0.5
決定的になったのは、勇気を出して初めて誘った初の2人での外出の約束を、前日に断られたことだった。
その日は、本当は私の誕生日だったのだ。
多分、知らないだろうと思っていた。
それでも良いから、特別な日に彼と一緒にいられたらと願ったのだ。
『明日の約束なんだけど。行けなくなっちゃった』
『あ…そうなんだ。忙しくなったの?』
天童くんからの初めての電話を、胸が張り裂けそうな思いでとった。
泣いてしまいそうな気持ちをどうにか抑えて、唇を噛んでできるだけ平静を装った。
『んーん。そういうわけじゃないんだけど。
実はその日、若利くんお誕生日ということが判明してネ!
部の皆でお祝いしよーって話になったんだよねぇ』
そう嬉しそうに電話の向こうで笑っている天童くんに、言葉を失った。
私だってその日誕生日なのに。
そんなことを恨みがましく思う自分にも、絶望した。
やっとの思いで、うん、と言ったら、じゃあねぇ、と電話は切られた。
その後、若利から何度か電話がかかってきたけれど、とてもとれる状態ではなかった。
『なぜ天童に言わなかった?お前も今日が誕生日ということを』
次の日の夜若利がやって来て、久しぶりに私の部屋に入るなり、真っ直ぐにそう言った。
『言えるわけないよ。だって私、若利みたいに天童くんに求められてないもん』
つい口に出して言って、はっとして下を向いた。
醜い。
若利にまで、こんな、八つ当たり。
情けなくて、苦しくて、後から後から涙が溢れ出た。
『すまん』
『なんで、若利が謝るの。やめて』
側にじっと立っていた若利が屈んで手を伸ばして、ぽんぽんと背中を叩いた。
昔飼っていたハムスターが死んだ時、泣きじゃくる私にしたように。
泣き疲れてそのままぐっすりと眠った。
若利が側にいてくれて安心したからか、ここ最近あまりよく眠れていなかった分を取り戻すかのような深い深い眠りだった。
早朝目が覚めたら、勿論若利はもう帰っていて、私の机の上に小さくラッピングされた包みだけがあった。
開けたら綺麗に折り畳まれたハンカチで、そういえば毎年、若利にあげていたプレゼントを今年はすっかり忘れていたことを思い出した。
こんなことになってまで、私は何をしてたんだろう。
そう思うとまた泣けてきて、真新しいハンカチを顔に押し当ててひとしきり泣いたら、なんだか空っぽになってしまったのだ。
好きな気持ちは、きっとまだ、叫び出したいくらいにある。
でもそれを持続していく、意欲というか頑張る気持ちみたいなものが、枯れ果ててしまった。
別れはあっさりしたものだった。
気持ちの整理の為に1ヶ月程彼を避けていたけれど、久しぶりに会っても天童くんはちっとも変わらない、天童くんのままだった。
私だけがこの半年で変わったんだと、そんな天童くんをみて改めて思った。
それからは穏やかな日々に戻り、学年が変わる頃には、すっかり元気になった。
そうだ、これが本来、私が住む世界だったと自覚した。
ちょっと言葉は違うかもしれないけれど、あれは半年間のアバンチュールだったんだと、ほろ苦い思い出として処理し、日記にもそんなようなことを書いた。
そう、この私の恋物語は、終わったはずだった。
なのに。
「あっれー?琴子ちゃんコース変したのぉ?」
私の平穏な日常はこの素っ頓狂な声と共に、一気に不穏な空気を帯びたのだった。
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