若者のすべて(1/3)
遠くで蝉が儚い声を響かせている。
夕方の時刻を知らせるチャイムが響いて、夕暮れに吹く風が涼しい。
あの日の情景とシンクロして、緩い目眩が襲う。
「−…連日、大変な賑わいを見せている夏越の大祭。今日はその最終日です。
例年通り、花火の打ち上げが行われる予定で、更なる混雑が予想されます」
あぁ、そうか。そんな時期か。
つけっぱなしにした夕方のニュースが伝える今年最後の花火の知らせに、意図せず過去が蘇った理由を知る。
そう、最後の花火はいつも、こんな物寂しい季節の最後を彩るのだった。
毎年忘れていたところに、この時期になると不思議に蘇る。
「浴衣、浴衣ー!」
「なんや、歩きにくくてかなわんわ」
白のはしゃぐ声と、ひよ里のうんざりした声に続く女たちの姦しい声でハッと我にかえった。
ソファに沈めていた身体を無理やり起こした。
「白はねぇ、りんご飴とぉ、お好み焼きとぉ、イカとぉ」
「あたし、人混み嫌やねんけど」
「もーリサちん、ノリわるぅーい!折角浴衣まで着せてあげたのにぃ!」
「着せてあげたって…お前、なんもしてへんやろ。着せたのはコイツやないかい」
「ひよりん、こまかいー」
「いいんだよぉ、ひよ里ちゃん」
「お前なぁ、コイツに甘い顔しとったら、どんどん浸け込まれんで」
「ひっどぉーい、ひよりん!白を何だと思ってんの?!」
圧倒的な文字量でのやりとりに、少々気圧されている織姫を余所にギャーギャーと無謀なやりとりが繰り広げられる。
「ごめんなぁ、織姫ちゃん」
「い、いえいえ!全然!」
楽しいですよ、こうして皆でいられることが。
織姫が目を細めて、柔らかい笑みを浮かべた。
その言葉と表情の意味が、よく分かる。
死線を潜り抜け、俺たちはここにこうして存在できている。
最も、皆が何も失わずにいられたわけではなかったが。
「一護はどないしてる?」
「…それが…」
「…そうか」
みなまで言わずとも、分かる。
霊力を失って普通の生活に戻ろうとしているあいつに、要らぬちょっかいはかけまいとその後接触はしていない。
どちらにせよ近々尸魂界に戻る身としては、もう会うこともないかもしれない存在。
大切な友だからこそ、何も伝えず行くつもりだ。
「平子さんは、行かないんですか?お祭り」
パッと空気を変えるように、織姫が笑顔を向けてきた。
「あー俺はパス」
「でも、皆さん行かれるみたいですよ」
「へぇ…拳西もか?」
「はい。白ちゃんが誘って」
「珍しいこともあるもんやなぁ」
そう言いながら、各々がここでの暮らしに区切りをつけようとしているのだろうと、考え直す。
これがここでの、本当に最後の花火かもしれない。
尸魂界に戻ってしまえば、そうやすやすと隊長、副隊長各が現世に出てくることなどできないのだから。
「じゃあ、真子行ってくるねー!」
「おぉー」
白の上機嫌な声と共に賑やかな一行を見送ると、途端に静寂が降りてきた。
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