01.ツルアリドオシ



『あそこの山のどこかに死体が埋まってるらしいんだけど…。
でもそれだけじゃないんだよ。
殺人鬼が死体が見つからないように、山に入った人間を殺すらしい。
殺人鬼が山を“ハイカイ”してるんだって』

1クラス20人に満たない小さな小学校で、ここ最近実しやかに囁かれている噂だ。

“徘徊”という言い慣れない難しい言葉が、おかしなイントネーションそのままに伝わっていくのは伝語ゲームみたいで面白い。

その話を最初に聞いたのは春頃だった。
最初は死体が捨てある、という話から始まり、どんどん尾ひれがついて殺人鬼が登場するようになった。
そして夏休みに入る頃になると、殺人鬼の目撃談なんかも囁かれるようになった。
俺の友達の従兄弟が〜というような、主語がもはや誰か分からない程にぼやかされてはいても、子供たちの興味を惹きつけるには十分な威力がその話にはあったのだ。

そんなことがあって、家の近くのあの山は小学生にとって興味の的ではあれど、誰も近づく者のいない山となった。
真相に辿り着いた者は皆死んでしまう“らしい”から、誰も近づけない都合よく呪われたエジプトの王家の墓みたいに。


「行ってきます」
「行ってらっしゃい…ってどこに?」
「…裏の山」
「あら、そう…あの山、最近…って水筒はー?」

片手に持った水筒をあげて見せると、それ以上志乃さんは何も言わなかった。
大人用の麦わら帽子はぶかぶかだけど、影が多くできるから凄く気に入っている。

リュックには画材と本とレジャーシートと食パン。
一日くらい山で過ごせる。
今日僕は目標を達成するまで帰らない。

もしも殺人鬼がいるのなら、僕はその人に会いたい。

志乃さんには悪いけれど、目標を達成するまで帰らないんだ。
どんなに危険なことをしようとしているか、子供の僕にだってわかる。

でも、太陽が高くて、空が馬鹿みたいに青くて、恐ろしいことなんて少しもないように感じた。
きっと大丈夫だと、自分に言い聞かせながらズンズンと歩く。
だって僕と殺人鬼は仲間かもしれないんだもの。