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 「浴衣だぁ!うんうん、いいね!あ!牧ちゃんのかんざし、 飛燕草ヒエンソウ?」
 「え?このお花、 飛燕草ヒエンソウっていうの?」
 「うんうん、多分ね〜。造花だから分かりにくいけど……この花弁の形が特徴だね。燕が羽を広げたみたいな形だから、飛ぶ燕の草で 飛燕草ヒエンソウ。夏に咲くんだけど、暑さに弱わいから涼しい地域によく咲くんだよ!花言葉は軽やかさ、気まぐれ、初恋、とかだね〜」
 とダーホンは講釈を言いながら、どれどれ?と私の頭の後ろについたかんざしを興味深げに見出した。正面から見ようとするので、覆い被さるような体勢になって、ちょっと、いやかなり近くて恥ずかしい。話を広げてしまったのは私だけれど困った。大体、服の着方がルーズなのだ。浴衣ともなればさらに肌色部分が増える。ダーホンの白い肌が近くて目のやり場に困って、視線をうろうろと彷徨わせた時だった。
 「おいおい、本多、近ぇよ。牧が困ってるぞ〜」
 揶揄うような、でも、しっかりと制止が含まれた言葉が聞こえて、ダーホンがやっと距離をとった。ホッと息をついたのと同時に右横に大きな身体が並んで、また私の体は固くなる。
 「ダァー!ごめん、牧ちゃん」
 「い、いいよ」
 眉を下げたダーホンにそう返しながらも、私の意識は右半身に集中した。そわそわと落ち着かなくて、後毛を気にしながらそっと右上に視線をやれば御影先生の横顔が見えた。
 「本多は真面目ちゃんに声掛けないのかよ。七ツ森と風真に先越されてるぜ?」
 「あー!オレ、ちょっと行ってくる!」
 何気ない会話を聞きながらも、バクバクと音を立てている心臓が痛い。走っていく浴衣姿のダーホンを目で追いながら、いつの間にかひかるもみちるも、先に行ってしまっていて側にいないことに気がつく。
 「はは!いいなぁ、青春!」
 「そうですね」
 楽しそうに隣で笑う御影先生を見上げれば丁度視線がぶつかって、
 「ん?どうした?」
 とろりと解けるように、眼差しを緩めて微笑まれる。
 「な、なんでもない、です」
 あまりの破壊力。慌てて視線を逸らして熱くなった頬に手をやった。
 おーい行くよぉ、と先を行っていたひかるが声をかけてきて、おー、と先生が答えて歩き出す。花火大会の海辺の会場は多くの人で賑わっていて、余裕のない通路を歩けば先生の腕に身体が当たる距離の近さだ。
 「牧」
 御影先生の掠れた声が、祭りの喧騒の間を縫って落ちてきた。絶対に顔は赤くなってるけど、そう呼びかけられれば振り向かずにはいられなくて。
 「誘ってくれてありがとうな。お陰で、こんな綺麗な浴衣姿が見れた」
 目を合わせてそんなことを言われるものだから、言葉を失う。
 不意にぬるい風が吹いて、緩く落ちた横髪が頬にかかった。
 「髪も、いいな。よく似合ってる」
 先生の指がそっと頬の髪を払ってくれて、近づいた指先の熱から溶けていきそう。
 ……って、やばいやばいやばい!これ以上は!
 「みっ!御影先生!」
 この甘い空気を打破しなければ。
 「お、なんだ?」
 「屋台ですよ!端っこから順に食べましょう!!あ!回転焼きありますよ!」
 無理矢理テンションを上げて目についた屋台を指さすと、先生の瞳がきらりと光った。
 「お〜?いいぜぇ?食うか?!今日は俺の奢りだ!」
 先生の威勢の良い言葉を聞きつけて、俺も、私も、と先を歩いていた仲良しグループの面々と花椿ツインズが戻ってくる。わいわいとした空気にホッと息を吐いた。
 話は数日前に遡る。



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 夏休み真っ只中の学校の裏庭には誰もいない。園芸部の活動は今日はないし、遠くで運動部の声が微かに聞こえるだけだ。そんな静かな場所で、私は御影先生に頭を下げていた。
 「先日はご迷惑をおかけしました」
 「はは、なんだよ、改まって。どういたしまして?」
 おどけた調子で笑う御影先生の顔を見ると、あんま気にすんな、と柔らかく言ってくれて、なんというか恐縮してしまう。
 結局先生に車で送ってもらった翌日も生理による不調が長引いて家で休んでいたのだが、翌々日の今日にはPMSも収まった。収まってしまえば、なんだかすっかり憑き物が落ちたようになって、その嵐のような感情のブレに自分のことながら戸惑っている。恐るべし、10代の心身。
 「ん、顔色も良いし、随分良くなったみたいだな」
 「はい、昨日まで休ませてもらって、すっかり元気です。今日からお茶部に復帰です!」
 「そうか。良いけどさ、飛ばし過ぎてまた倒れんなよ?」
 体調を気にかけてくれる御影先生に拳を作って回復アピールをすれば、先生は困ったように笑う。まぁ、あんなことがあればそりゃそうなるよな、と若干の反省のもと、はい、と返事をしたら、はは、と楽しげな笑い声と共に暖かい温もりが頭に置かれた。
 「前言撤回。やりたいようにやれよ、不良娘」
 ちゃんと見ててやるから、と言い置いて温もりは離れていく。
 頭ポン!!!!!!!
