若者のすべて(3/3)
「よっ…と」
神社の入り口で、地上に足をつけた。
小高い山の頂上に立つその神社からは、眼下に街が見渡せる。
待ち人はまだ来ておらず、静まり返った境内に虫の声が響いた。
ぼんやりと霞む月を見上げる。
祭りはそろそろ佳境だろうか。
尸魂界からの客か。
死神とはあの戦いの後、頻繁に接触していた。
物珍しげな表情を浮かべる者もいれば、憐れむような表情を浮かべる者、警戒心をむき出しにする者。
反応はそれぞれだが、とにかく奇異な目で見られることには変わりがない。
今から来る死神も同じだろう。
そう考えると面倒くささがのしかかる。
さっさと送り届けて、さっさと帰ろ。
帰ったら、とその後の予定を考えていると、穿界門が開く気配がした。
お、来た来た。
ゆっくりと開いていく障子を見ていると、扉の向こう側から光が溢れてくる。
暗闇に慣れた目が眩しい。
目を細めて、身軽に障子から出てきた死覇装のシルエットを確認する。
シルエットの後ろで障子が閉まると、再び暗闇が降りてきた。
目が慣れるまではもう暫くかかりそうだ。
「こんばんはぁ。平子やけど、喜助から聞いてるか?」
急に知らない男がいたら驚くだろうと、声をかける。
喜助のことだから、伝えているだろうという予測のもと名を名乗ったが、返答がない。
向こう側からは、こちらのことが見えているはずなのだが。
「おーい」
女?
もう一度声をかけて少し近づくと、少しずつ慣れてきた目に華奢な身体が見えてきた。
「隊長…?」
よく通るその声が、すぅと暗闇に溶けていく。
昔の知り合いか?
月明かりに進み出てくるその姿に目を凝らす。
青白く透ける肌、黒い前髪が揺れて、切れ長の瞳が真っ直ぐに対象を捉えた。
顕になったその姿に目を見張る。
「…名前…か?」
信じられない。
本当なのか。
幻でも見ているのではないか。
「平子…隊長…?」
「…」
近づいたその白い華奢な手が、頬に遠慮がちに触れた。
ほんのりと暖かい体温が伝わって、それが現実だと知る。
「…おぅ」
なんとも間の抜けた声が口からでて、自分の声が他人のもののように響いた。
恐る恐る頬に触れるその手に、手を添える。
こういう時ドラマや映画なら、気の利いた言葉のひとつも出てくるのかもしれない。
現実はそううまくはいかないようだ。
100年もの月日のせいか、今日追っていた残像が現実と重なったからか。
その体温を、姿形を確認するので精一杯で言葉など出てこない。
その時だった。
2人して目を見開いて夜空を見上げる。
鮮やかな光が夜空に咲いてた。
次々に咲く光の花が、夜空を彩っていく。
「綺麗…」
「…ほんまやなぁ…」
少し大人びたその横顔を、あの日と同じよう眺めた。
手を伸ばして柔らかな髪に触れれば、懐かしい香りが漂う。
この花火が終わったら、何かが変わるだろうか。
できなかった言葉を、想いを、伝えられるだろうか。
「隊長…おかえりなさい」
「ん。…ただいま…」
end