3話


会場は、色とりどりの艶やかな女性たちの着物姿で彩られていた。

とんだ誕生日だと思ったけど、これはこれで楽しいかも、と千笑はその賑やかな会場を眺める。

「千笑サン、離れないで」

非日常のその光景にぼんやりとしていると不意に耳元で喜助の声がして、気がつくと千笑は喜助の広い背中の裏にいた。

先生、こういう場のエスコートも慣れてるんだ…。

普段のだらしない喜助しか見ていない千笑からすると、その姿は普段の様子とあまりにも差がある。

そりゃあモテるよね。

「やァ、久しぶりだねぇ、千笑ちゃん。元気にしていたかい?」

千笑が喜助の背中の後ろで1人納得していると、のんびりとした声で名前を呼ばれて振り返った。

「京楽さん!」

お久しぶりです、と千笑が微笑むと、ほぅ、という顔で京楽が顎を摩る。

「いいねぇ、綺麗だねぇ。着物似合うだろうなァとは思ってたけど、やっぱり似合うねぇ。こうも綺麗だと、デートにでも誘いたくなっちゃうねぇ」

京楽春水。
古本屋の店主だが顔が広く、出版業会では有名な人物だ。
道楽で古本屋をやっているが、実はかなりの資産家らしい。
女性関係が派手なことでも有名な人物である。

千笑は以前に喜助の紹介で、この男に会っている。

うんうん、と微笑んだまま頷く相変わらずの調子の京楽に苦笑していると、両肩に大きな手が置かれた。

「京楽サン、お久しぶりっス。相変わらずお元気そうで」

後を振り返って見上げると、喜助がにっこりと微笑んでいるところだった。
京楽は、おー怖、と呟いてこっそり千笑にウィンクをすると、喜助に笑いかける。

「やァ、浦原くん!ありがとうね、今日は来てくれて。浮竹は何も準備しないしさぁ、大変だったんだから」

その言葉を聞いて、千笑は目を丸くする。

「え、このパーティーって主催は京楽さんなんですか?」
「そうだよ」

事もなげにそう言ってのける京楽に驚くと同時に、今日のこの趣向を考えると然もありなん、と千笑は思うのだった。

「浮竹先生と京楽サンは、大学の同期なんスよ」

喜助の補足に、千笑は、へぇ、と頷く。

「そうそう…。って、その浮竹はどこに行ったのかな?」

きょろきょろと見回してその姿を見つけたのか、おーい、と京楽さんが手を振ると、振り返った銀髪の背の高い人物が手招きをした。

「浦原くん、会わせたい人がいるんだけど。いいかな、彼を借りて行っても」
「え、いや、アタシは…」
「どうぞ、どうぞ!私は適当に楽しんでいますから」

千笑が笑うと、じゃあまた後でね、と言い置いて、京楽が喜助を引きずるようにして連れて行ってしまった。

さてさて。

千笑は1人になって、周りを見渡す。

色とりどりの着物。
きらきらと輝くグラスの光。
上品に笑い合う男女の歓談の声。

煌びやかなこういう場所も、偶には悪くない。

千笑は場の空気にすっかり自分が馴染んでいくのに、楽しげな高揚感を覚えながら歩き出した。