 身に起きた出来事に一瞬思考が停止する。
 「よーし、今日はレモングラスの収穫。それから乾燥保存のための作業な」
 何事もなかったかのように作業に戻っていく先生の声に我に返る。
 「ミントもヤバいことになってるからな。採っちまわねぇと……牧?」
 「は、はい!すいません、行きましょう!」
 返事がないので、ん?と振り向いた御影先生の眼差しがどことなく甘くて、慌てて返事をして先を歩いていた先生を追い越してハウスへ急いだ。
 これは……ちょっとまずいかも。
 家で休んでいて取り戻した平静が崩れそうだ。御影先生の気持ちについてあながち自分の都合の良い妄想でもなかった可能性に、乱れ出す心音を鎮めるべく足を早める。手の甲を頬に押し当てたら、しっかり熱くなっていて息を吐いた。




 「花火大会?」
 「はい。花椿姉妹と、マリィと風真くん、本多くん、七ツ森くんと」
 フレッシュミントで淹れたお茶に氷を入れながらそう言うと、随分大所帯だな、と先生が笑う。(氷は御影先生が買ってきたロックアイスが冷凍庫に入っていたし、グラスはちゃんとしたガラス製のグラスがこれまた冷蔵庫に冷やされていた。本当に理科準備室は家かな、というくらいなんでもある)
 「どうぞ」
 「お、サンキュ〜。うーん、良い香りだ」
 「やっぱりフレッシュは香りが全然違いますね」
 「だな〜。スッキリしてて、アイスティー向きだな」
 グラスを先生に渡せば早速テイスティングが始まって、私もグラスに口をつけた。匂いもそうだけど、味もスッキリして涼しげのある爽やかなミントの味がしっかりする。
 「おいしい!」
 「夏にぴったりだな。文化祭には出せねぇから、ここだけの楽しみだけどな」
 それはそれでいいか、ともう一口ミントティーを飲む先生の言葉を聞いて同意する。新学期に入ってから色々あって、こんなふうに休憩時間に2人でお茶をするのも久しぶりだ。夏休みの穏やかな午後、2人で涼しい室内でひんやり冷えたミントティーを楽しんでいる。こんな時間がまた過ごせることが嬉しい。
 「あぁ、そういえば、話が途中だったな。花火大会行くんだろ?」
 「あ、そうなんです。花椿姉妹の提案でマリィに話がいって、マリィから男子3人にいって、私にもお声がかかった感じで」
 先生が言った通り思わぬ大所帯になってしまったけれど、それはそれで楽しいと思っている。まぁ、男子3人は各々マリィを単独で誘おうとしてたんじゃないかと思うと、マリィに先制されてお気の毒といった感じけれども。
 「いいな〜。3人も男がいれば安全だろ。楽しんで来いよ」
 にこにこと笑って御影先生は一口ミントティーを飲む。綺麗な喉が動くのを見て、それから覚悟を決めた。
 「その、御影先生もどうですか?」
 「え?」
 先生のきょとんとした顔を見つめて、勇気が萎む前に言葉を繋ぐ。
 「去年、言ったこと覚えてます?私、次は最初から先生を誘いますねって言ったから……。ほ、ほら!皆んなで行けば楽しいですよね、って話してたじゃないですか?皆んなも賛成してくれてますし、どうかと……思って……」
 一気に喋っている間に勢いは段々尻すぼみになっていく。なんとも格好悪い。最後は視線を合わせていられなくて、ウロウロと視線を彷徨わせた。
 花火大会のメンバーには御影先生を誘うことを事前に聞いていた。理由付けとしては、監督と(高校生にもなって?と七ツ森くんには言われてしまったけれど)私が部でお世話になっているからというものを持ち出したら、あまり深く考えずに皆んな承諾してくれた。御影先生は生徒とワイワイするの好きそう、というのが全員一致の感覚のようで、去年の流れもある私としては詮索されなくてホッとしたのだった。
