この想いが掴むもの
01

一体なにが起こったのか、さっぱりだ。

いつの間にか、真っ白な空間に突っ立っていた。
確か、学校から家に帰っている最中だった筈だ。
きょろりと周りを見渡すが間違いなく何もない白い世界。
足元も土じゃなく、白い。
自分の履いているローファーが視界に入る。
紺色の靴下、チェックのスカートにブレザー。
朝、家から出てきた格好のままだった。
地面じゃないという気持ちからくるものなのか、なんだかふわふわしているような気がする。

井吹 龍、これが自分の名前。
この名前と自分の男勝りな行動と言動で一度たりとしても女として見られたことはなかった。
病院でも男と間違われ、その度に女だと言うのは面倒だったが、直すつもりはなかった。
ただ、どうしても高校だけは制服がある学校に行きなさいと両親の強い説得に折れる形で、龍は唯一の女の子らしい服――制服を着ることになった。
本当なら私服可の高校に行くつもりだったのだが。

「……俺は死んだのか?」

こんな場所にくるのは大概死んだ場合だと相場が決まっている。
そんな記憶は全くないが、まじまじと自分の手を見る。
見つめたところで自分がどうなったのかなんて分からない。
分かるはずもない。

「はぁ。なんだってんだ……。とりあえず歩いてみるか」

もちろん、どこを見ても真っ白な世界。
どこにどう進めばいいか分からないが、動くことで何か分かるかもしれない。
そんなことを思いながら龍は足を進めた。

*****

「あ゛ぁぁ〜……」

情けない声を出しながら、龍はその場にへたりこむ。
歩けども歩けども結局何もない、何も起こらない真っ白な世界。
進んでいるのか、同じ場所をぐるぐる回っているのか、分からない。
だけど、この不思議な真っ白な世界でも体力は奪われていくようで、足は歩きたくないほど疲れている。
膝に頭を乗せ丸まるように龍は座りなおす。

「一体、俺が何したってんだ……。どうしろってんだよ……」

叫びたい衝動にかられるが、そんな体力も無いようで呟くだけでとどまった。
少し休憩しよう。そのまま、瞼を閉じる。
そういえば、前にもこんな風に迷ったり悩んでいたような気がする……。


『おい』

声が聴こえる。男の声だ。俺に声を掛けているのか?
ぼんやりとした頭のまま、顔を上げると体格のいい男が自分の前に立っていた。
何故かその男の顔は見えない。
よく見ようとしても眩しくて輪郭を捉えるのがやっとだ。

『おい。聞こえているなら返事ぐらいしろ』

「……俺に話しかけているのか?」

『貴様以外、誰がいる?』

ふんと小馬鹿にしたように笑う男に少しばかり苛立つ。

「あんた誰だよ?」

『一番聞きたいことはそれか?』

質問に答えず、逆に疑問を投げ掛けられた。

この質問には答えるつもりは無いらしい。

「……ここは、何処だ?なんで俺はここに居るんだ?」

『……これから貴様には違う世界に行ってもらう。そこで"奴ら"の生き様を見届けろ』

男は質問にちゃんと答えなかった。
意味が分からなすぎる……。
違う世界ってなんだよ。
"奴ら"って誰だよ。
そう思っていても言えない雰囲気を男は放っている。
えーと…ようするに

「……それは、その"奴ら"に会う為に、俺はここに居るってことか?」

『貴様にしては、物分かりがいいな』

そうだという風に、男は頷き、とある方向に鉄扇を向けた。

『そこに道が見えるな?』

そう言われ、その方向を見ると先ほどまで何もなかった場所に道が見える。

『いいか、彼処から"奴ら"がいる世界に出れる。行けば自ずとやるべきことが分かる筈だ』

「……そうか、よくわからんが、行けばいいんだな」

何故自分じゃなければいけないのか、どうして行かなければいけないのか、分からないことだらけだが、この人には逆らわない方がいい気がする……なんとなく。


「なあ、俺どこかであんたと会ったことあるかな?」

よいしょ。と立ち上がりながらそんな事を聞いてみる。

『さあな。……いいから、さっさと行け』

ぶっきらぼうに返される。
相変わらず顔は見えなかったが、なんとなく笑っているような気がする。

「わかった。ありがとな」

そう言って歩き出そうとすると、『待て』と呼び止められた。

まだ何かあるのか?と思い振り返る。

『ひとつだけ、貴様の願いを叶えてやる』

「はあ?いきなりなんだよ?」

一体どうしたんだというように胡乱げな目を男に向ける。

『いらんならいい、行け』

「いやいや、いらないなんて言ってないじゃないか!」

冷たく言い放つ男に、慌てて首を振る。

『俺は気が長い方じゃない。さっさと言え』

イラつくような男の声音にすぐに何か言わなければいけないと焦り考える。

「……じゃあ、何回でもどんな願いも叶えてくれ」

昔、友達の望美から同じ質問をされたことがある。

【魔法使いが現れて一つだけ願いを叶えようと言われたらどうする?】

龍はいろいろ考えた。一つだけと言われて何を願うか。
望美は、「私だったら《たくさん願いを叶えて》ってお願いするかな!」なんていうから、そんなのずるいと非難したものだった。
そんなことを思い出し、つい口に出てしまっていた。
まずい、この男のことだから激高しそうだ。
恐る恐る見えない顔を窺う。

「ふっ。いいだろう」

男は怒るどころか、面白そうに笑うと鉄扇をこちらに向けた。
なにをされるのだろうと思いながらも、大人しくじっと成り行きを見つめていると、自分の額が温かく感じられてきた。

『貴様に気を与えてやった。心で強く思えば、なんでも願いが叶うはずだ』

「本当に何回でもなんでも願いは叶うのか?」

『俺が知ったことか。もう用はない。さっさと行け』

男はそのまま踵を返し歩き出す。
一度も振り返ることもせず、やがて消えた。
大事なことなのに答えを貰うことが出来なかった。
後で、ちゃんと願えば叶うか確認しとこう。
さあ、どこに出るのか知らないし、"奴ら"が誰だか分からないが会いに行くとするか。
龍は唯一の道に向かってゆっくり歩き出したのだった。

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少しばかり設定と違う感じになってしまいました……(--;)

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