この想いが掴むもの
02

「……ビルがない」

龍の第一声は、それだった。
高いビル、鉄筋で作られた家々、コンクリートで固められた道…今まで普通にあったものが無くなっている。

「○光江○村みたいだ」

周りを見渡し呟く。
昔に行った、ちょんまげネコがいる、テーマパークに雰囲気がそっくりだ。
テーマパークであれば、所詮作り物。
だが、ここは違う。
人の営み……息づかい……生活感。
全てにおいて作り物では無いと分かる。
ここで生きて、生活をしている人がいるのだ。

「はぁ。結局、ちゃんとした説明もしてもらえず、放り出されちまったな」

この世界に来れば自ずと分かると言われたが、周りに人気はないし俺は一体どうすればいいんだろうか。
とりあえず、誰かに会う前に服をどうにかした方がいい気がする。
あの人は俺に違う世界に行けと言っていた。
だとするとここは、俺がいた世界では無いということだ。
にわかには信じられないが、(あの白い世界の出来事も本当にあったことなのかも信じられない)周りを見る限り信じるしかないだろう。

「確か、強く願えば叶うとか言ってたよな」

試しに服だ。こちらの世界にいて違和感がなくて動きやすいのがいい。
目を瞑り、強く願ってみる。
目を開けてみると、制服から袴姿になっていた。

「なるほど、袴か」

胸元を見てみるとサラシが巻いてある。
女より男の格好の方が何かあった時、なめられなくて都合がいい。
俺は小さい頃から剣道、弓道、柔道、空手など習い事をしてるため袴は着なれている。
何故か昔から色々なことをやりたがる子供だったらしい。
腕前は何事も中途半端になることなく、いい線までいっていた。
だが高校に入ると、運動部ではなく美術部に入った。
剣道の稽古は毎日やってたが。
俺が描いた絵はコンクールに出せば必ず賞を貰えるほどで親も驚いていたものだ。
将来は画家だな。なんて父親は笑って話していた。

父さん、母さん、望美……みんな元気だろうか。
勝手に居なくなって心配をしてるだろうな……。
きっと元の世界に帰れる。あの男は帰れないなんて言ってないんだから。
いや、帰れるとも言ってなかったが。
ついつい暗い考えになりそうになり、龍は慌てて首を振りその考えを振り払う。

「ま、なんとかなるさ」

帰れなければ、帰れないでその時考えよう。


あれから、龍は適当に歩き回っていた。
皆が皆、袴や着物を着ていて、昔の日本のようだった。

「きゃっ!」

突然の衝撃と、小さな悲鳴。
きょろきょろ周りを見ていたからか、前から来る人に気付かず思い切りぶつかってしまった。
尻餅をついている相手に、龍は慌てて手を差し出す。

「悪い。大丈夫か?」

「こちらこそ、すみません。ちゃんと前を見てなくて……」

龍の手を取り、起き上がりながら、龍と同い年ぐらいの少年(?)が言った。

「(なんか妙だな。あれ……何処かで、この顔を見たような……)」

なんだか違和感があり、まじまじと見ていたようで、少年(?)は「あの…?」と困惑気味に首を傾ける。

「あ、いや。怪我はないか?」

「はい!大丈夫です!」

にっこり笑顔で答える少年(?)

「それなら、よかった。初めてこっちに来たばかりで物珍しくてな。よく周りが見えてなかったんだ」

「えっ。そうなんですか?私も今日、江戸から来たばかりだったんです。あなたは、どちらからいらしたんですか?」

自分と同じということが嬉しかったのか、少年(?)は目をきらきらさせて聞いてきた。
江戸って、昔の東京のことだよな。ってことはやっぱりここは昔の日本なのだろうか。
なんと答えたものか……。
未来から来ましたーってか?絶対信じてもらえないだろ。普通。

「あ、あ〜……。俺も江戸からかなぁ〜?」

龍が目を逸らし、誤魔化すように答えたにも関わらず、疑うということを知らないのか「わあ。すごい偶然ですね」と少年(?)は笑った。
なんか、未来から来ましたって言っても、こいつなら信じた気がする。


「俺は、井吹龍。お前は?」

「私は、雪村千鶴です」

「そうか、千鶴な。……ってうぇえっ!?」

びっくりしすぎて、龍は変な声が出てしまった。
その声で千鶴もビクッと肩を竦ませた。
パチパチと目を瞬かせながら此方を窺っている生千鶴。
かわいい…。じゃなくてっ。
どこかで見たことがあると思ったら、あのゲーム薄桜鬼でだ。
私はオタクであって腐女子じゃない(オタクの意味は分かったが腐女子の意味がよくわからない)と力説していた望美に面白いからって無理矢理押し付けられてやらされた。
毎度、毎度しつこくゲームをやったか聞かれたら、やらざるおえない。
黎明録もあるからとか言っていたが、それは勘弁してくれと言ってなんとかやらずに済んだんだ。
先ほどの違和感は千鶴が女で、今は龍と同じ男装をしていることだったのだと合点がいく。
まさかの薄桜鬼の世界。ってことは、新選組もこの世界にいるってこと。
もしかしなくても新選組の生き様を俺に見ろってのか?
あのおっさん、千鶴に会えなかったらどうしてくれたんだっ!

「あの、どうしたんですか?」

千鶴が心配そうに顔を覗きこんできた。

「な、なんでもない」

龍は、ハッと現実に戻るとふるふると首を振り、「なんで江戸からここまで来たんだ?」と質問した。

「実は……」

千鶴は、蘭方医である父が一ヶ月前から連絡が途絶えてしまったこと、頼るよう言われていた松本先生に手紙を送ったものの居ても立ってもいられず京まで来たことを話してくれた。
うん。聞いたのは俺だけど、千鶴は少しは疑う事を知った方がいいんじゃないだろうか。なんだか心配だ。

「そうか。じゃあ俺も探すのを手伝う。一人より二人の方がいいだろ?」

「え!?初めて会った人にそんなことお願いできません!井吹さんも何か用があって京までいらっしゃったんでしょう?」

千鶴は手をパタパタ振りながら、遠慮する。

「俺の用事は、千鶴の親父さん探した後でも出来るから大丈夫だ」

むしろ、千鶴が居ないと俺の用事は終わらない。
そんなことを思いながら言葉を続ける。

「それに、ここで会ったのも何かの縁だろうし、女の子同士仲良くしよう。なっ」

「え?」

千鶴は目を見開き驚いている。
自分が女だとバレたことに驚いているのか、俺が女だということに驚いているのか。
おそらく両方だろうが。
軽く放心状態になっている千鶴。

「ま、同い年ぐらいだろうし、俺のことは井吹さんじゃなくて龍と呼んでくれ。あと敬語もやめてくれ」

その言葉にやっと戻ってきたきた千鶴は戸惑いながらも「え、……うん。わかった。……じゃあ、龍さんで」と言ってくれた。

「呼び捨てでいいのに。まあ、今はそれでいいか」

そんなこんなで、二人での千鶴父親探しが始まったのであった。

back