 ……でも、この若干の間は、ありがた迷惑だったということだろうか。
 「忙しかったら無理にとは」
 「忙しくねぇよ!」
 すっかり自信を無くした私が弱々しく言いかけた言葉を、先生が食い気味に遮ってきた。顔を上げると、そっぽを向いて口元を手で覆っている先生が目に入る。覆えていない目元は赤さが隠せていない。
 「悪い……つい」
 視線がこちらを向く。それから、そっと伺うように私を見た。
 「良いのか?その……邪魔じゃねぇ?俺」
 ……色気、やっっっっっっば。
 「じゃ、邪魔なわけないです!皆んないいね!って言ってましたし!」
 不意に飛ばされた色気に自我を失いかけるのを、なんとか繋ぎ止めて返す。急にやめて、ほんと、心臓に悪い。
 「マジか〜……!ありがとな、混ぜてくれて。はぁ、嬉しいもんだなぁ」
 ホクホクと言葉通り嬉しそうに笑う御影先生を見て、誘って良かったなぁと思う。先生の過去のことを思って、今の彼の気持ちを想像すると、つい笑ってしまった。
 「なんだよ」
 「嬉しいってその気持ちわかるなぁと思って。嬉しいですよね、誘われるのも、みんなで花火も」
 似たような喪失感がある私と先生にとっては、きっとこういうことがとても大事な意味があるのだと思う。普通の高校生が普通にやることをできることが。
 「そうだな。当日は楽しもうぜ」
 「はい!みんなで浴衣着ますよ〜!」
 「お、そりゃ楽しみだなぁ〜。俺は私服だな。浴衣ねぇし」
 そんな他愛無いお喋りでこの日は時間が過ぎていった。



 



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『その、御影先生もどうですか?』
 最初に牧にそう言われた時は、なんのことを言っているのか飲み込めなかった。そのくらい嬉しかったんだ。
 花火大会の話を牧が最初にしてきた時、今年は友達と行くんだなと微笑ましく思う気持ちと、少し寂しい気持ちがない混ぜになった。去年の祭りのあと、次は最初から御影先生を誘いますよ、と大人びた口調で言われて動揺した自分を思うと情けないことこの上ないが、それを今年うっすら期待していた自分はもっと情けない。色々あったとしても、距離感や関係性が変わるわけではない。自分から行動もせずに、誘ってもらえることを期待していた俺は大馬鹿野郎だ。何やってんだ俺は、と思いながら、物分かりの良さそうな言葉を言った時だった。
「その、御影先生もどうですか?」
 牧が遠慮がちに言うその一言に俺は、間抜けな音を発しただけだった。いやだって、あまりにも自分に都合が良過ぎて。その後色々と説明をしてくれた牧によると、どうやら俺を誘おうと提案してくれたのは牧で、他のメンバーにも了承をとってくれていたらしい。嬉し過ぎて、みっともなく上気していく顔を隠す羽目になった。
 嬉しいもんだなぁ、という俺の言葉に、同調して牧が笑ってくれた。きっと牧は俺の過去のこと、今の俺の気持ちも汲んで気を利かせてくれたのだろう。でもさ、それだけじゃないんだぜ、と心の中でそっと思う。俺はお前が、俺のことを考えてくれたことが嬉しいんだと、でも臆病な俺は言えない。折角繋ぎ止めた関係が崩れるのが怖くて。
 そんな情けない自分も吹っ飛んじまうくらい、牧の浴衣姿は衝撃的だった。



 かっっっっ……可愛過ぎだろ……!!!!!!!!
