この想いが掴むもの
14

ある日、千鶴が一番組の巡察に着いて行った。
龍は屯所から出て行く、一番組の組長である沖田と千鶴を見送った。
翻る浅葱色をぼうっと、龍は見つめる。
浅葱色が視界から消えても、龍はその場に立ち尽くしていた。


巡察に千鶴が着いて行ったのは、土方が千鶴に外出許可を出したからだった。

「良かったな。千鶴」

嬉しそう笑って報告してくれた千鶴に、龍は自分の事のように嬉しく思った。

「うん!……だけど……」

元気よく返事した千鶴だったが表情が沈む。

「どうしたんだ?」

千鶴の顔を、龍が心配そうにのぞきこむと、申し訳なさそうに、そしてはからずも上目遣いのように見上げた。

「私だけ、なんて……」

俯いてしまった千鶴に、龍はため息をつくと、呆れたように口を開いた。

「言っておくが、俺に外出許可が出たとしても断るぞ」

「え?」

驚いて顔上げた千鶴に、龍は苦笑を浮かべる。

「今の俺じゃ足手まといになるだけだし、それに外に出てやりたい事も無いしな」

龍は、そこで言葉を切りニッと笑うと、

「だからさ、千鶴は気にしないで親父さん探ししてこい」

ポンと千鶴の頭に手を乗せた。

「でも……」

納得いかないというように渋る千鶴。

「そんなに気になるなら、外の様子でも俺に話してくれ」

な?と表情を伺う龍に、千鶴はなんだか申し訳なさそうに頷いたのだった。

*****

「井吹君?」

玄関で突っ立ている龍を訝しんだ井上は声を掛けた。
ビクリと肩を震わせ振り返る龍に、驚かせてしまったなと申し訳なく思いながら井上は近づく。

「どうしたんだい?」

「いや、少し考え事してただけだ。……何か手伝うことでもあるか?」

龍は、なんでもないと首を振り井上に訪ねた。

「そうだね……手伝って欲しいことは、今のところ無いよ。そうだ、これから剣術の稽古をするんだが、一緒にどうだね?」

井上の誘いに龍は、なんともいえない表情をする。

「いや。俺は、監視対象だろ。そんなことしたらマズイんじゃないのか」

「ああ、そうだったね。トシさんには私から話を通しておく。どうだね?」

そうだったねって。
忘れてたというような態度の井上に、龍は心の中で突っ込む。

「まあ、それなら」

最近、ちゃんと身体を動かしてないから、ちゃんと動くか心配だ。
頷く龍に井上は微笑むと、部屋まで迎えに行くからと言って去って行った。
龍はそれを見送ると、土方さんから許可出るかなと思いながら自室に向かって歩き出した。
自室に戻ってからしばらくすると、誰かが部屋に近づいてくる気配がした。
井上さんかな。
そう思って龍が部屋から顔を出すと、なぜか土方を連れた井上が部屋まで向かっていた。

「待たせたね」

龍が顔を出しているのを見とめると、井上はにこりと微笑んで手を振った。
なんで土方さんがいるんだ?
そんな龍の疑問を感じてか井上は土方を振り返る。

「トシさんも誘ったんだ」

「俺は忙しいんだがな」

じゃあ、来なきゃいいじゃないか。
そう思った龍だったが、多分自分を見張る為なのだろうと予想出来るから何も言わなかった。
壬生寺まで行くと、ここで原田にしがみついて泣いた自分を思い出した。
あれから原田に会う度、なんだか気恥ずかしくて目を合わせられなかったりする。
このままじゃ相手にも失礼だ。
よくない。早くいつも通りにならなくては。

「はい。井吹くん」

井上から渡された木刀を龍は受け取る。
ああ、ずっしり重いな。
しっかり木刀を握り、ブンッと一つ振る。
胴着を着て竹刀を持って剣道をやっていた自分を思い出した。
ああ、これは自分の記憶だ。
紛れもない自分の記憶。

