夢幻
「ふぁ〜!気持ちいい〜!」
ざぶんと勢いよく湯船に入る。
やっぱり体は冷え切っていたようで、どんどん体が温まっていくのをよく感じた。
「なんか、不思議な子達だな〜……。
あの生き物は、ネコ?それともイヌ?
どっちでもいいけど、可愛かったな〜!
……あの子、えっと、昌浩っていったっけ?
友達になれるかな〜?」
ふふふと笑い肩まで沈む。
そして、ふと顔を上げ思う。
「……そういえば、何処から来たんだろう……?」
<夢幻>
「…ん。」
「昌浩……気づいたか?」
「あれ?もっくん……?」
昌浩が最初に目に入ったのが、騰蛇もとい物の怪のもっくん。
ゆっくりと体を起こしながら周りを見渡す。
「ここ、どこ?」
「わからん」
「わからんってそんな……」
そう言いながら、昌浩はまた周りを見渡す。
知らないものが、たくさんある。
こんなものは自分の世界にはない。
「まさか……」
その時、部屋の外に人の気配を感じ、押し黙る昌浩。
と同時に、ドアのノックの音。
「トント〜ン♪しつれーい!
あ、気がついたんだね!よかった!」
「えっと、あの……?」
ストン、と昌浩の前に座った女性はニコニコと嬉しそうに笑った。
誰だろうと思い、もっくんのほうをちらりと見る昌浩。
「こいつが助けてくれたんだ」
そうか。と軽く頷くと、昌浩は、恐らく自分より年上だろう女性に向き直る。
「あなたが助けてくれたんですね。ありがとうございます」
「いえいえ。どういたしまして!
あ、私、麻衣。呼び捨てでいいよ。
あと、敬語じゃなくてもいいからね!」
「うん。麻衣。俺は……」
昌浩が自分の名前を名乗ろうとすると、それをさえぎる様に麻衣は言った。
「昌浩でしょ!この子から聞いたよ!」
そう言って指を指されたのは、物の怪のもっくん。(※人には指を指しちゃいけません)
「え、麻衣は、もっくんが見えるの!?」
「うん。見えるよ?なんで、そんなに驚いてるの?」
不思議そうに首をかしげる麻衣。
そして嬉しそうに笑った。
「そっかぁ騰蛇は、もっくんって言うんだね!」
「あ、うん。物の怪だから、もっくんって言うんだ」
「物の怪?まあ、普通の犬じゃないとは思ったけど」
そうだ、あの、もののけ姫に出てくる狼だって喋るじゃん。
そっかそっか。と喋る理由がわかり納得する。
「騰蛇より全然らしいね!
私も、もっくんって呼ばせてもらうね♪もっくん!」
物の怪の頭をなでながら言う麻衣に、もっくんは不服そうに目を細めながらもされるままになっている。
その様子をまじまじと見てしまう昌浩。
なんだか、仲良くないか?この二人。
仲良くないよりは、いいことだけれど。
「麻衣。ずっと聞きたかったんだけど、ここって……?」
「ん?ここは私の家で私の部屋。
昌浩が着ている服は、私のお兄ちゃんの。
私も質問。昌浩ってどこから来たの?」
「どこからって……」
昌浩はキョロキョロと周りを見渡し困ったように八の字に眉を下げた。
「麻衣の家には、俺の知らない物がたくさんあるんだ」
「全てが知らないもので埋め尽くされてるって感じだな」
昌浩に続き、もっくんも頷く。
「知らないものばかり?
記憶でもなくしてるの?」
「記憶はなくしてないよ。
ちゃんと覚えてる。でも、やっぱり……」
そう言ってまた見渡す昌浩。
「うん。ここにある物は、見覚えがない。と、
じゃあ、どうやって来たかは?」
「う〜ん。あやかしと戦ってて……」
「あやかしぃい〜〜!?」
突然の大声にビクッとする昌浩。
なにか変なことでも言ったのだろうか。
「あやかしって化け物のことだよね?」
「う、うん」
自分の知識のものと間違っていないか、
つい確認してしまった麻衣。
唸りながら頭を抱える。
「どうしたの……?」
「……あのね、落ち着いて聞いて」
ガシッと昌浩の肩をつかみ麻衣は真剣な顔で言う。
「この世界……いや、私の世界にはね、
あやかしなんていないんだよ」
「は?」
「だから、あやかしとか化け物とかいないの。
もしかしたらいるかもだけど、私は見たことないよ」
ぽかんとした顔で昌浩ともっくんは顔を見合わせた。
「いない……?」
確認するように昌浩は言った。
「うん。」
「そっか……。うん……。」
昌浩は必死に受け止めようとしているみたいだが、
なかなかうまくいかないらしく頭を抱えて黙ってしまった。
麻衣も麻衣で考え込む。
あやかし……私の世界、この時代にはいない……
昌浩は、あやかしがいる世界から来たの…?どうやって…?
「昌浩〜?」
「なに?麻衣。」
「昌浩はあやかしと戦ってて。気付いたらこっちに来てたの?」
「ああ…うん。雷がすごくて、それを使うように術を使ったんだ。
やったと思った瞬間、そいつが突進してきて……。」
「昌浩にぶつかったと思った瞬間、すごい光に昌浩は包まれたんだ。」
言葉をつなぐようにもっくんは言った。
「それどうなったの?」
興味深々に麻衣は聞く。
「昌浩っ!」
必死にのばす手
指が昌浩へ触れた瞬間
すさまじい光に二人は包まれた。
「気がつくと俺達は知らない場所にいた。
昌浩は、その時には気を失ってて。」
「…そっか…。タイムスリップってやつをしちゃったのかな?」
「たいむ…?…なんだそれ?」
「あ、えと…時間のひずみができて、
間違ってきてしまったこと……かな。」
「時間のひずみか……。」
考え込む昌浩ともっくん。
「そうなったきっかけみたいなのが、あるはずなんだけど……。」
「きっかけ?」
「うん。私が思うに雷じゃないかと……。」
「そうか……こっちに来てしまったきっかけが雷だとするなら、
同じことが起きればきっと元の世界に帰れるんだ!」
ぱっと輝いた顔を昌浩はもっくんに向けた。
「そうだよね!もっくん!」
ああ。と頷くもっくんと嬉しそうな昌浩。
自分も嬉しくなる反面すこし寂しくなる麻衣。
昌浩たちは、帰ってしまうのだ。
帰ってしまったら、きっともう二度と会うことはないのだろう……。
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