 花火大会当日、楚々とした立ち姿で立っている牧に一瞬見惚れた。
 花椿たちや、真面目ちゃんも、そりゃあ同年代から見ればちょっと気後れするくらいの可愛さだろう。それにしたって、牧は浴衣が似合い過ぎている。着るもので人は雰囲気がガラリと変わる。特に和装はそうだと思うが、牧はその典型だ。一度大人の姿の牧を見ている俺には、その年齢に近いように見えてしまう。要するにかなり大人びて見える。
 髪とメイクのせいもあるのだろう。緩く結い上げた髪には青い花のかんざしが刺さっている。それが白地に薄紫の紫陽花の散る浴衣によく映えて、はらりと落ちた後毛の一筋でさえ美しい。去年も見た浴衣姿だが、改めて見るとやっぱり、いや、去年より更に綺麗に見える。
 合流する前にぼんやりと見惚れていたら、先に来ていた本多が牧に絡んでいくのが見えた。髪型の話になったようで牧の髪を本多がまじまじと見て、居心地が悪そうに牧が身じろぎする。
 いや、近ぇって。
 はっとして我に返り慌てて近寄って本多を制すると、牧がホッと息を吐いたのが横目に見える。やっばい、何しても可愛い。
 先を歩き出した、真面目ちゃんと彼女に群がる3人の男共と、それを楽しげに見る花椿ツインズを眺めながら歩く。青春そのものといった様子の彼らが眩しくてつい目を細めたら、トンと隣を歩く牧が腕にぶつかった。見下ろした俯き顔が、本当に綺麗で俺は思わず彼女の名を呼ぶ。
 「誘ってくれてありがとうな」
 そう言葉にしながら、違ぇだろ、と自分に叱咤した。言うべきことは、そうじゃない筈だ。
 「お陰で、こんな綺麗な浴衣姿が見れた」
 なんとか言葉を自然に繋げた。チキンな俺にしちゃ珍しく、視線まで合わせて。
 ……お、おいおいおい……なんっつー顔してんだ。
 はっとしたように見開かれた瞳はゆらりと潤んで、頬も耳もふわりと赤く染まっていく。おあつらえ向きに吹いた風が、緩く落ちた髪を頬にかけた。
 「髪も、いいな。よく似合ってる」
 思わず伸びた指と口からついて出た言葉に、自分でも驚きながら心臓の音を聞く。指先が牧の頬に触れている。熱が全部、彼女に伝播しそうだ。でも、それならもう、いっそそれでもいい、とか。
 「みっ!御影先生!」
 上擦った声で牧に名前を呼ばれて、パッと手を離した。
 あっっっぶね……!
 周りが見えていなかったことに気がついて動揺して、それからすぐに平静を取り戻そうといつもの調子で言葉を返す。こんなもん、側から見たら教え子に手出す変態教師でしかない。
 その後牧の提案により、俺の奢りで端から端まで食い物という食い物を全て買い込んで(これまでにない食事への出費となった。屋台ってやっぱ高ぇ)風真お墨付きの場所へ向かった。


 


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 「へぇ〜いい場所だなぁ」
 「おじいちゃんの知り合いに聞いておいたんですよ。会場からは、ちょっと離れますけどね」
 「いいよ、そのために色々買い込んだんじゃねぇか」
 そう返すと、そうですね、と風真が笑った。きっとこいつからしたら、この場所は真面目ちゃんと2人で来たい場所だったんじゃないかと思って心中を察する。
 「来年も真面目ちゃんと花火が見れるといいな」
 「まぁ……そうですね」
 こっそりそんなことを言えば、風真は図星を突かれたような微妙な顔をした。そんな風真を見て、俺は笑いを我慢する。笑ったら絶対に怒るだろうから。
 「コジロウ先生とリョウくん、2人で何の話〜?」
 「ん〜?恋バナだよ、恋バナ」
 「ちょっ……!御影先生!」
 いつの間にか近くに来ていた本多に軽いノリで返せば、風真が慌てたような声を出す。
 「えー!リョウくんが〜?!オレも聞きたい!聞きたいよねぇ、ミーくん?」
 「自分のこと話さなくていいなら。カザマの考えてることは聞きたい。まぁ、聞かなくても分かるけど」
 「うるさい、俺は恋バナなんかしない。男同士でどうすんだ、そんな話して」
 合流してきた本多と七ツ森に風真がそう返すと、3人してこちらに近づいてきている女子3人に視線をやった。少し遅れ気味に合流しようとしている彼女たちのうち、明らかに真面目ちゃんだけを3人が見つめている。そんな様子を見て、折角さっき堪えた笑いがぶり返してしまった。
