが爆豪は気にした風もなく下りてきた。うわあ、どっから来るんだろうその自信。列に戻ってくる爆豪を若干呆れた目で追いながら、軽く息を吐いた。爆豪が周りを挑発したらA組が敵対視されるから本当にやめて欲しいんだけど。
 そんな選手宣誓から始まった体育祭最初の競技は障害物競争だった。スタジアムの外周約四キロコースを、コースさえ守れば何をしてもいいのでゴールしろ、と、主審であるミッドナイト先生は言った。いや、何をしてもって何だよ……怖いんですけど…?
 そうして障害物競争が始まった。狭い門から皆いっせいに出ようとするので若干詰まっている感じになっていた。まあ障害物競争なら多分個性で何とかなるので、スタートダッシュはのんびり行くことにした。そしたら不意に空気が冷たくなって、覚えのある感覚に私はとりあえず上の方にテレポートした。周りの人を足蹴にする感じになったがまあいいだろう。私の嫌な予感は当たったようで、さっきまで立っていた地面は一面氷漬けにされていた。おおう、これ轟くんの個性じゃないか。

「さっそく妨害って…」

 のんびりも行かせてくれないのか、と溜息を吐き出して、とりあえず氷のないところまでテレポートした。うーん、A組の皆割と早めに行ってるんだなあ。すごい。

「あ、瞬。なんだ、もっと前にいるのかと思った」
「響香ちゃん」
「っていうか一キロずつテレポートしていけば楽勝なんじゃないの?」
「あはは、そう出来たらよかったんだけどねえ」

 このコースは合計で四キロ。最終的には四十分間使えなくなってしまうし、四キロ丸々テレポートで移動しようとしたら合計一時間ロスしてしまうことになる。これは障害のあるところだけテレポートで避けて、あとは自分で走るのが最善だろう。これの後も競技はあるのだろうし、調整しておかないとあとで泣くことになりそうだ。
 響香ちゃんと話しながら走っていれば、第一関門に差し掛かった。どうやら入試の時にいた0ポイントの巨大ロボを越えていかなければいけないらしかった。何人か苦戦して立ち止まっているが、これは楽だ。ロボットをすり抜けてテレポートすればいい。テレポートしようとして、ふと思い立って響香ちゃんの方を見た。名前を呼んで――そして、固まる。「一緒に来る?」と、言うつもりだった。しかし、これはもしかして失礼に当たるんじゃないかと考えて、口をつぐんだ。そうして、呼びかけに反応してこちらを向いた響香ちゃんに、言った。

「先に行くね」
「っ、オッケー! すぐ追いついてやるから!」

 頷いて、私は第一関門をやすやすとクリアした。プレゼント・マイクが大げさにそれを実況する。うわあ、やめて。注目されるの恥ずかしい。
 そこから少し走ると、すぐに第二関門に差し掛かった。深い谷に綱を結びつけた、命懸けの綱渡りだ。ここもテレポートで通過して、走った。お、私結構上位にいるな?
 ゆっくりめに走っていると、響香ちゃんが後ろから追いついてきた。うわ、あれ? ゆっくり走りすぎた? 響香ちゃんが速い?

「あんたせっかく上位にいんのにのろのろ走りすぎ」

 私が遅かったらしい。
 スピードをあげて、続く最終関門――一面地雷原のコースへと走った。そこそこ皆が踏んでくれてるので数は減っているが、ここを通るのも危険だろう。ここもテレポートで抜けて、後は普通の道を走り抜けた。
 ゴールすると、A組の子を中心に、何人かがゴールしていた。どうやら一位は緑谷らしい。うわあ、何気にすごいよな緑谷って。

「あー、瞬に負けたー」
「あ、響香ちゃんお疲れ」

 暫くして、響香ちゃんがゴールしてきた。何人が通過できるのかはまた発表されていないので、私達二人が通過出来ているかはわからない。

「抜けてるといいな」

 響香ちゃんの言葉に頷いて、とにかく全員がゴールするのを待った。

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