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『ぎやあぁぁぁぁ!』

お父さん、お母さん
ついでにお兄ちゃん
先立つ不孝をお許し下さい。
私、千穂は享年18で幕を閉じそうです。

【はじまりのおと】

さかのぼること一時間前、千穂は最後の高校生活を終えた所だった。
可もなく不可もなく……所謂青春(恋愛)なんてものもすることもなく三年間終わってしまった。
先輩、先輩!と囲まれている人を横目に、千穂は家路につく。
いつもの道をいつもよりもゆっくりと歩く。
もうこの制服も、学校指定の鞄も、もう着ることも使うことはない。
今日は、本当に最後の日。
足を止め空を見上げれば、まだ太陽は随分と高い位置にいた。

ちりん

可愛らしい鈴の音に、上げていた顔を下げると真っ白い仔猫が一匹、足元にちょこんと座っていた。
千穂と目が合うと、きょとんとしたように首を傾げる。

『か、可愛い!』

可愛さにズキュンと胸を打たれた千穂は、仔猫を驚かせないようにゆっくりしゃがみ、そろそろと手を伸ばす。

『みぃー』

仔猫はひと鳴きすると、トコトコ千穂の手に近付き、ふんふんと鼻を近付けた。
猫独特のざらついた舌で千穂の指を舐めると、そのまま手をすり抜け歩き出してしまった。

『ありゃ、触らせてくれないか』

ちょっと残念な気持ちになりながら、仔猫を見送るため振り返る。

『みぃー』

仔猫は少し離れた場所で、顔だけこちらを向けて鳴いた。

何故だろう?
後から考えても、よくわからない。
何かに突き動かされるように、千穂はその仔猫を追い掛けたのだ。
がさがさと道ではない茂みを通る。
仔猫は少し離れた場所をトコトコ歩きながら、時折千穂が着いて来ているか確認するように振り返り、そして歩き出す。
千穂は仔猫を見失わないよう必死で着いて行くのがやっとで、一体何処へ行くのかだとか、どうして追い掛けてあるのだろうだとか考える余地もなかった。
大きな茂みを抜けた途端、目に映った情景に目を奪われ足を止めた。
広い、何処まで続くのかわからない緑の絨毯。
風に揺られ太陽の光で波打つようにキラキラと輝く。
近所にこんな場所があるなんて、知らなかった。

ちりん、ちりん

仔猫の鈴の音に、ハッと慌てて周りを見渡す。
白いしっぽが、視界を横切り茂みが揺れた。

『ちょっ、待って!』

千穂は見失う訳にはいかない、と急いで駆け出した。

『にゃんこ〜、どこ行った〜?』

急いで茂みの中に入ったというのに仔猫はおらず、がさがさと探す。

『みぃー』

小さく仔猫が鳴く。
声の方向から、こちらだろうと当たりをつけて一歩を踏み出した、その時――
気付けば千穂の身体が空に放り出されていた。
そのまま重力に従って落ちていく。
一体、何メートル先に地面があるのか……考えるのも恐ろしい。

『ひ、ぎやあぁぁぁ!』

ぎゅっと目を瞑り、女として可愛らしくない悲鳴を上げながら、頭に浮かぶ家族に千穂は謝った。

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