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最初に彼を見たのは、若利の応援のために行ったバレー部の試合だった。
ぞくりとするような危うさと、じわじわと這い上るような陶酔感。
それが彼を見て私が抱いた印象だ。
皆の注目は存在感のある若利に集まったけれど、私はどうしても、彼、天童覚から目を逸らせなかった。
したことも見たこともないけれど、何故か彼のプレーを見ていると、恍惚のその瞬間の絶頂に達しているように見えてしまって。
下品なそれではなくて、いつか見た絵画の、あれはなんだっけ、そうだ、カラヴァッジョの絵を見ているような、そんな感じだった。
天童くんがブロックを決めた後のその瞬間だけ、まるでスポットライトが当たったかのようにして見えた。
美しい、とも少し違う。
ただその瞬間がいやに艶かしく、幸福そうに見えて、なぜか私は、いいなぁ、とぼんやり思った。
それはきっと、全てを解放できる場所を手に入れた彼への、尊敬と憧れだったのだと思う。
世間的に言えば、“良いとこのお嬢さん”として育ってきた。
生まれも育ちも超がつくほどではないけれど、所謂上流と言われるような、そんな家庭。
穏やかな父と優しい母。
幼馴染は牛島家の優秀なお坊ちゃん。
小、中学校は勿論私立で、当然のように地元の有名私立高校の白鳥沢学園に入学した。
不自由はない。
平和で穏やかな日々。
それが多分、少しずつ少しずつ、私の息を苦しくしていっていたのだと思う。
そんな私だったから、天童くんの存在は私の中で大きく輝いて見えたのだろう。
そう、有り体に言うならば、私は天童くんに生まれて初めての一目惚れをしたのだ。
だから、彼が私と交際してくれるという幸運は、本当に今まで生きてきた中のどんな出来事よりも嬉しいことだった。
例えそれが、彼の気まぐれであったとしてもだ。
最初の数ヶ月はまさに春だった。
どんなに遠くにいても私は彼を素早く見つけることができたし、走り寄って行くことを許可された関係だと感じる瞬間が幸せだった。
だけど私は、自分が思っていたよりもずっと、欲深くて浅ましい人間だったということを知る。
もっと、もっと、と彼を求めようとした。
天童くんは、拒否もしなければ積極的に受け入れることもしなかった。
彼はただ、彼として、毎日を変わらず在り続けているだけだった。
そういう天童くんが好きだったはずなのに。
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