「どうだい?打ち合ってみるかね?」

「いや。俺は……」

龍は、そう言いながらもう一つ木刀を振る。
剣道なんて、つい最近の記憶なはずなのにひどく懐かしい。

「井吹くん?」

「……少しだけ頼めるか?」

「ああ」

龍がそう言えば嬉しそうに笑う井上。
龍が見ていない所で、ちらりと井上が土方を伺うように見た。
土方は腕を組みながら小さく頷く。
そして、打ち合いが始まった。

やはり、身体が鈍っているようで、身体が思うように動かない。
すぐ呆気なく一本が取られた。
寸止めされていた木刀を井上は外す。

「井吹くんは、なかなか筋がいい。これからちゃんと稽古すれば、もっと伸びるだろうね」

「本当か?」

素直に嬉しい。顔を綻ばせる龍に井上は頷いた。
そういえば、初めて千鶴が巡察しに行った日って何かあったような……。

「……あ」

「どうした?」

突然声を上げた龍に、土方は訪ねる。

「副長」

その時、斎藤が駆け寄ってきた。
そして土方に一番組――沖田と千鶴が桝屋で乱闘騒ぎを起こしたことを報告すると土方は舌打ちをする。

「斎藤、お前は幹部連中を広間に集めろ」

「御意」

「おめえは部屋に戻ってろ」

土方が斎藤に指示を飛ばすと龍に目を向けた。

「千鶴は無事なのか?」

ゲームでは千鶴は無事だった。そうは思っても心配でそう聞く。

「無事だ」

短く斎藤が答えると土方は「いいな部屋に戻ってろよ」と言い残し踵を返して走り去った。
その後を斎藤が追って行く。
井上は龍と木刀を片付けると広間へ向かって行った。
仕方なく龍は部屋へ戻る。
千鶴も部屋に戻っているかもしれない。
龍が千鶴の部屋を覗くと、まだ千鶴は戻っていないようだった。
まだ三南さんに、こってり絞られてるのかもしれない。
千鶴……。
このままいけば、千鶴は誰かと恋をして、綱道さんを見付けて……ルートによっては、綱道さんとも薫とも争わなくてはなくなる。
辛い選択を迫られるかもしれない。
もしかしたら、このまま関わり続けるべきじゃないのかもしれない。
今からでも、遅くないかもしれない。
"願い"で、千鶴が新選組と関わらないようにすればいい。
そして綱道さんは、己が見つければいい。
だけど、それで千鶴は幸せになるのだろうか。
そもそも、その"願い"は叶うのだろうか。

「あー!くそっ、わかんね!」

己にあてがわれた部屋で、龍は仰向けに倒れる。
その人がなにをもって幸せなのか、それはその人にしかわからない。
だけど、彼女だけは守らなくてはいけない。
己がいることで危険が迫らないとは限らないのだ。

「(どうか、どうか。千鶴は幸せに。危険な目や辛い想いに合わずにどうか……)」

彼女だけは幸せに。
なぜ、こんなにも必死に千鶴の幸せを願うのか、龍にもわからなかった。


*おまけ*

そもそも、千鶴ってルートごとにどうなるんだったか。

土方さんルートは、最終的に幸せになった……よな?
斎藤ルートは、確か最終的に警察官になって……あれ?どうなるんだったか……?
平助ルートだと、羅刹になってしまった平助との生活をしていた……ような。
沖田ルートは、切なくなる終わり方だって、確か望美が言っていて……。

…………。ちょ、ちょっと待て自分。
あんまり覚えてないじゃないかっ!
いやいや、原田は!?
えーと、原田ルートだと千鶴は、原田にキスされて、押し倒さ……。

「っ!」

いやいやいやいやいや!
な、なななんで、こんなことだけ覚えてるんだ自分。
おかしいっ
絶対、おかしい!

「龍さん?」

バッと振り返ると、そこには渦中の千鶴が。

「どうしたんですか!?龍さん、顔が真っ赤です!まさか熱でもあるんじゃ……!」

「な、なんでもない。だ、大丈夫だから!」

パタパタと駆け寄り、熱を計ろうと手を伸ばす千鶴を制しながら、龍は顔を隠すように手を覆った。

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