番外編3
ふたり



「まぁ時間掛かったよなぁ」
「ほんとほんと」

結婚式の帰り、いつもの居酒屋に寄って2人でビールを傾ける。
1口目を美味そうに飲んで、滝ノ上が口を開いた。

「繋心、すげぇ顔してたな」
「あぁ、親父さんと2人で茹でダコみてぇな顔してた」

嶋田は思い出して声を出して笑う。

「でも、あれだな。
良かったよな。ちゃんとくっついてさ」

しみじみと滝ノ上が言った言葉を聞いて、嶋田もそうだな、と感慨深そうに言った。

「ここでさぁ、はじめて繋心から名前ちゃんの話聞いた時はビビったよな」
「ビビったビビった!女子高生怖ぇーつっってな!」

出されたお通しを受け取って、2人してつつく。

「知ってたか?
名前ちゃんの在学中、あの2人店でしか会ってなかったらしいぞ」
「知ってた。
俺、たまに店の前通りかかった時、話してる2人を見たことあるんだけどさ」

嶋田が手に持ったジョッキを置いて、苦笑する。

「名前ちゃんのあの顔。もう、恋してます!って感じのキラキラした顔でさ。
繋心よく耐えてんなと…」
「それな。あんなふうにこられたら、男ならグラっときちまいそうだけどなぁ」

いや多分あれは相当我慢してた顔だったけどな、と思いながら嶋田はあの頃の2人のことを思い出す。

初めてここで、彼女の話を繋心の口から聞いた時。
俺なんかが手ぇ出していいわけねぇだろ、と苦笑していた繋心を見て、こういう奴だよなと思ったことが懐かしい。
それから、大の男が恋に落ちる瞬間を見てしまったことも。

「なぁ、俺あの時言わなかったんだけどさ」

滝ノ上が焼き鳥を頬張りながらにやにやと笑っている。
多分同じ時のこと思い出してんな、と思って嶋田もまたにやにやと笑う。

「電話の後だろ?」
「やっぱりお前も気づいてた?」
「そりゃ気づくよ!明らかに、あれ名前ちゃんからの電話だったろ。そんであの顔!」
「だよなぁ。なんか分からんけど、俺の方が照れて何も言えなくなったんだよな…」
「同じく…」

あの時、ちょい席外す、と慌てて携帯を持って外に出た繋心を見て、多分彼女からの電話だろうと予測して、2人で顔を見合わせて笑った。
戻ってきてみたら、繋心の表情とか空気感が、なんというか、ふわふわした優しいものに変化していて、人が完全に恋に落ちるとこうなるんだと、ビフォーアフターを見た気がした。

「あれさぁ、あの時に完全に落ちたよな、繋心」
「うおー!思い出しても気恥ずかしい!」

滝ノ上が首を竦めて残りのビールを飲み干した。

「お、着いたみたいだぞ」

携帯に入ったメールを見て、嶋田が立ち上がる。

「こっちこっち!」

手をあげて呼んだ先には、話題の2人。

「よぉ、お2人さん、おめでとう!」

今日はこれから2人を祝福するのだ、
長い時間をかけて、やっと今、新しいスタートを切った2人を。