10、一生忘れない


「龍之介!おはよう!」

「おう」

あれから随分経った。
無事に巫女としての役割を果たし、自分の世界へと帰ってきた。
向こうにいた時間だけ、こちらでも経っていると思っていた。
だが、いざ帰ってみれば玄関には芹沢さんが鬼の形相で待っていて、門限から2時間ほどしか経っていないことを知らされる。
物凄く驚いたが、芹沢さんが言い訳を聞くはずもなく、しばらくは食事抜きだと言って足音をたてながら部屋に入って行った。
平間さんには何かあったのではと心配したと泣かれたのを宥めながらも、本当に帰って来たのだなと思った。
俺にとっての当たり前の日々が、今日も始まる。

****

「龍之介、本当にいいのか?」

願いを叶えるため、井吹と七星士は儀式の準備をしていた。
再度、そう問いかけたのは原田だった。
あの日、原田は井吹が起きるまで、そこにいてくれた。
それがどんなに嬉しくて心強かったか。
だから、井吹は原田にだけは話した。
七星士が集まって嬉しいこと、だけど何か胸の奥が重いこと。それが何なのか何故なのか分からないこと。
まだ自分の中で纏まってない感情を他人に話すのは初めてだった。
そういう感情をさらけ出すのは弱さを出しているようで嫌だった。
だけど、原田なら。
そんな、新しく灯った知らない感情に戸惑いながらも、ぽつりぽつり。

「いいんだ」

へらり。
多分、そんな顔で井吹は笑った。
原田は井吹の気持ちを聞いてくれた。
答えを導き出してもらった。
普通なら絶対嫌だけど、頭を撫でてくれた手は温かくて気持ちよかった。
それだけで十分だから。
帰りたくないとか寂しいとか…。
全部、全部もう大丈夫だよ。
井吹にとっては、そんな笑みのつもりだった。
だけれど、原田はぎゅっと眉を寄せて、井吹の頭をぺしりと軽く叩いた。

「無理すんな」

叩かれた頭に手をあてながら、井吹は原田を見上げた。
本当に心配そうな表情で見下ろしてくる原田に、なぜか井吹は噴き出してしまう。
クスクスと笑う井吹に原田は怪訝そうな顔をした。

「平気だよ」

帰ってしまったら会えなくなってしまうけど。
みんなとの思い出は無くならないから。
全てが終わったら自分のいるべき場所へ。
帰るべき場所へ。
もし、もしも叶うならば――――。

****

なんとなく、家に帰ると、しばらく玄関をジッと眺めてしまう。
なんとなく、玄関を開けるとき、力が入ってしまう。
なんとなく、家の中に入るとき、身構えてしまう。
なんとなく――何も起こらないことに胸がざわつくような、ぎゅっと何かを掴まれたような…。
ちくちくする心は知らない振りをして、自室へ行く。
大丈夫だと思った。
会えなくても、心の中に思い出があるから大丈夫だと思った。
いつだって思い出せば会えるって。
だけど、そんなのは違った。
思い出せば思い出すほど、胸が軋んだ。
会いたくて、会いたくて。苦しい。

「龍之介!」

ハッとして振り返る。

「なんだ、お前か」

「なんだってなんだよ失礼なヤツだなぁ」

呆れたように、井吹の横を歩くのは、学校で一番仲の良い友達だ。
今日も今日とて、学校までの道のりを二人で歩く。

「なんだよ、龍之介ぇ〜。元気ないぞー?……もしかして恋煩いかぁ?」

からかうように、しかし心配も覗かせて井吹を肘でつつつく。

「……恋……?」

ぽつりと呟いた声は誰にも届かない。
その時、井吹の目の端にピンクの何かが掠めていく。
それを追うように、足を止め振り返る。

「ちょ、龍之介!?」

背後から何かに押されるように井吹は走り出した。
遠くから制止の声が聞こえたような気がしたが、井吹は気にしていられなかった。
心臓がバクバクと悲鳴を上げようが、呼吸がとんでもないことになっても井吹は走りを止めなかった。

だって、そんな、だって、でも、もしかして。
ぐるぐると駆け巡るのは、言葉にならないもので。

たどり着いた場所で井吹は膝に手を置いてゼーハーと呼吸を整えることに専念した。

「落ち着け、大丈夫か?」

上から降ってきた声に、息が止まる。

「まったく、慌ててどうしたってんだ?」

呆れたように息を吐く別の声に、体が固まる。

別の意味でバクバクと心臓が鳴る自分を叱咤して、井吹は恐る恐る顔を上げた。


end


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終わりです。
誰がなんと言おうと終わりです。
なんだか、ふわりと不完全燃焼な感じですが、仕様です。と言いきってみる。
私の文章能力がないからしょうがない。
本当にごめんなさい。
この話に副題をつけるとすれば、【ここから始まる】です。
本当なら愛され予定だったはずのに最終的に原田寄りになってしまいました。
これも管理人の力不足でございます。
いろいろなキャラもフェードアウトしてしまいましたし活躍もさせてやれませんでした。
本当に申し訳ない。
ここまで読んで頂きありがとうございました。

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