 「ははは!お前ら面白いな!いいんじゃねぇの?悔いが残らねぇように精一杯やっとけよ」
 3人を代表して横にいた風真の肩を叩けば、風真は憮然とした顔をし、本多はきょとんした顔をし、七ツ森は面倒そうな顔をする。その三者三様ぶりに、また笑ってしまった。風真、本多は分かっていたことだが、七ツ森までも真面目ちゃんの魅力にやられていたとは。数週間前の俺にはまるで見えていなかった。
 「楽しそうだね」
 「まぁな。こっち座れよ」
 「あっズルい、リョウくん!」
 「そういうとこ、ほんと抜け目ないよな、カザマ」
 近寄ってきた真面目ちゃんを挟んでバトルが始まりかけたので、その場をそっと離れた。挟まれてニコニコしているが、真面目ちゃんもきっと大変なのだろう。
 「もう誰も隠さなくなったよねぇ」
 「本当に。露骨すぎて、マリィが可哀想」
 花椿ツインズの言葉に苦笑すると、いつの間にか隣に来ていた牧が笑った。
 「まぁいいんじゃない?マリィが許してるうちは。悔いが残らないように、とことんやった方がいいよ」
 図らずもついさっき同じようなことを言ったな、と思うと、ツインズ2人が納得したように頷く。
 「確かに。春乃って言うこととか、雰囲気とか、時々凄く大人っぽいよね〜」
 「それ、私も思ってた。今日なんか特にヘアメイクやったのは私だけど、予想以上に大人に仕上がったもの!春乃綺麗……」
 ツインズの片割れにうっとりとした目で見られて、牧がぎくりとするのが分かる。
 「そ、そうかなぁ?」
 とぼけた反応を返している牧は珍しくて、つい面白がって見ていたらツインズのもう片割れのみちるの視線が俺に向いた。
 「ウン、御影先生と並んでても、少なくとも教師と生徒には見えないくらい」
 鋭いことを言われている。気恥ずかしさもあるが、それよりも牧の秘密がバレやしないかとヒヤヒヤする。いや、バレようがないのは分かっているが。
 「お、お嬢さん方。花火が上がるぞ」
 都合良く花火が上がる音が聞こえて、その場をなんとか誤魔化した(下手くそだとは分かっているが、誤魔化せたことにしておこう)。座ろうぜ、と促せば、自然に流されてくれてホッと胸を下ろす。
 真面目ちゃんを挟んで言い争っていた3人も決着がついたらしく、ドンドンと派手な音を立てて上がる花火にみんな顔を上げて見惚れている。
 「御影先生」
 隣にいた牧がそっと服の袖を引っ張った。
 「どうした?」
 ドキリとして視線を向けたら、花火の音に紛れて小さな声で牧が喋るから良く聞こえない。思わず身体を寄せたらぶつかって、2人して硬くなる。
 「あの……さっき、ありがとうございました」
 「あぁ、いや。大したことじゃねぇよ。コソコソすることないんだろうけど、身構えちまうよな」
 「そうなんですよね。実際ずっと隠し事してるのは事実ですし……」
 少し声のトーンが落ちた牧を見れば、視線は花火ではなくぼんやりと海の水面に映る光を見ているようだった。
 「誰だって言えないことの一つや二つある。そんな気に病むことじゃねぇよ、気にすんな。それより、今を楽しもうぜ?」
 俺の言葉に少し考えて、はい、と笑った牧の顔が、花火に照らされる。自分で言った言葉に感慨深くなって、視線を花火に戻した。
 今を楽しもうぜ、なんて俺自身はちっとも思えていないのにな、と思う。実際先のことばかり考えている。1年後は?3年後、5年後……。自分がどうなっているのか、いや、どうなっていたいのか。そう考えて今の生き方を決めるべきだ。ずっとこのまま、というわけにはいかないのだから。少なくとも牧の卒業を見届けた後、どうするかは俺の選択になってくる。
 「綺麗〜!いい思い出になったね、お姉ちゃん」
 「本当。このまま時間が止まればいいのに」
 花椿姉妹の会話が自然に聞こえてきて思考が途切れて、2人の会話に耳を傾けた。
 「え〜困るよぉ!まだまだ色々あるんだから!」
 花椿姉に妹の方が反論して、楽しげな声を続ける。
 「だって文化祭でしょ、クリスマスパーティーでしょ?なんと言っても、2年生は修学旅行があるんだよ?!これをせずに時間が止まってもらっちゃ困るよぉ〜!」
 確かにな、なんて呑気なことを考えて、はたと思い当たる。
 「牧」
 「……はい」
 目を見合わせて問題を共有した。
 そうだ修学旅行だ。修学旅行といえば大部屋で寝泊まりすることになる。
 睡眠中牧は、大人の姿に戻る。






 続く