02.ミヤマヨメナ
「行っちゃった…」
遠ざかっていく小さな背中を見送る。
ここ最近、というかあの子が春にここに来てから数ヶ月の間、安定感のないふわふわとした危うさがある。
だからって、小学生を夏休みに家に閉じ込めておくのもねぇ…。
頬に手を当てて思案したところで良い案なんて浮かばず、私にできることといえば。
「…今日の夕飯は何にしようかな」
美味しいものを作って待っていることくらい。
すでに早朝から鳴き始めている蝉の声がわんわんと周囲を取り囲んでいる。
「今日も暑くなるなぁ」
庭先に目をやってからぼんやりと夏空を見上げる。
志乃さん、と名前を呼んでくれるあの子のことが大好きだ。
だからこそ心配もあれば、不安もあって。
見守るなんて体のいい言葉で放置してしまってもいいのか。
「うーん…」
わからない。
ため息をついて時計を見ると出勤の時間が迫っていた。
のんびりと立ち上がって家を出る。
「あらぁ志乃ちゃん、おはよう。仕事?」
「おはようございまぁす。そうー私が行かないと図書館開かないからぁ」
隣のお婆ちゃんが畑に出てきているところで、私は彼女に声が届くように少しはっきりと大きな声で喋る。
「そうねぇ。暑いから気をつけてねぇ」
「はぁい」
のんびりと手を振って錆びた自転車にまたがり、鞄をカゴに放り込む。
ここは私にとって癒しの住処だ。
あの子にとっても、どこか癒しの場所ができればいいのだけれど。
怖いものは何もないのよって、きっと人が言っても駄目だろうから。
「はぁー暑い」
夏の日差しがジリジリと肌を焼く感覚と、すり抜けていく風の心地よさにうっとりと目を細めた。
続