暖取試合

一緒にやろう、やらない、などと押し問答を続けていると、不意に背後からガバリと覆われた。

「っはー、あったかい。井吹君って子供体温だからこの時期便利だね」

「誰が子供体温だ!というか人で暖を取るなっ!!」

「良いじゃない、別に減るモンでもないし?」

「俺の体温が急激に下がってるんだが……!」

今度は、離れろ、嫌だ、の攻防が続く。
終いには諦めた様に沖田が溜息を吐いた。

「もー、だったら井吹君も僕に抱き着いたら?
少しは暖取れるでしょ、お互い」

「嫌だ無理断る」

「何それ、物凄く傷付くんだけど」

そう言いながらも、口調はとても楽しそうだ。
そして、尚も己を離そうとしない沖田に井吹も、体温だけじゃなく体力も減る、と半ば諦めの境地に入りつつあった。


ふと誰かが己を呼ぶ声が聞こえる。
その方に顔を向けると、木刀を持った斎藤が立っていた。

「井吹、寒いのなら稽古が一番良い。
適度に身体を動かせば温まる上に、剣術も身につく。正に一石二鳥だ」

「…………そりゃそうなんだが」

正直言うと外には出たくない。寒いから。

喉まで出掛かったそれを飲み込む。
そんな事言える筈がない。
言えば、だから誘っている、最初の内だけだから大丈夫、などと言われ言い返す事も出来やしないから。

取り敢えずどうやってこの場から離れようか、と思考を巡らす。
すると、近くにあった襖が開き、誰か出て来た。

「朝っぱらから煩ぇぞてめぇら。何騒いでやがる?」

声は最小限抑えているが、その表情からして相当頭に来ているらしい土方が顔を見せた。
徹夜明けの酷い顔で幹部達を睨む。眼力だけは変わっていないようだ。

しかし【鬼の副長】も井吹に目を向ければ、途端に眼差しが柔らかくなる。
土方は井吹に向かって、チョイチョイと手招きした。

「おい、井吹。ちょっとこっち来てみろ」

「へっ?う、うん……」

沖田の腕から離れ、土方の部屋へ入る井吹。
彼が襖を閉める直前、土方は彼の背中越しにチラリと幹部達を見てニヤリと笑った。


手に入れる為にゃ手段は選ばないぜ、と。


こればかりは流石の幹部達もお手上げ。
諦めて朝餉までそれぞれの事を始めた。


何も知らない井吹は土方に向き直る。
その時、眼前に出してあった火鉢が目に留まった。

「ちぃっと寒いんでな、近藤さんが出して来てくれたんだよ。
さっき外に居たから冷えてんじゃねぇか?当たれよ」

「え、良いのか?」

「霜焼けになりてぇんなら別に当たらなくても良いぜ?」

クツクツと笑う土方に馬鹿にされたと思った井吹はムッとした顔で火鉢に手を翳す。
ほんのり赤い火に当たると、まるで手に張り付いた氷が溶けていく様にじんわりとする。

ほっこりと表情を緩ませる井吹を隣に座る土方は横目で見、フッと口許を緩ませた。



一方その頃。

「あーあ、結局土方さんいいとこ取りじゃん」

乾布摩擦を終えその場に座り込み、頬杖をつく藤堂に原田は苦笑を漏らした。

「ま、今回はどうしようもなかったさ。
龍之介、本当寒そうにしてたからな」

「確かに室内であったまってた方が良かったかもしれねぇしな」

原田の言葉に頷く永倉。藤堂は遠くを見詰めながら、はぁ、と溜息をついた。



所変わって壬生寺。
うっすらかいた汗を手の甲で拭い沖田は境内に座り込んだ。

「折角彼と話す機会が出来たと思ったんだけどなぁ」

その言葉に斎藤は木刀を振り続ける手を止めた。

「やむを得ぬだろう。今回は我々の完敗だ。
………共に稽古に励みたいと思っていたが、井吹の事を考えてはいなかったからか」

薄赤く染まった鼻を見れば気付いてやれたかもしれぬ、と呟く斎藤に沖田は目を細める。

「………一君てさ、彼の事になると途端に饒舌になるよね」

「ん?何か言ったか、総司」

何でもない、と手を振りぼんやりと前を見詰めた。


何はともあれ、今回は土方の一人勝ちである。



END
おまけ